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2. 余命宣告


薄暗い診察室で、医師の言葉が私の耳に届くたびに、心の奥底が凍りつくのを感じた。「残された時間は限られています。あなたの病状は深刻です」その一言は、私の未来を一瞬にして暗闇に包み込んだ。冷静な医師の表情が、余計に私の心を締め付けた。


音楽。それが私の全てだった。私、有元 美緒は幼いころ母の背中で聴いた音楽が心に刻まれ、いつしかその世界に魅了されていった。母のようにステージに立ち無数の観客の視線を浴びながら世界中に私たちの音楽を届ける瞬間を夢見て、切磋琢磨し合える仲間たちと無数の練習を重ねてきた。努力は実を結び私たちのバンド「Sonove」はメジャーデビューを果たし、このまま続けていけば世界も夢じゃない所まで来た。しかし、今その夢が私の手の届かない場所にあることを痛感した。


帰り道、凍てついた風が頬を撫でる。街の明かりがぼんやりと視界に映り、心の中で何かが崩れていくのを感じた。今私がまっすぐ歩いているかも分からない。バンドの未来、そして自分の未来。残された時間をどう使うべきか、深い思索に沈む。何もせずに終わるのは、あまりにも無念だ。


家に帰ると、私は古びたノートを取り出した。空白のページが私を待っている。私はこのノートに、自分が死ぬまでにやりたいことを書き留めることにした。ページをめくるたびに、心の中に渦巻く希望や不安が同時に押し寄せた。やりたいこと、夢、そして未練——それら全てを言葉にすることが、私の心を整理する手助けになる気がした。最初のページには、まず「武道館でのライブ」と大きく書いた。夢の舞台、お母さんの立った舞台私の音楽を全ての人に届ける場所。思い描くだけで心が躍る。でも、実現するにはどうすればいいのか、その道筋が見えない。ただ、決意が少しずつ強まっていくのを感じた。過去の思い出を振り返りながら、私は自分の情熱を取り戻すために、少しずつペンを走らせた。夜が更けるまでノートと向き合い、何度も涙が頬を伝った。武道館に向けての曲作りもした。曲作りは難しく、言葉が浮かばないこともあった。でも、私は決して諦めなかった。心の奥深くから湧き上がる情熱が、再び私を突き動かしていた。かつての夢の欠片を拾い集め、自らの生き様を音楽に託すために。


数日後、私はバンドメンバーに声をかけ始めた。自分の決意を伝えるためみんなで集まる日を決めた。


心の準備を整えながら、彼らの顔が集まるのを待っていると、鼓動が速くなった。自分の病状を告げることは、容易ではない。でも、彼らには真実を知ってもらう必要があった。その瞬間が訪れる前に、私は深呼吸をした。心の中にあった不安や恐れを押し込め、私が何を望んでいるのか、どれほどの情熱を持っているのかを伝える決意が固まっていく。バンドメンバーの前に立つと、言葉が喉の奥で渦を巻いた。私は、すべてを正直に話す覚悟を決めていた。

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