Episode 38
サマーフェスティバル当日。
雲ひとつない青空の下、主催者のノバック伯爵によりフェスティバルの開会が宣言された。
パトリックは相変わらず人の心を惹きつける挨拶とその美貌で、広場に集まった群衆を魅了。
「第一王子殿下のお言葉が聞けただけで、もう満足すぎるほど満足だわ」
「なんてお美しいのかしら。そのうえあれほどの才人でいらっしゃるなんて」
パトリックを褒め称える言葉が其処彼処で聞こえる。
「パトリック様、お疲れ様でした。素晴らしい挨拶でした」
ステージから降りてきたパトリックに拍手を送ると、パトリックは輝くような笑顔を見せた。こういう笑顔はいかにも王子様!といった感じで、沢渡部長っぽさは影を潜める。文字通り眩しすぎて、思わず目がくらんでしまうほどだ。
「イライザ、挨拶は終わったし、これからは自由にフェスティバルを見て回れるよ。さあ、行こうか」
さすが最推し。毎日顔を見ているのに、心臓に悪いほどイケメンだ。ときめきにきゅうっと音を立てた胸を押さえ、私はなんとか頷いた。
「はい、参りましょう、パトリック様」
「いらっしゃい!お嬢さん、アイスクリームはどうだい?」
「名物のガーリックシュリンプだよ!これを食べなきゃナウパカに来たとはいえないよ!」
「ナウパカ特産の紅真珠のアクセサリーはいかが?」
賑やかな呼び込みの声が溢れる広場を散策する。さすがに先程挨拶をしたばかりの王子が歩き回るのは色々と大変な事態になりそうなので、パトリックは以前街歩きデートをした時と同じように、平民カップルの街歩きデート風の服装に着替え、魔法で髪色もダークブラウンに変えた。もちろん私も同様に、目立たないように着替えて髪色も変えている。
「ナウパカの服って可愛いですよね。ボタニカルなモチーフや海のモチーフが多くて、ハワイがモデルになってる感じ。ワンピースは風通しがよくて、動きやすいです」
ナウパカの雰囲気に合わせて、地元の女の子たちがよく着ているお店のワンピースを用意してもらった私は、ひらひらと風に揺れるワンピースの裾を少し摘まんでみせた。
「そういう服もよく似合うよ。確かに、ナウパカの服は風通しがよくて気持ちいいね」
ウルトラマリンブルーを基調としたアロハシャツっぽいシャツを着たパトリックも、爽やかでかなりいい。これはスチルにもなかったコーディネートだ。サマーフェスティバル万歳!
私は最推しの尊さに感謝しながら、フェスティバルの雰囲気を堪能した。
「あの、昨日の男の子のお父さんがやってるっていう、お花屋さんに行きたいんですけど、いいですか?明日行くねって約束したので」
私が聞くと、パトリックが機嫌よさげに頷いた。
「もちろん。イライザが行きたいところに行こう。ただし、人が多いから、ちゃんと手をつなぐこと」
私の手を取る仕草も、ものすごく自然になってきた気がする。そして私も、そうされることにドキドキしながらも、すごく嬉しい。ちゃんと恋人同士になっていってるんだな、と、突然妙に実感が湧いた。
なんとなく気恥ずかしくて周囲を見回すと、少し離れたところにやはり平民のような服を着たリアムがいるのに気づいた。
そうか、今日は半日リアムが護衛につくって言ってたもんね。アンジーもきっとどこかにいるんだろうな。午後は二人もフェスティバルを楽しめるといいな。
「こら、他の男に見蕩れてないで、さっさと行くぞ」
ちょっとリアムを見ていただけなのに、パトリックに低めの声で囁かれ、私ははっとしてその顔を見上げる。少しだけおもしろくなさそうな顔をしたパトリックと目が合った。
「見蕩れてなんていませんよ。アンジーもどこかにいるんだろうなって思ってただけです。見蕩れちゃう人は既に隣にいますから。あれ?意外とヤキモチやいちゃう人ですか?」
私がからかうように言うと、ちょっとパトリックの耳が赤くなった。
「大城に対してだけな」
ぼそっと呟き、私の手を握っている手に力がこもる。久しぶりに大城って呼ばれて、なんだかさらにドキドキしてしまう。
「い、行きましょうか」
照れを隠すように笑うと、私はパトリックの手を引いて、昨日の男の子のお父さんの店がある方に向かって歩き出した。




