「トラブル発生!社有車が動かない!?」
第十四話
月曜の朝、いつも通りのはずだった。
管理課の朝礼が終わり、それぞれがいつもの業務に散っていく。
八木原は社内連絡メールをチェックし、佐伯さんは週次備品のチェック表を更新。
そんな、平穏な一週間の始まり――のはずだった。
けたたましい電話の着信音が、それを壊した。
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◆ 午前8:43/第一報
「管理課です。はい、八木原です……えっ? 車が動かない?」
相手は製造部の山田主任。
今朝、定期検査のために社有車のサクシードを使おうとしたら――
「セルは回るけど、エンジンがかからない。バッテリーじゃなさそう。とにかく動かんのよ」
現場はちょうど出発前。予定をずらせない業者訪問の直前だった。
八木原の頭の中で、“代車・保険・鍵・レッカー・予備車”の文字がぐるぐる回りはじめる。
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◆ 午前9:10/現場確認
管理課から社有車の駐車場へ走る八木原と佐伯。
現地では山田主任が腕組みして、車のボンネットを開けていた。
「さっきまで普通だったのに、今朝だけ動かんのよ。車ってタイミング悪いな〜」
エンジンをかけると、「カチッカチッ」という頼りない音だけ。
ライトもつく。つまりバッテリーではなさそう。
「佐伯さん、念のため予備車の鍵、持ってきて」
「はいっ」
すぐさま、予備の軽ワゴンを手配して現場へ。山田主任は無事出発。
しかし、残されたサクシードの対応はまだこれから。
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◆ 午前10:15/リース会社と保険の確認
大島さんがリース契約書を確認しつつ、保険会社と連絡を取ってくれた。
「これ、リースのメンテ対象ね。レッカー手配するから、その間駐車場の出入口塞がないようにしといて」
「了解です。あと、リース会社には“使用不能”の報告書も必要ですね」
「今日中に写真撮って、経過書いといてね〜」
地味な処理が多い。けど、こういう“処理の地層”が会社を回している。
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◆ 昼休み/やっとひと息
「八木原さん、あの状況で10分で代車出すの、普通じゃないと思いますよ」
「いや……内心パニックでした」
食堂のうどんをすすりながら、佐伯さんがぽつりと呟く。
「でも、現場の人が“助かったわ〜”って言ってくれたの、嬉しかったです」
「うん。“管理課に連絡すれば何とかなる”って思ってもらえたら勝ちですよね」
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◆ 午後3:50/レッカー完了・報告書提出
レッカーは無事に引き取り終了。
車両番号、状況、写真、現場の証言、対応時刻の記録……提出書類は意外と多い。
書類の最後、報告欄に“現場の混乱なく運用継続できた”と書きながら、八木原は少しだけ笑った。
派手な成果じゃない。
でも、誰かが困っているときに“さりげなく機能する”のが管理課なんだと思った。
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◆ 夜/寮の窓から見える車のライト
・いつも通り動く“当たり前”を支えてるのは、目立たない人たち
・トラブル対応は、マニュアルより“気づきとチーム”が頼り
・「大きなトラブルにならなかった」のは、じつはすごいこと
明日、また何事もなかったように車は戻ってくる。
だけど、その“何事もなかった”の裏に、今日の動きがあったことは、きっと誰かが覚えていてくれる。