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Episode 20

 ――コンコンコン。

 ドアの音にはっと目を開ける。目の前に美しいパトリックの寝顔。まつ毛なっが…。


 どうやら、私たちはあのまま眠ってしまっていたようだ。窓から差し込む太陽の光も、朝のそれとは違い、太陽がだいぶ高い位置にあることを知らせている。


 コンコンコン。

 もう一度ノックが聞こえて、私は慌てて身体を起こし、返事をした。

「はい」

「お嬢様、昼食はいかがいたしましょうか」

 いつものメイド、マリーさんの声。どうしようかと隣に目をやると、ちょうどパトリックも目を覚ました。

「パトリック様、昼食、どうしますか?もう王城に帰らないとまずいですか?」

 私が聞くと、寝起きのぼんやりした瞳で見つめ返してくる。――まどろんだ無防備な姿、可愛すぎる…!

 本日二度目の破壊力満点な姿に、再び心臓を押さえる。

「昼食か…。軽くいただこうかな。今日は執務は休ませてもらうってしっかり言ってきたから、夕方までに帰れば大丈夫だし」

 ゆっくりと身体を起こしながらパトリックが言った。

 私がその旨をマリーさんに伝えると、

「承知いたしました。ご準備が整いましたら、またお声掛けいたします」

と下がっていった。


「ああ、本当に疲れがとれた気がする」

 ぐいっと伸びをしながらパトリックが言う。たぶん、眠っていたのは二時間弱くらいなものだろうけど、仮眠を取ってすっきりできたならよかった。私もなんだか、朝より身体が軽い気がする。安心して眠れたからかな。


 ベッドから降りたパトリックが、窓の外を見ながら言った。

「昼食の後、ちょっと街に出てみないか?」

 街…。あ、パトリックルートのデートシーン!可愛いお店もいっぱいあって、パトリックがとにかくカッコよくて、あのシーンは私の中の名シーンベスト3にもランクインしている。


 私の顔がぱあっと輝いたのを見て、満足気にパトリックが頷く。

「そう。あのシーン。初デートしよう」

「はい!」

 素直に嬉しくて、私は満面の笑みで頷いた。


 軽く昼食を取った私たちは、マリーさんたち曰く”平民カップルの街歩きデート風”の衣装に身を包み、街に出た。

 服装だけではすぐに第一王子とわかってしまいそうなパトリックは、目立たないように魔法で髪色をダークブラウンに変えている。軽装も文句なしのカッコよさ。さすが私の最推し。眼福だよー。

 私も、イライザの見事なブロンドでは目立ちすぎるため、同じようにブラウンに髪色を変えた。カラーリングいらないなんて、魔法ってなんて便利なんだ。

 マリーさんがささっと、公爵令嬢が絶対にしないようなシンプルなポニーテールにしてくれた。メイクもいつもよりナチュラルに。イライザもさすがのポテンシャル。こういうのもめっちゃ似合うじゃん!



 ゲームの中で見た可愛いお店たちが実際に目の前に並ぶ光景は、興奮以外の何ものでもなかった。

「パトリック様、私、あの小物屋さんに行ってみたかったんです!あ、あのお店のスイーツも気になってました!わあ、アクセサリーのお店もある…!どうしよう、全部行きたい…」

 大興奮の私を見て、パトリックが苦笑いする。それから優しく目を細めて、私の手を取った。

「そんなテンションのお前見るの初めてだな。いいじゃん、片っ端から行きたい店行こうぜ。回り切れなきゃ、また来ればいい」

 しまった、私、はしゃぎすぎだ…。元社畜OLの分際で、浮かれてすみません…。でも、この光景を見てはしゃぐなって方が無理がある。ラブソニの世界観そのままのキュートな街並みは、大好きなテーマパークだって霞んでしまう。だって、これが全部現実なんだもん。

「よし、じゃあまず、ここから行こう」

 パトリックが私の手を引いて、私が最初に指さした小物屋に入った。


 ひとしきりお店を巡り、歩き疲れた私たちは、市井で人気だとゲームでうたわれていたカフェで休憩した。

 一番奥の窓際の席も、ゲームでアンジーとパトリックが座っていた席だ。ヒロインどころか悪役令嬢だったイライザが、ここにパトリックと座ることになるなんて、誰が予想できただろう?

「これ、ゲームの中でアンジーが飲んでたやつ…!」

 鮮やかなブルーの飲み物に色とりどりのゼリーが入った、いかにも映えそうな飲み物を注文する。前世ではSNSなんてやってる暇もない社畜だったから、映えなんて気にしたこともなかったけど、ゲームの画面見ながら綺麗な飲み物だなって思ってたんだよね。

「聖地巡礼、最高…」

 私はあらためて街並みを見回しながら、うっとり呟いた。


「楽しんでくれてるようで、何よりだ」

 アイスコーヒーを飲みながら、パトリックが笑う。そうだ、夢中すぎて私の行きたいとこばっか回っちゃったよ!パトリック連れ回しちゃった。

「たくさん付き合わせて、すみません…。わたしばっかり楽しんじゃって…」

「イライザの楽しそうな顔たくさん見れたから、俺も満足」

 パトリックはゲームさながらのきらきらな笑顔で、いつもの頭ポンポンをしてくれた。


 頭ポンポンをされながら、沢渡部長の時は彼女の買い物に連れまわされるような印象はなかったけど、実際はどうだったのかな、なんて考えて、ちょっと胸がちくりとした。

 あれだけハイスぺでそのうえイケメンだったんだから、元カノの一人や二人や三人や四人…いなかったはずないよな。

 その人たちも、こうやって頭ポンポンされてたのかな…。

 ん?この気持ちって…。

「イライザ?疲れたのか?」

 パトリックが私の顔を覗き込む。

「いえいえ、大丈夫です!パトリック様こそ、お疲れでは?」

「俺はお前と一緒なら疲れを感じない」

 ま、またそういうことを臆面もなく…。さらっとこんなセリフが出てくるなんて、やっぱ慣れてるってことなのかな。

 また胸がチリっとした。

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