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Episode 11

 昼休み、メリッサとともに食堂に行くと、何やら人だかりができていた。

 人垣の合間からひょいっと覗いてみると、人の輪の中心にアンジーがいる。

「あなたがリアム様に近づいたから、イライザ様とリアム様が婚約破棄されてしまったのではなくて!?」

「庶民のくせに、貴族の婚約者に手を出すなんて!身の程知らずもいいところだわ!」

「白魔法の使い手だからって、調子に乗ってるんじゃないの!?」


 おいおいおい、君たちはどこの悪役令嬢だ。リアムどこ行ったんだよ。ちゃんと守ってあげなさいよ。さすがにこれは放っておけないぞ。

「どうかなさいました?皆様」

 思わず声を掛けると、その場の視線が私に集中する。さっきの悪役令嬢まがいの子たちの一人が、焦って口を開いた。

「イライザ様!――わ、私、イライザ様とリアム様が婚約破棄をされたとうかがって…。こ、この子が、原因なのではと…」

 うん、まあ、原因といえば原因なんだけど。でも、それだけじゃないしね。私の都合も多分に含まれていたんだから。これは何とかしないと。

 私は深呼吸をすると、彼女を見つめた。できるだけ冷静に、あまり彼女を責めすぎない感じで…。

「私とリアム様は、二人で話し合い、納得の上で婚約を破棄させていただいたのです。両家ももちろん承諾済みですし、陛下の了承もいただいております。何の問題もございませんわ。アンジーさんに否があるわけでもありません」

「そ、そうなのですか?で、でも、この子庶民のくせに、貴族に色目を使って…」

 色目ときたか。うーん、確かに婚約者のいたリアムと心を通わせちゃってるけど…。そこはもう、どうしようもないと思うんだよねー。不可抗力というか、シナリオの流れというか…。身分違いの恋ってのがラブソニのテーマだしなぁ。

「アンジーさんは、確かに貴族ではございません。ですが、とても優秀な白魔法の使い手です。この国にとって、必要な方なのですよ。私は、アンジーさんがこの学園に入ってきてくださったこと、本当に感謝しているのです。この国の未来のために、心細い環境の中で日々魔法の腕を磨いてくださっているのですから。――あなたはきっと、私の立場を案じてくださったのでしょう?それならば、私の気持ちを汲んでくださるはず。私は、皆様とこの学園で身分に関係なくともに学び、高め合えることを望んでおりますのよ」

 イライザらしい誇り高さを損なわず、それでも何とかアンジーに向けられた敵意を反らせるように言葉を尽くす。私の言葉を聞いて、エセ悪役令嬢ちゃんは、しゅんとして頭を下げた。

「イライザ様が、そうおっしゃるなら…」

 なんとかなったかな?こっちが本物の悪役令嬢なのに、偉そうに言ってごめんね。


「あれ、可愛いご令嬢たちがこんなに集まって、どうしたの?皆まとめて俺のハーレムに来る?」

 陽気な声とともに、アランが私の後ろから顔を出した。その後から、パトリックやリアムをはじめとした、生徒会のメンバーもやってくる。

「なんでもございませんわ。ね?皆様」

 私が笑顔を向けると、皆一様にこくこくと頷き、焦ったように礼をして散り散りに去っていった。

 後にはアンジーが一人取り残される。私はリアムに近づくと、こそっと耳打ちした。

「リアム様、ちゃんとアンジーさんを守って差し上げてください。それがあなたの役目でしょう?」

 リアムは何があったのかをすぐに理解したようで、慌ててアンジーに駆け寄る。

「アンジー。一人にしてすまなかった。大丈夫か?」

「はい。イライザ様が、助けてくださいました」

 助けるというほどのことでもないけど。ゲームだと、あれやってたの私のはずだしね。

「イライザ、ありがとう」

 リアムが律儀にお礼を言う。この真っ直ぐさ、いかにも騎士団長の息子って感じだな。

「いいえ。たいしたことはしておりません。では、私はこれで」

 立ち去ろうとすると、ぐいっと腕を掴まれた。振り返ると、アランがにこにこしている。

「アラン様?」

 どうした?まだ何かあった?

「やっぱイライザ、いいな。めっちゃ俺の好み。マジで俺の嫁に来なよ。俺、めちゃくちゃ可愛がるよ、イライザのこと」

 ――は!?メリッサのカン、当たってた!?

 思わずぱっとメリッサを見ると、「きゃー!!」って表情でこっちを見てる。いやいや、他人事だからって!

「だから、そういう冗談は…」

 焦って手を離そうとすると、背後でものすごい殺気を感じた。そろっと振り返ると、完璧すぎる笑顔を浮かべたパトリック。あ、これ、ものすごく怒ってるやつだ。


 パトリックはさっと私を後ろから抱きかかえて、アランから引き剥がす。

「アラン、これ、俺の」

 沢渡部長、一人称が俺になっちゃってるよー!

「は?どういうこと?パトリック」

 アランも訳がわからないといった表情だ。いや、私にとっては、アランの行動も訳わかんないけどね!アンジーがアランルートに入らなかったら、アランはイライザを好きになるなんて、そんなの聞いてない。

「だから、イライザは俺の。今朝、正式に求婚してるから。じきに婚約する」


 学園の中心にいるメンバーたちの会話に、周囲で密かに聞き耳を立てていた生徒たちがどよめく。

 ああ、言っちゃったよこの人…。昨日婚約破棄して、今朝第一王子に求婚されてるイライザって、皆の目にどう映ってるんだろう…。

「え、パトリック、イライザに求婚してんの?マジで?」

 アランがわかりやすく驚いた表情で私たちを交互に見てくる。

「正式に書状送って求婚してるから。ね?イライザ」

 怖い怖い、目が怖い。アランのことなんて、私だって不測の事態だっていうのに。

「僕からの求婚、もちろん断らないよね?」

 あ、一人称が戻った。第一王子からの求婚を、こんな公衆の面前で断れる人がいたら見てみたい。

「も、もちろん…身に余る光栄にございます…」


 わぁっと歓声が上がる。メリッサも、大興奮で手を叩いている。アンジーとリアムも、驚きながらも嬉しそうだ。

「そっかー、パトリックが求婚してるんじゃ、俺は諦めるしかないかぁー。イライザ、かなり本気でいいと思ったのになぁ」

 アランがぽりぽりと頭を掻いた。にっこりと満足気に微笑んで、パトリックが言う。

「うん。アラン、諦めて。イライザは絶対だめ」

「素敵…!パトリック様にあんなに熱烈に思われているなんて、さすがイライザ様ですわ!」

 パトリックの言葉に、女子生徒たちの黄色い声が一段と大きくなる。

 

 また一つ、外堀が埋まった音がした気がした…。

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