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Episode 33

 アスター帝国の皇帝は廃位のうえ処刑され、新たに反武力派の皇族が帝位に就いた。最初は前皇帝を辺境に幽閉するとの案もあったけれど、存在しているだけで恐怖の対象となってしまううえに、再度権力を取り戻そうと動かれてしまえば、いつまでも平和は訪れないだろうとの判断だそうだ。

 新皇帝の下、アスター帝国は平和路線への舵が切られ、属国とされていた国々の独立に向けての動きも進んでいるらしい。まだまだ前皇帝派だった貴族たちからの反発もあるだろうけれど、それは少しずつ解決していくしかないだろう。皇女のパトリックへの輿入れの話もなくなり、とりあえず目的は果たせた。


「アスターの皇女、実は反武力派の貴族に思い合ってた奴がいたらしい。彼女にとっても、この結婚がなくなったことは喜ばしかったようだ」

 アスター帝国の新皇帝からの話を、パトリックが教えてくれた。皇族とか王族って、きっと前世の私たちみたいに自由に結婚することは難しいんだろうけど、それぞれみんなが少しでも幸せな結婚ができるといいと思う。


 私はといえば、あの時突然黒魔法を使えたことがかなり稀有な事例だったみたいで、魔法学者の人たちから、お父様やアンドレも巻き込んで色々事情を聞かれた。何故使えたかは未だにわからないけど、やっぱり遺伝的要素が大きいのだろうとのことだ。ほんの僅かな素質の欠片が、危機的状況に反応して現れたのかもしれない、というのが今のところの学者さんたちの見解らしい。あの時の力は凄まじかったみたいなんだけど、その後は全然で、アンドレと一緒に修業を受けることになった。結局、あれは火事場の馬鹿力的なものだったのかなー、って思ってる。


「黒魔法が使える王妃とか、すごいじゃん。イライザもチート持ちになるとはな」

 何度目かの聞き取りで王城を訪れ、公爵邸に帰る馬車の中、パトリックが笑った。気を利かせたつもりか、お父様とアンドレは別の馬車に乗っている。王家の広い空間を持つ馬車なのに、パトリックは当然のように私の隣に座っていた。

「黒魔法を使えるっていっても、あれ以降はまったくですよ。アンドレにおいてかれそうです」

「でも、大城ならちゃんと頑張るんだろ?」

「それは…ハイスぺなパトリック様に相応しい婚約者になりたいですし?まあ、黒魔法を極めたところで、使い手だって公表できませんけど」

「今のままでも十分認められてるよ。あの時大城がまとめた書類見て、臣下たちが青ざめてたからな。自分たちより王子の婚約者の方が仕事ができるんじゃ、首が飛ぶかもって」

「それは過大評価では?そもそも、沢渡部長の指導の賜物ですから」

「厳しすぎな上司で文句言われてたけどな」

「だって、毎日のように残業してましたし…。ブラック企業が聞いて呆れるほど真っ黒だったと思いますよ…。そりゃ文句のひとつやふたつ、出るでしょうよ…」

「だな。無理させてたって反省してる」

「わ、沢渡部長の口から反省なんて言葉が聞けるとは」

「失礼な奴だな」

 軽口を叩き合って笑い合う。頑張ってよかったな。一緒に乗り越えられて、よかったな。


 私たちの婚約披露パーティーも、無事約三ヶ月後と日程が決まった。準備やら何やらで、さすがにパトリックが最初に言ってた一ヶ月後は無理があったみたい。そりゃそうだよね、王太子に限りなく近い立場にいる第一王子の婚約披露なんだから。パーティーの詳細はこれから決めてかなくちゃいけないから、まだまだ忙しい日々が続きそうだ。


「そういえば、私まだ王妃様にはお会いしてませんよね?どんな方なんですか?」

「ああ、王妃様ね…」

 パトリックが複雑そうな顔をする。え、もしかしてまた試練?私が青ざめると、パトリックが噴き出した。

「感情が顔に出過ぎ。第一王子の婚約者の公爵令嬢のくせに、そんなんじゃ悪い奴につけ込まれるぞ」

「普段はもっとちゃんとしてますー!こんな風に表情を動かすのは、パトリック様の前だけですから!」

 むっとして私が言うと、くすくす笑いながら、パトリックが頷いた。

「知ってる。からかっただけ。感情豊かな顔してると、大城感が増すから、つい」

「つい、じゃないですよ!めちゃくちゃ不安になったじゃないですか!で、結局どうなんですか、王妃様」

「大丈夫。普通にこの婚約にも賛成してるし、悪役キャラとかじゃ全然ないから。王妃の大変さをよくわかってる人だし、優しい姑さんになるんじゃないか?」

 それを聞いてほっとする。さすがに次から次へと試練が続くのは、一旦勘弁してほしい。これからも楽な道じゃないのはわかってるだけに。近々妃教育ってやつも始まるみたいだし。


「悪い。意地悪し過ぎた。許して」

 パトリックがそう言って私の瞳を覗き込み、頭をポンポンと撫でた。そうやって私を照れさせて誤魔化す気だな。そうはさせないぞ、とばかりにじろりと睨みつけると、さっと唇を塞がれた。

「だから、そういうゲームのイライザが見せなかった表情されると、ああ、この顔大城らしくてそそる、って抑えが効かなくなるんだよ」

 耳元で囁くパトリックの声が、沢渡部長の声と重なって聞こえる気がした。そう思ったらもう、流されてしまうしかなくなる。もう一度降ってきたパトリックのキスに、私は目を閉じて応えた。


 私がパトリックを通して沢渡部長を感じているのと同じように、沢渡部長もイライザを通して私を感じてくれていることが嬉しい。前世であのまま仕事漬けの毎日だったら、絶対に得られなかっただろう幸せな感情。


「私、沢渡部長と一緒にこの世界に転生して、よかったって思ってます。不安なことや大変なことがあっても、沢渡部長となら大丈夫って思えるんです。転生前は、こんな気持ち知りませんでした」

「俺も同じ。転生をきっかけに、やっと大城に気持ちを伝えることができて、大城からも気持ちを返してもらえた。今なら何があっても絶対に二人で乗り越えられるって感じてる」

「これからも、二人で頑張りましょうね。必要なら、またいつでも残業しますから」

「指導はこれまで通り、厳しくいかせてもらうからな」

「望むところです。社畜魂、舐めないでくださいよ」

 目を合わせて笑う。私たちは手を握り、身体を寄せ合った。

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