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王命で結婚した旦那様。あなたなんて、嫌いです。  作者: 星河雷雨


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13/29

第13話 王太子殿下と妃殿下(旦那様の元恋人)の痴話喧嘩勃発です



 その後は普通に話に花を咲かせていた私たちでしたが、アマンダ様が私に「結婚生活はどう?」と聞いたことによって、雲行きが怪しくなってきました。


「え、ええ……そうですね。セドリック様はお優しい方なので、よくしていただいております」


 実際セドリック様は私と良き夫婦になろうと尽力してくださっています。


「そう……。そうね、セドリックは優しいから」


 おっと。アマンダ様他人の夫を呼び捨てです。これにはベアトリス様の眉も一瞬ぴくりと動きました。王妃殿下になってからならまだしも、アマンダ様はまだ王太子妃殿下です。これは少々いただけません。


 地位と立場的にはアマンダ様がセドリック様を呼び捨てにすることはおかしくはないことですが、それでもそれは時と場所と状況によってでしょう。妻の前ですよ?


 王太子殿下とて、臣下とは言えむやみに他人の妻のことを呼び捨てにはしない―――はずだったのですが……。


 これに関しては、現在少々考えを変えざるを得ないことが起きていたりします。


「あなたには、本当に申し訳ないと思っているの。私たちのせいで、愛されないとわかっている人の元に嫁ぐことになってしまって……」


 アマンダ様が悲し気に目を伏せました。その睫毛の長さにしばし見惚れながらも、私は何と返したものか悩みました。


 お気になさらずとも、まったくその通りとも言い難いです。


 それに、本当に申し訳なく思っていると態度で見せかけておきながら、しかしこれは完全に牽制でしょう。セドリックはお前を愛さない。なぜなら自分を愛しているからと。


 「私たち」のところで少々言葉に力が入っていたことも、それを裏付けているような気がします。まあ、言い返したとしても結局私がそう感じたというだけで終わるのでしょうが。



「意地の悪い女だな」



 突然聞こえてきた冷たさの感じられる声に、私たち三人はびくりと肩を震わせました。


「殿下……!」


 なぜ王太子殿下がここにいらっしゃるのでしょう。いえ、ですがご自分の妃の友人の選定なのですから、殿下がいてもおかしくはないのでしょうか。夫が妻の友人関係に口を出すことは、よくあることです。従うかどうかはそこのご夫婦の上下関係次第でもあるのでしょうが。


 けれど今の会話を聞かれていたのだとすれば、少々まずい事態です。私とベアトリス様ではなくて、アマンダ様が。


 突然の王太子殿下の来訪に、私もベアトリス様も蒼白です。そしてそんな私たちとは正反対に、お顔を真っ赤にされているのが、アマンダ様でした。


 そういえばアマンダ様は、この間も殿下に逢瀬を見られた際にも、真っ赤になっていました。自分のやっていることを心の内では恥じていらっしゃるのでしょうか。


「な、何をおっしゃるのです! わたくしは別に……」

「昔の男の妻にそれを言ってどうなると言うんだ。いい気がしないことだけは確実だがな」


 まあ確かにいい気はしませんが、言いたくなるアマンダ様の気持ちも残念ながらわかってしまいますね。王太子殿下のアマンダ様への態度は、まるで仇敵に対するような刺々しいものです。馬鹿正直だけれどお優しいセドリック様を少しは見習ってください。


「……そんな、つもりでは」


 アマンダ様の瞳がさらに伏せられます。


「お前も俺の妻という立場には不満があるのだろうが、コーデリアとて好きでセドリックの妻になったわけではない。王命だ。お前たちがいつまで経っても互いに未練を残しているから、陛下もそうせざるを得なかったのだろう」

「未練など……!」


 反論しようとしたアマンダ様が、椅子から腰を浮かしかけました。だいぶ興奮している様子です。


「ないか? セドリックに愛の言葉を強請っておきながら?」


 ちょ、殿下……それはここでおっしゃってはいけないやつでは……? 


