表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/47

「月末、管理課は地獄を見る」

第十二話

 月末というのは、どうしてこうも急に来るんだろう。

 気づけばいつも、あと2日しかない。

 だけど、その“あと2日”で全部が押し寄せてくるのが、管理課という場所だ。



◆ 8月30日(水)/朝8:15 管理課


「八木原くん、朝から悪いけど、今日これお願い」


 と、大島さんから渡されたのは、見積書と稟議の束(重い)。

 手配ミスの報告書付きで、しかも2件。

 さらに、掲示板の月次更新依頼と、社用車のオイル交換期限チェックの付箋メモ。


(いや、まだPCの電源も入れてないんですが……?)


 その横で、佐伯さんは電話対応で四苦八苦していた。

 どうやら、備品の発注ミスで別部署から軽く詰められているらしい。


 ようこそ、月末の管理課へ。



◆ 午前10:40/二重・三重に押し寄せる依頼の波

•【経理部】「請求書の科目が違ってるから再提出お願いできます?」

•【製造部】「棚の高さが合わなくて、備品入りません。管理課で対応できます?」

•【総務部】「来月の健康診断の名簿、今日中に提出してね」

•【警備会社】「来月の入構証、変更ありましたっけ?」


 ……うん、あれだ。

 この世には、「一度に来る必要はなかった仕事たち」が確実に存在する。



◆ 昼休み/食堂のカレーは癒し


「今日、仕事終わると思います?」


「終わるかどうかじゃなくて、“どう終わったことにするか”です」


 八木原と大島の、この悟りの会話はカレーと一緒に胃に染み渡る。

 佐伯さんは、初の“月末カオス”に若干ひきつった顔で唐揚げをかじっていた。


「みなさん、なんで普通の顔していられるんですか……?」


「慣れという名の諦めですね」


「それと、カレーは裏切らないから」



◆ 午後2:20/印鑑も手も止まらない


 印鑑、チェック、メール、電話、印刷、修正、提出、再提出。

 手が止まった瞬間、「あ、それ今日中ね」の声がどこかから飛んでくる。


 みんな無言だけど、誰もサボってない。

 そういう日だ。月末って、たぶん会社の“耐久テスト”みたいなものだ。



◆ 午後5:40/すべりこみ印鑑&缶コーヒー


「終わった……ように見える、だけ」


 ひとまず今日の提出物は全部回収できた。

 正確には、「回収できたことにして帰ろう」という意思のもと、管理課が静かに帳尻を合わせた。


 疲れきった八木原の机の上に、大島さんが缶コーヒーをそっと置く。


「生き延びたな、八木原くん」


「死にかけましたけどね……次回はもっと早くやります、たぶん」


「それ毎回言うやつ」



◆ 夜/寮の部屋、カーテンの隙間から見える夜空


 さっきまでの資料、押印、電話、ファイルが、まるで夢だったかのように静かな部屋。

 けれど頭の中では、今日一日のノイズがまだ鳴っている。


 だけどその奥に、少しだけあった。


 **「ああ、俺、この会社の“まわりを支える仕事”してるな」**という、確かな手ごたえ。


・月末は、会社全体の“人間力”が試される

・華やかさはないけれど、管理課の仕事には“地面を支える力”がある

・誰かに見られなくても、ちゃんと機能する。それが、誇り


 月末を乗り越えた者にだけ許される、“ちょっとだけの誇り”。

 それが今日のご褒美だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