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王命で結婚した旦那様。あなたなんて、嫌いです。  作者: 星河雷雨


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第22話 まさかの旦那様御乱心です?



 セドリック様に連れられてやってきたこの場所は、どうやらセドリック様とアマンダ様が使われた宿屋のようです。宿屋なんてはじめて入りました。


 ここの宿屋は一階はお洒落な軽食を提供してくれる店で、疲れたら二階で休憩できるのだとか。


 休憩室である二階の部屋はやはり質素すぎて、とても貴族が、しかも妃殿下が使用するような部屋とは思えません。けれど不潔さもなく調度品も安価なものですがセンス良く纏まっていて、意外と落ち着けます。平民ならばむしろ高級な部類でしょうか。


 外観だけ見てもとてもそういう場所とは思えません。

 

 ここなら知らない人から見ればただの軽食屋ですし、二階を使って出てきてもそれほど目立ちませんね。


「私は使っていないよ」


 頭の上からセドリック様の麗しい声が降ってきました。


 私は今ベッドの上にいます。横になっているわけではないですよ。ベッドの上に座り上半身を起こしている状態です。


 そしてなんと、セドリック様に背後から抱きしめられています。ですがおかしいです。全然甘い雰囲気ではありません。どきどきしますが、ちょっとこのどきどきは種類が違います。


 セドリック様は私を抱きすくめるようにして私の頭にご自分の顔を乗せています。頭に感じる感触から、時折頬ずりをしていることが伝わってきます。


「あの……セドリック様。なぜ、ここに?」


 ここは宿屋です。そういうことをする場所です。もし、万が一セドリック様がそういうつもりだとしても、わざわざここへ来る理由はありません。何故なら私たちは一応は正式な夫婦なので、邸に戻ればいいだけです。


「疚しいことはしていないと、君に知って欲しかったから」


 なるほど。


 確かに普通の神経をしていたら、愛人と致した場所に妻を連れて来ようとは思わないですしね。


 私の頭の上で、セドリック様が長い長い、溜息を吐きました。


「……アマンダと会ったのは、この前仕事で町へ外出した日のことだ」

「……はい」


 やっぱりその日だったようです。あの日帰って来たセドリック様は普通の様子ではありませんでしたのでそうだと思っていました。


「店を視察したあと、仕事を終えて戻ろうとした時に、突然女性に声をかけられた。その女性は高貴な身分のご婦人の侍女で、主人が気分を悪くしているので助けて欲しいと。

 本来ならば町の憲兵を呼んでくれば良かったのだが、それを止められたんだ。主人は愛人との逢瀬を楽しんだあと気分を悪くしてしまったのだが主人が会っていた愛人は身分が低く、主人の夫に愛人として認められていない、主人の夫に知られるわけにはいかないのだと言われてね」


 高貴なご婦人とその愛人との逢瀬ですか。まあ、それ自体はあり得る話ですね。身分の低すぎる――たとえば平民などの愛人は正式な愛人として認められにくいのもその通りです。

 

 ですがそれでいかにもな高位貴族の見た目をしているセドリック様に声をかける理由がわかりません。弱みを握られるとは思わなかったのでしょうか。セドリック様はそんなことしませんけどね。


「……どうして、その女性の言うことを信じたのですか?」


 どう考えてもおかしい話です。それにあっさりとセドリック様が引っ掛かったのが解せません。アマンダ様が絡まなければ、セドリック様はとても優秀なお方なのです。


「声をかけてきた女性に、見覚えがあったんだ。あの女性はファーナビー公爵家の侍女だった」


 ファーナビー公爵家はダルトン公爵家に次ぐ名門公爵家です。となると、高貴なご婦人とはファーナビー公爵夫人のことになりますね。

 それならわざわざセドリック様に声をかけたことも、夫には知らせたくないと言ったことも、納得できます。二公爵家は同じ派閥で、なおかつ昔から親交がありますから。秘密を漏らされるようなことはないと踏んだのでしょう。


「ファーナビー公爵夫人が使うにはこの宿屋は格が劣るが、だからこそ人目を避けて愛人と会うには丁度良いのかもしれないと思ったんだ。そして、そんな宿にまさか王太子妃であるアマンダがいるなんて思わなかった。ファーナビー公爵家が、私を嵌めるなど……」


 それが本当だとしたら――いいえ、本当なのでしょう。セドリック様はどうやら確信を持っているようですし。

 ですが、なぜファーナビー公爵家がセドリック様を嵌めなければならないのでしょうか? もしやアマンダ様に頼まれて?


「宿に入ると、そこにはファーナビー公爵夫人ではなく、アマンダがいた。けれどアマンダも私を見て驚いていたんだ。嵌められたのは私だけではない、アマンダも嵌められたんだ」


 なんと、アマンダ様もですか。


「そんな……ファーナビー公爵家が王太子妃であるアマンダ様も嵌めるなんて……」


 アマンダ様とセドリック様を嵌めて、ファーナビー公爵家に何か益はあるのでしょうか? 弱みを握るため? 


 いいえ。お二人の無実が証明されたら元も子もありません。ですが、証明されなかったら? いえ、真実など問題ではなかったら?


 どんな理由であれ、お二人が会っていたという事実そのものをファーナビー公爵家は欲しているとしたら?

 

 そこまで考えた時、私は気付きました。


 それを欲しているのは、はたして本当にファーナビー公爵家でしょうか。公爵家よりももっと、その事実を必要としている人物は――。


「もしかして……」

「そうだ。私たちを嵌めたのは、王太子殿下だろう」


 何てことでしょう。確かに王太子殿下の頼みなら、ファーナビー公爵家だろうと断ることは難しいでしょう。


 私の脳裏に、私を王宮に呼び出した時の王太子殿下の剣呑な光を湛えた瞳がよぎりました。


「ですが……そもそもアマンダ様は、なぜこの宿屋に?」

「アマンダは、ファーナビー公爵夫人に話があるからと言われて、ここへ呼び出されたらしい。アマンダとファーナビー公爵夫人は昔から付き合いがあるから」


 そう言えば、アマンダ様もファーナビー公爵家の舞踏会に来ていました。そうですね。そもそも個人的に付き合いがなければ、王太子妃であるアマンダ様を呼び出すなんて真似は出来ないでしょう。だから夫人が選ばれたのですね。


「呼び出されて来てはみたが、夫人はそこにはいなかったと。あとから夫人の侍女が来て、急に夫人の具合が悪くなったと知らされたらしい。アマンダはここが宿屋だとは知らなかったようだ。

 その時のアマンダはさすがに侍女を連れていたが、護衛がいなかった。いたのかもしれないが、私に確認できる距離にはいなかった。私の付き人も一緒にいたが、そんな事実はどうとでもなる。付き人は基本主人には逆らえないからね。アマンダの姿を見た時点で嫌な予感はしていたが、まさか殿下がそこまでするとは思ってもいなかった」


 そうですね。セドリック様を嵌めたのが王太子殿下ではなくアマンダ様だとしても、まさかそこまでするとは普通は思いません。


「……コーデリア。王太子殿下は今回の件を利用して、私と君との、そして殿下とアマンダとの離縁の理由とするつもりだろう」

「……はい」


 一度王太子殿下自ら諫めたと言うのに、今度は宿屋での逢瀬です。セドリック様の言う通り、いくら互いにお付きの者がいたとはいえ、それは無実の証拠にはなりません。本人たちが無実だと言い張っても、信じる人はいないでしょう。


 いえ、信じてくださる方がいたとしても、どうしても疑いが残る以上、殿下の思惑通りになってしまいます。


 アマンダ様は、王太子妃には――未来の王妃にはふさわしくないと。


「だが、君は私の妻だ。……今はまだ」

「……そうですね。その通りです」


 王太子殿下が本当に陛下に二組の離縁を申し出るとしても、そして陛下に受けいれられたとしても、それが成立するのは今すぐのことではありません。それまでは、私はセドリック様の妻です。


「王太子殿下は君を愛している。だからきっと、私たちは離縁させられるだろう」


 ……何を言っているのでしょうか、セドリック様は。


「いえ……王太子殿下は別に私のことなんか愛していないと思いますが……」


 伴侶に愛されなかった者同士というだけです。きっと殿下は私をセドリック様の呪縛から、解放しようとしているだけです。


 殿下は王命で私とセドリック様を結婚させたことに責任を感じていらっしゃるのでしょう。王命を出したのは陛下ですのに。


「いいや。そうでなければ、あの殿下がここまでするとは思えない。殿下はアマンダが気に入らないという理由だけで、婚姻を解消しようなどと考える人ではない」


 それはアマンダ様のことが気に入らないのではなく信頼できないからではないかと思いつつも、確かに今回のことにアマンダ様が絡んでいなかったとすれば、たった一度の過ち、しかも当人たちは無実と言い張る過ちを、あの豪快な殿下が許さないとも思えません。実際、あの時殿下は私に免じて許すとおっしゃっているのです。


 けれど、殿下が私を愛しているなどとは到底信じられません。


 やはり殿下は私を愛しているのではなく、同情してくださっているのだと思うのです。


「……どうすれば、君を奪われないで済むのだろう」

「セドリック様?」

「殿下とアマンダの離縁は難しくとも、私と君の離縁はその限りではない。アマンダと離縁できないなら、殿下は私とアマンダとの不貞を理由に私たちを離縁させて、君を側妃にと考えているのかもしれない」


「私が殿下の側妃ですか⁉」


 いえ、だからそれはないですって! 王妃よりはマシかもしれませんが、そもそも私に殿下の妃なんて無理ですから!


「どちらにしても、君を殿下に奪われてしまう。だったら、君が妻でなくなる前に、いっそ……」


 ちょ、ちょっと……。


 いっそ、何ですか? 


 大丈夫ですか、セドリック様? 王太子殿下に虐められ過ぎて、ちょっと理性がお疲れですか?


 待って待って待って下さい! セドリック様の爪の先まで美しい指が、私の首に掛けられました。何かじわっと指先に力が込められています。


 このまま絞められたら私多分死んじゃうんですが⁉ 


 大変です! セドリック様が壊れました!


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― 新着の感想 ―
[一言] 心配しなくとも、最初から色々ぶっ壊れてるよソイツ
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