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Episode 47

「今年のサマーフェスティバルを、より特別なものにしませんか?私の提案を受け入れてくだされば、必ず今年のサマーフェスティバルは、後生まで人々の記憶に残るものになるでしょう」

 パトリックはノバック伯爵に、蕩々と語り始めた。

「現在この国で唯一の白魔法の使い手である彼女の魔法を実際に目にすることができる機会など、そうそうあるものではありません。そんな貴重な機会を得られた人たちは、きっと今年のサマーフェスティバルがどんなに素晴らしいものであったかを、後々まで語り継ぐでしょう」


 アンジーに白魔法を披露させる場を得るための交渉は、パトリックの隙のないプレゼンによってすんなり成立した。

「殿下のおかげで、私も伝説が生まれる場に立ち会うことができそうです」

「ええ。必ず素晴らしい結果をお見せできるはずです。――それでは明後日、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いいたします!最高の舞台をご用意させていただきます!」

 満足気に微笑むノバック伯爵と別れ、私たちは続いてメリッサの父親、魔法省大臣のもとへ向かった。何のことはない、サマーフェスティバルを訪れている貴族たちのほとんどがこのホテルに泊まっているらしく、魔法省大臣は、私たちが宿泊しているフロアの一つ下の階の部屋に滞在していた。

 休暇中の急な訪問とはいえ、先触れを出してあったため、部屋を訪れた私たちを、大臣は笑顔で出迎えてくれた。


「なるほど。白魔法の使い手が、フェスティバルの閉会式で魔法を披露すると…」

「はい。彼女は非常にレベルの高い白魔法の使い手です。ですから、できるだけ早く国家魔道士として認定し、国のために尽力してもらいたいと思っているのです。もちろんこの考えは、陛下もご承認くださっています」

「貴重な白魔法の使い手が、万が一にも他国に渡るようなことがあってはなりませんからな。貴族ではないからこそ、早々に国家魔道士に認定し、その地位を確立して国に留めるべきだという殿下のお考えはごもっともです。――承知いたしました。明後日、私自ら彼女の魔法を見定めさせていただきましょう」

「ご理解いただけてよかった。せっかくの休暇中にお願い事をしてしまい申し訳ないですが、よろしくお願いいたします」


 笑顔で握手をするパトリックと大臣を見て、私は胸を撫で下ろした。まあ、パトリックが交渉をする時点で、計画が失敗することはないはずだと思ってはいたけど、やはりきちんと交渉が成立するのを見ると安心する。

 さあ、これでアンジーのための舞台は整った。後はアンジーに頑張ってもらうだけだ。

「アンジーさんたちの様子、もう一度見に行きますか?」

 魔法省大臣の部屋を出て、廊下を歩きながらパトリックに聞いてみる。後ろから護衛の人たちがついてくるので、公爵令嬢然とした口調を意識している。

「いや、アンジー嬢たちには別の者が説明に行くから大丈夫だよ。僕たちは明日また様子を見に行こう。それより、そろそろ花火が上がる頃だろうから、僕たちも一度部屋に戻ろうか。部屋から花火がよく見えると聞いたよ。イライザも疲れただろうから、ちょっとゆっくりしよう」

 パトリックも完璧な王子様スマイルで返してくれた。

 大臣と話している間に部屋に明かりが灯るほど、二つの交渉を終えた今、外はすっかり暗くなっている。私はパトリックの交渉の場に一緒にいただけで何もしていないけど、確かに気疲れはしてたので、部屋に戻れるのはありがたかった。

「お気遣いありがとうございます。花火、楽しみですわ」

 できる限り品よく笑って、エスコートのために差し出されたパトリックの腕に手を添えた。


 部屋に戻ると、私たちは窓際に設えられたソファに座り、一息ついた。お茶を入れてくれた側近の人がリビングルームの灯りを落として下がると、まるでタイミングを見計らっていたかのように窓の外で花火が上がり始めた。

「わあ、本当によく見えますね。魔法で上げているからか、前の世界の花火よりキラキラしてる気がします」

「本当だな。どんな仕掛けになっているのか、今度資料を読んでみよう」

「さすが、勉強家ですね」

「魔法の才に秀でている設定の王子としては、そのくらいは知っておかないとまずいだろう」

「じゃあ、私も一緒に読みます。私だって第一王子の成績優秀な婚約者なんだから、そのくらい知っておかないとまずいと思いますし」

 私の言葉に、パトリックが笑う。飾り気のないその自然な笑顔に、妙に胸がときめいた。それを悟られないように、私はまた、窓の外の花火に目をやる。

 静かな部屋に、花火の音だけが響く。私たちは絶え間なく上がる花火の輝きにゆらゆらと照らされながら、しばらく無言で花火を見つめていた。

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