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Episode 42

 パトリックの側近の人からの報告を聞いて、私は凍りついた。

「リアム様が…お見合い?」

 リアムは護衛を交代するなり、迎えに来たクロフトン侯爵家の馬車に乗せられ、サマーフェスティバルの主催者であるノバック伯爵の邸に連れて行かれたらしい。リアムの母のクロフトン侯爵夫人が密かに手を回し、ノバック伯爵家令嬢とのお見合いの席が用意されていたというのだ。

「おそらくリアム様は、自身がお見合いをすることはご存じなかったのかと。迎えに来た馬車に乗るのを躊躇っていたそうですし、ノバック伯爵邸前で侯爵夫人と言い争う姿が見られたようですから」

 そりゃ、リアムはアンジーが好きなんだから、進んでお見合いなんてするはずない。――ということは、アンジーとの婚約話はうまくいっていないということだ。少なくとも侯爵夫人は反対している。

「私のせい…?」

 思わず言葉が漏れていた。

 

 リアムルートは、ある意味一番平和的なルートといえるかもしれない。他国との揉め事が絡み、窮地に立たされながら白魔法の力を強くしていくパトリックルートやアランルートと違い、リアムルートで最大の障壁となるのは、悪役令嬢であるイライザだ。イライザによる数々の嫌がらせや妨害、そして学園での競り合いを乗り越えることで、リアムとの絆が深まりアンジーの白魔法は強化される。それはつまり、イライザの役割がかなり大きいということ。なのに、私が早々に婚約破棄をして役割を放棄してしまったせいで、きっとアンジーの白魔法の能力はクロフトン侯爵家に認められるようなレベルに達していないんだろう。

 自分のことで手一杯で、アンジーたちがどうなっているのかまで、まったく気に掛けることができなかった。ゲームのシナリオを大きく変えてしまっているのなら、ちゃんと変えたことによって起こる事態に対処できるように気を配るべきだったのに。


「イライザ」

 側近の人を下がらせたパトリックが、心配そうに私の顔を覗き込んだ。

「イライザだけのせいじゃない。俺にも責任がある。イライザとリアムが婚約破棄するようにリアムに圧力をかけておきながら、その後の二人を気に掛けていなかったのも一緒だ。だから自分を責めるな。それよりも、これから二人のために何ができるのかを考えよう」

「そうですよね。今さら後悔してもどうにもなりませんもんね…」

 私は力なく頷いた。どうにもならないこととはいえ、罪悪感が消えない。

「確かリアムルートでは、アンジーは白魔法を国に認められるレベルにまで成長させて、国家魔道士に認定されていたよな。だからクロフトン侯爵夫人もアンジーを認めた。それなら、国家魔道士に認定されるレベルまでアンジーを鍛えるしかないな。学園の試験で結果を残せば国家魔道士に認定されることも可能だが、夏期休暇に入っている今、学園でアンジーの実力を認めさせるのは早くても一月以上先になってしまう。もっと早くどうにかできないか、一緒に方法を考えよう。アンジーの白魔法の力を高めることも含めて」

 暗い顔をした私を気遣ってか、パトリックがぎゅっと私の手を握った。

「そもそもアンジーは、今日リアムがお見合いさせられたことを知っていたんでしょうか?だからさっき、あんなに寂しそうだったのかな…」

「おそらくリアムとどこかで待ち合わせしていたんだろうから、待ち合わせに行けないという連絡はリアムからしただろうな。使いを送ったと考えられるが、その使いがクロフトン侯爵夫人の息がかかった者なら、見合いをすることを敢えて伝えているだろうな。身分が釣り合わないのだから、身を引けと暗に伝えるために」

「アンジー…大丈夫でしょうか」

「護衛を置いてきたから、その身に危険が迫る心配はないだろうが…」

「この後、アンジーに会いに行けませんか?白魔法の力を高めるためにどうしたらいいかも、私たちならアドバイスできると思うし…」


 きっと今頃、アンジーは打ちひしがれているはずだ。リアムがアンジーに会いに行けていればいいけど、お見合いの席に引き留められてしまっていれば、まだ会えていない可能性は高い。貴族という立場上、家同士の繋がりも蔑ろにできないから、ある程度体裁は保たなければならないだろうし…。ん?でもリアムはとにかく真っ直ぐな性格だから、アンジーが好きなのにお見合いを素直に受け入れはしない気がする。それなら今頃、相手にもそれをはっきり伝えているのかな…。

「いろいろな可能性は考えられるが、とりあえずアンジーの様子を見に行くか?」

 私がリアムの状況についてぐるぐる考えていることは、きっとパトリックはお見通しなんだろう。私の手を握ったまま立ち上がる。

「はい。ありがとうございます」

 私の気持ちに配慮してくれるパトリックに感謝し、寄り添ってくれるその姿勢にほっとしながら、私も立ち上がった。

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