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Episode 49

「パトリック様が開会式で挨拶をされたステージで、アンジーさんも白魔法を披露されるんですよね?」

「そうだね。ステージは広場の中心にあるし、一番目立つから、あそこで披露するのがいいだろうね。時間は、少し薄暗くなってきた頃が望ましいかな。白魔法の輝きがより目を惹くだろうから」

「そのあたりも、ノバック伯爵と打ち合わせておく必要がありそうですね」

 今日も服装は平民風だが、フェスティバルを楽しむ目的でここに来ていないので、護衛の人たちも近くにいる。私たちは王子&公爵令嬢モードで会話をしながら歩いていた。

 広場に着くと、アンジーが白魔法を披露する予定のステージでは、花冠をした女の人が歌を披露していた。きれいなソプラノが響き渡り、露店を覗いていた人々も耳を傾けている。

「この広場、音響がいいんですね。アンジーさんが白魔法を披露する時に、音楽を流したらどうでしょうか?」

「確かに、魔法をより引き立たせる音楽があれば、さらに神秘性が増して人々を魅了できるかもしれないね。フェスティバル執行部に音楽に詳しい者がいないか、それも確認してみよう」

 やっぱり、こういう話をパトリックとするのは楽しい。結局私は、仕事するのが好きなんだろうな。前世の沢渡部長とのやり取りを懐かしく思いながら打ち合わせをしていると、見るとはなしに、花冠をした女の人が多く行き交うのが目に入ってくる。

「なんだか花冠した女性が多くないですか?昨日はこんなに見かけなかったような…」

 思わず呟くと、パトリックが笑った。

「昨日のイライザの影響みたいだよ。イライザが花冠をした姿がとても美しかったから、真似をする女性が急増したらしい。あの男の子の父親のお店も大盛況だと報告を受けているよ」

「そうなんですか?確か昨日、あの子の提案で花冠を贈ってくださいましたよね。あの子…かなり商才がありそうですね」

 たった一日で流行を生んでしまうとは。まあ、パトリックが編んでくれた花冠のクオリティも高かったし、それを超絶美女のイライザが被って歩いていたら、それは人目も惹くというものだろう。そういえば昨日、花屋さんを出た途端、花冠に熱い視線が送られてたもんね。自分が今はそれだけ影響力のある存在だってこと、ちゃんと自覚しとかないといけないな…。


 昨日パトリックからもらった花冠は、長持ちするように保存魔法をかけて部屋に置いてある。アンジーの様子を見たり、打ち合わせをしたりする予定だったから被ってこなかったけど、被ってくるべきだったかな。逆に花をつけていない方が目立ってしまうかも。

「打ち合わせはだいたい終わったし、ノバック伯爵が来る前に昨日の花屋に行こうか。今日の分の花冠を贈らせてほしい」

 私が考えていることなんて、パトリックにはお見通しのようだ。

「昨日いただいた花冠があるのに、申し訳ないですわ」

「ちゃんと新鮮な花で作った花冠を贈りたいから、そうさせてくれると嬉しいな」

 そんな風に言われたら断れない。さすがの気遣いに舌を巻きながら、私は頷いた。

「それでは、ありがたくいただきたいと思います」

「うん。じゃあ行こう」

 パトリックが私の手を取り、私も笑顔でパトリックと歩き出した。


 花屋は聞いていたとおり大盛況で、男の子の父親も男の子も、忙しそうに動き回っていた。店の奥には数人の男の人が座り、真剣な顔で花冠を編んでいる。きっと大切な人に贈るんだろう。

「こんにちは」

 花を運んでいた男の子に声をかけると、男の子がぱあっと嬉しそうに笑った。

「綺麗なお姉ちゃん!今日も来てくれたんだね!」

「ええ。とっても忙しそうね」

「うん!お姉ちゃんのおかげだよ!昨日お姉ちゃんたちがお店から出て行ってからすぐに、さっきのお嬢さんが被っていた花冠がほしいって人がたくさん来たんだ!お兄ちゃんがポケットに挿していった青い花もすごく人気なんだよ!」

「そうだったのね」

 そういえば、黄色い花の花冠が圧倒的に多かったけど、青い花の人もかなりいた気がする。パトリックが身につけていたなら、それはそれは目を惹いただろうから、当然の結果だよね。

「へえ、それは光栄だね。じゃあ今日はその青い花で花冠を作って彼女に贈りたいんだけど、いいかな?」

「うん!花を用意するね!お兄ちゃんは花冠、もう自分で編めるよね?」

「ああ。花だけ用意してくれれば大丈夫だよ」

「わかった!じゃあ、今日はお姉ちゃんが黄色い花をお兄ちゃんに贈る?」

「ええ、そうするわ」

「はーい!じゃあ、黄色い花も用意するから待っててね」

「ありがとう」


 パトリックは男の子が用意してくれた青い花で、綺麗な花冠を編んで頭に被せてくれた。私も黄色い花を昨日男の子の父親がしてくれたように、小さな花束にしてパトリックの胸ポケットに挿す。会計をして男の子に手を振ると、私たちは花屋を後にした。

「こうして意識してみると、道行く人たちの視線をひしひしと感じますね」

 どうして昨日は平気だったのかと思うほど、私たち二人に視線が集まるのを感じる。

「それだけ昨日は楽しかったんだろう。人の視線なんて気にならないくらいにね。少なくとも僕はそうだったよ」

 パトリックが爽やかな笑顔で私を見下ろした。

「そうですね。私もとっても楽しかったです」

 私も笑顔を返すと、手を繋いで羨望の眼差しを浴びながら広場に戻った。

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