Episode 55
「ご機嫌麗しゅうございます、第二王子殿下」
私はできる限り美しく見えるようにお辞儀をした。実際のところ王太子はほぼパトリックに決まっているとはいえ、敵になる人物に隙を与えたくない。私がパトリックの足を引っ張るなんてことには絶対なりたくないからだ。
「イライザ嬢はいつ見てもお美しいですね」
そんな私の心中を知ってか知らずか、第二王子がにやにやと笑いながら階段を降りてきた。
この第二王子は、王子という立場でありながら、ラブソニの攻略対象にはなっていない。だからなのか、まあ当然というべきか、まったくぱっとしない人物だ。エピソードとして、パトリックを王太子に推す第一王子派と、ごく少数の第二王子派、第三王子派があるっていう話がちらりと出てくるくらいで、ゲームにはビジュアルすら出てこなかった。私も王城で何度か遠目に見たくらいで、こうして顔を合わせるのは初めて。この人に対する知識が圧倒的に少ないから、あまり関わりたくない。公爵令嬢のくせに、そんなことも知らないのか、と襤褸が出ても困る。
それにしても、この国は一夫一妻制で、国王ですら側妃はいない。つまり、パトリックとまったく同じ親から生まれているはずなのに、ここまでぱっとしないのは何故だろう。髪色や瞳の色は一応パトリックと同じなのに、なんかちょっとくすんで見える。全体的にキラキラしてないんだよなー。顔は整っていないわけじゃないけど、すべてにおいて普通っていうか…。これが攻略対象とモブの違いなのかな。
歳は確か、イライザたちの2歳下のはず。アンドレと同じ学年だ。あの学年の首席はアンドレだけど、この第二王子の成績ははどうなんだろう。優秀って話が聞こえてこないってことは、あまりたいしたことないのかも。
あれ?そういえば、アンドレはモブどころかゲームでは存在すら明かされていなかったのに、かなりのイケメンだよね。なのになんだろう、この第二王子の残念な感じは。制作者の愛情が足りないんだろうか?それともパトリックとの対比のために、こんな感じになってるのかな。
――っていうか、さっきから名前が思い出せないんだよね…。ゲームで名前出てきたっけ?たぶん出てきてないよね。ってことは、やっぱパトリックを引き立たせるためだけに用意されてたキャラなんだろうな。
第二王子の名前、王妃教育の時にちらっと聞いたような気はするけど、あまりに眼中になかったから思い出せない。まあ、名前を呼ぶことはないはずだから、今日のところはどうにかなるよね…。
「申し訳ございませんが、私は予定がございますので、失礼いたします」
色々考えを巡らせていることを悟られないよう、私はだいぶ板についてきた公爵令嬢スマイルを浮かべ、頭を下げた。さっさとこの場を切り上げたい。
「ああ、お忙しいイライザ嬢をお引き留めするわけにはいきませんね。せっかく会えたから、もっと話したかったけど、仕方ない。今度兄上も一緒に、お茶でもしましょう。それではまた」
第二王子はなんか感じが悪いにやにや笑いを浮かべたまま、手を上げて階段を降りていった。なんだろう、鳥肌が立ってるわ…。できれば今後も関わり合いたくないな。第二王子が絡んでくるエピソードなんて、ラブソニにはなかったはずだから、何事もないといいんだけど…。でも、だいぶゲームと展開違っちゃってるから、油断はできないな。
私はそっと溜息をつきながら第二王子の後ろ姿を見送ると、階段を上って王妃教育に使われる部屋に向かった。




