Episode 59
いくらパトリックの足を引っ張ろうと躍起になっているからといって、婚約者のイライザにちょっかいをかけようとするなんて、考えることが下劣すぎる。
「どうしてそういう人たちって、自分が努力しようと思わないんでしょうね?足を引っ張るとか、そっちの方向にしか物事を考えられないから、選ばれないんですよ」
社畜OL時代の苦労も思い出され、自然と言葉に力が入る。努力してやっと取ってきた仕事なのに、色仕掛けしたんじゃないかだの、最後まで完遂できなかったら困るから自分に渡せだの。わざと大事な連絡を伝えてもらえなかったなんてこともあったな。そういう嫌がらせや誹謗中傷してくる奴らに限って、自分の仕事をちゃんとこなしていなかったり、人に押しつけていたり、努力してるとはほど遠い奴ばっかりだった。ああもう、本当にムカつく!
「その通りだな。自己研鑽を怠っておきながら、選ばれた者を妬んだり非難したりする奴は多い」
パトリックも溜息交じりに頭を掻いた。麗しい顔が不快なことを思い出したように歪む。
パトリックも沢渡部長時代、きっとたくさん妬みの的になってきたに違いない。努力して成果を上げている人を妬み、陥れようとする人たち。若くして出世していた沢渡部長の陰口を言っているのは、そういう人たちがほとんどだった。
「負けたくないですね。そんな人たちに」
私はぎゅっと唇を噛む。
「そうだな。負けたくない。だから俺たちは、まっとうな方法で自分たちの場所を勝ち取ろう」
「ですね」
力強く頷く。卑怯な奴らになんか、絶対に大切なものを脅かされるもんか。
「私、あいつらにつけ込ませるようなこと、絶対にしません。パトリック様の言う通りにしますし、もうこれ以上ないってくらいに警戒します!」
「うん。一緒にここを乗り切ろう」
「はい!」
一緒に、とパトリックが言ってくれたのが、改めて嬉しかった。転生してから、二人で色々な問題を乗り越えてきた。私たちはもう、立ちはだかる問題をちゃんと二人で乗り越えるべきだということを知っている。
「よし。じゃあ対策を練ろう。婚約披露パーティーはもちろん、立太子するまで、完璧にやりきるぞ。正直、王太子になんてなりたいわけじゃないが、この世界でイライザと一緒に幸せになるなら、平和で暮らしやすい国は必ず守りたい。それを邪魔する奴は蹴落としておくべきだからな。あの第二王子を担ぎ上げようとしている連中なんて碌なもんじゃない。自分の利権しか頭にない奴らばかりだ。そういう奴らに力を持たせないためにも、俺が王太子にならないと」
「パトリック様が王太子に、ゆくゆくは王になる国なら安心です。私も全力でお支えします!」
前のめりになる私の頭を、パトリックが優しく撫でる。大きな手から温かな感情が伝わってきて、胸がじんと熱くなる。
「うん。頼りにしてる」
パトリックの言葉が嬉しくて、私は大きく頷いた。
その後お父様たちがパトリックの執務室に迎えに来るまで、私たちは今後の身の回りの警備体制や、第二王子に遭遇した時の対処の仕方、第二王子とのスタンスなどについて、認識の齟齬がないように徹底的に摺り合わせをした。
お父様とアンドレが来てからは、現在の状況を説明し、二人にも協力を仰ぐ。
「なるほど、承知いたしました。私たちも全力でイライザを守ります」
「ご協力感謝いたします」
パトリックがほっとしたように眉尻を下げる。お父様たちにも今の状況を共有できたのは大きい。お父様たちの力を知っているから、これほど心強い味方はいないと断言できる。しかも、お父様は娘の私を溺愛しているうえに、パトリックの強火担。第二王子派は迂闊な行動を控えないと、本当に危ないと思う。
「どうかパトリック殿下も身の回りにお気をつけください。第二王子派は浅慮な連中が多いですから、私たちがあり得ないと思うようなことをしでかす可能性もあります」
お父様の言葉に、パトリックが再び表情を引き締める。確かに、考えが浅い人って何をするかわからない。パトリックに何かあったらなんて、考えたくもない。私も隣のパトリックを見上げて、何度もうんうん、と頷いた。
「そうですね。私も注意します」
そんな私の様子に少し微笑みを浮かべ、パトリックも頷いた。




