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Episode 21

「何か、言いたいことがありそうだな?」

 私の複雑な表情を読み取ったのか、パトリックがずいっと顔を近づけてきた。なんで気づいちゃうかな…。本当、この人に隠しごとはできないな。

「いえ、別に何も…」

「なんだよ。ちゃんと話せ。何か言いにくいことなのか?俺が何かしたか?」

「パトリック様は何もしてません!ただちょっと…。過去のこととか?考えちゃっただけで…」

「過去?まさか、大城の元カレのことでも思い出してたのか?」

 パトリックの顔が険しくなる。

「ちっ、違いますよ!元カレのことなんて、全然!正直今の今まで忘れてました!むしろ、沢渡部長の元カノのことを…って、何でもないです!」

「俺の元カノ?なんで今?」

「いや…。沢渡部長モテてたし、お付き合いとか慣れてそうだし、きっと元カノもいっぱいいて、その方々にも優しくしてたんだろうな…なんて、考えてしまいまして…」


 うわ、私めんどくさい奴じゃん!言ってて恥ずかしくなってきた!何なの私!学生時代の元カレにだって、こんな感情抱いたことなかったのに!

「――それは…、嫉妬してるってことか?俺の元カノに」

 じっと瞳を覗き込まれて、私は俯く。ああ、もうやだ。なんでこんなこと言っちゃったんだろう。絶対ウザいと思われてる!

「あの、ごめんなさい…」

 俯いたまま謝ると、盛大なため息が聞こえた。あ、呆れられた…?どうしよう。

「お前は、俺の理性を崩壊させようとしてんのか?そういうのは、二人だけのところで言えよ。ここじゃ何もできないだろ…」

 ん?思っていたのとは違う反応に、ちらっとパトリックを見上げると、天を仰ぎ額に手を当てたパトリックの姿。あれ、これ、今朝も見たな。

「嫉妬とか、可愛いことするなら、二人だけの時にしろって言ってんの!」

 ぐいっと他の席に背を向けるように抱き寄せられ、ちゅっと手早くキスされる。

 ちょっと、お客さんいっぱいいるのに!一気に耳まで熱くなる。

「ここじゃこれが限界だろうが!生殺しか?俺を試してんのか?」

「そんなわけないじゃないですか!こんなとこでいきなり何するんですか!」

「お前が可愛いこと言うからいけないんだ。大城に嫉妬される日が来るなんて…」

「し、嫉妬って!だって、気になっちゃったんだからしょうがないじゃないですか!」

「だからそれって、俺の過去が気になるほど、俺のことが好きになってるってことだろ?」


 ――えっと…そういうこと?わわわ、そういうことか!もはや顔から火が出てるんじゃないかと思うくらい熱い。死にたい!恥ずかしすぎる!

 恥ずか死寸前の私の頭を、パトリックがわしゃわしゃする。

「確かに、元カノはいたけど、お前のこと好きになる前までだから、ここ三年くらいはいなかった。それに、俺から好きになって付き合ったのはお前が初めてだから。これまでは向こうから付き合ってって言われて付き合って、俺の態度に勝手に冷めて離れてくって感じの付き合いしかしてこなかった。だから、こんな風に好きなことに付き合って喜ぶ顔が見たいと思ったのも、どろどろに甘やかしたくなるのも、全部お前だけだ」

 そっと顔を上げると、顔を背けて窓の外を見ているパトリックの耳も赤い。沢渡部長も照れてる?あの部長が?

「本当に…?頭ポンポンも、元カノさんたちにはしてないんですか…?」

「頭ポンポン…?あ、あれか。当たり前だろ。そんなことしたいと思ったのも、思わずしちゃってるのも、お前が初めてだっつーの」

 パトリックがわしわしと自分の頭を掻いた。あ、この癖、沢渡部長もよくやってた…。二人の姿が重なって見える。

「私、めんどくさくないですか…?」

「あれだけ恋愛に無関心だった大城が、俺のこと好きになってこんなこと言ってんだぞ。めんどくさいわけあるか」

 どうやら本当に、鬱陶しくは思われてなさそうだ。私は安堵のため息を漏らした。

「よかった…。私も、嫉妬なんてしたことなくて…。自分にこんな感情があるなんて思いませんでした…」

「お前…。だからそういう可愛いことを…。帰りの馬車の中、覚えとけよ…」

 パトリックが、さっきわしゃわしゃにした私の髪を、耳を赤くしたままのぶすっとした表情で整えてくれた。ぶすっとしててもイケメンなんて、ずるいな。


 できる限りの遠回りをしろとパトリックが御者さんに命じた帰りの馬車の中。

「俺がどんだけ我慢してたか、教えてやる」

 その我慢のほどが嫌と言うほど伝わるキスが繰り返されたのは、言うまでもない。私の邸に着く頃にはすっかりどろどろにされて、もう頭が回らなかった。ねぇ、加減ってあるでしょうよ…。


「明日は、王城で婚約披露の打ち合わせをしよう。ウォーノック公爵にも予定を空けてもらったから、その時間に合わせて迎えに来るよ」

 私が魂を抜かれたようになっている間に、さっさとお父様との約束を取り付けてきたパトリックが、爽やかにきらきらを振りまきながら馬車に乗り込む。見送る私の手を取り、指先にキスをした。

 相変わらず仕事が早いうえにそつがない。明日も、長い一日になりそうだ。

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