 私がおそるおそるベアトリス様を覗き見れば、お可哀想にベアトリス様は私とアマンダ様を交互に見比べながら、お顔を真っ青にされています。


 己の婚約者の兄の不貞(?)を王太子殿下の口から聞かされたのですから、当たり前ですね。というより、私の立場としてはどうするのが正解なのでしょうか? よもや王太子殿下に与してアマンダ様を攻撃するわけにはいきませんし、そのつもりもありません。ですが庇うのもまた違うような気がしてしまい、ほとほと困ってしまいました。


 この場を重たい沈黙が支配しています。誰か助けて……。


 けれど誰も助けてくれないので、自分で自分を助けるしかありません。


「あ、あの……」


 この空気に耐えかねた私は、次に続く言葉もないというのに、つい口を開いてしまいました。


「どうした? コーデリア」


 ……そうなのです。


 なぜか王太子殿下はあの日から私のことをコーデリアと呼び捨てになさるのです。他の方のことはちゃんと敬称を付けて呼ぶのにです。そして殿下が私をコーデリアと呼ぶたびに、アマンダ様の整った眉がピクリと動くのですよ。


 殿下、もしや私を呼び捨てにするのはアマンダ様への当てつけですか? アマンダ様もセドリック様のことを呼び捨てですものね。


 とにかく、今はこの場の重たい空気を何とかすることが先決です。


「このケーキ、とても美味しいですね!」


 ああ、私の馬鹿! 


 もっと気の利いたことは言えないのでしょうか。ですが、そんな私の間抜けな話題にベアトリス様が乗ってくださいました。


「ほ、本当に! とても美味しいです!」

 

 ちょっと棒読み気味なベアトリス様。話題下手ですみません……。


「ふむ。それはうちの厨房で作ったものだ。気に入ったのならそれぞれ土産に持たせよう」


 王太子殿下のお言葉に、私とベアトリス様はそれぞれ畏まってお礼の言葉を口にしました。まるで催促したような形になってしまいましたが、話を逸らせたので良しとしましょう。


 それからのアマンダ様はどこか上の空で、お茶会が終わるまで私とベアトリス様と王太子殿下での世間話というちょっとした地獄が繰り広げられました。それでも一瞬の動揺のあと、すぐに身を立て直し王太子殿下との会話を楽しみはじめたベアトリス様はさすがです。だてに長年名門公爵家次男の婚約者をしていません。


 ちなみにジャレット様とベアトリス様の婚約は、ジャレット様が十歳。ベアトリス様が九歳の時にはすでに成立していたのだとか。長男よりも次男の婚約が早く整うのは珍しいのですが、そこはジャレット様がメイシー子爵家への婿入りする予定だったこともありましたので、当主教育を早いうちから始めようとしたため、お二人の場合は特に変則的な婚約だったのだと、お義父様に教えていただきました。


 さて、そんなベアトリス様と私は、お茶会の終わったあと帰りの馬車を応接室で待つ間、終始無言でした。とても喋る気になりません。

 おそらく、互いに気疲れをしたのでしょう。自分の顔色はわかりませんが、ベアトリス様の表情には確実に疲れが見て取れました。まさかの王太子殿下の乱入後の妃殿下との痴話喧嘩でしたので、仕方ありません。


 今日のことをベアトリス様がどう思われたのかが心配です。下手をしたらダルトン公爵家との縁を考え直したいなどということにはならないでしょうか?

 

 ……まあそこは大丈夫ですかね。ジャレット様との婚約期間は長いですし、腐ってもダルトン公爵家は名門。そしていくら親戚になるとはいえ、王太子殿下とアマンダ様と、ベアトリス様のご実家であるメイシー子爵家とは直接のかかわりはないわけですから。


 ですが、もしかしたらベアトリス様はアマンダ様のご友人の話は辞退なさるかもしれない。そう私が思っていると――案の定。


 後日、私はベアトリス様がアマンダ様のご友人の件を正式に断ったという話を、セドリック様から伝えられることになったのです。

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