表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

確反だけは見逃さない

▪︎0フレーム : 高仲一という男


名前、高仲一たかなかはじめ、1994年に千葉県で普通に常識的な両親の元に生まれ、保育園、幼稚園、小学校を普通に楽しくガキらしく卒業。

 成績は中の上、運動神経も中の上、愛想も良く周りからも好感度が高いいわゆるクラスカーストの上位にいた、だが、中学校に上がり思春期は爆発、この俺の行き場のない感情と若さゆえの行動力はある日をきっかけに一つのモノへと注がれる。

 格闘ゲームだ、彼が生まれた94年代は格闘ゲームが絶大なムーブメントを起こしていた、まだ幼子の俺にとってはとても理解が出来るものではなく、特筆して興味があるモノではなかった、だが、中学2年のある日の放課後、友達に誘われてついて行った町のゲーセン、入り口を抜け、UFOキャッチャーゾーンを過ぎると、眼前に広がるのは心狭しと並べられた格ゲー筐体の数々、そこの店舗は格闘ゲーに力を入れている店舗らしく、おびただしい数の台が存在した。

 友達に促され初めてプレイする格闘ゲーム、あまり理解もせずに筐体に100円を入れ、うるさい音楽と共に様々なキャラクターが画面に映る、ざっと数えても20はいるだろうか、一体一体見てから決めたいところだったが時間が迫ってしまい、無難に真ん中にいた主人公的なキャラを選んだ、友達はなんだか露出が大分女キャラを選んでおりレディーの掛け声と共に画面の両端に二人が並ぶ。


『ファイトッ!』


 ゴングがなり、操作もわからぬままレバーを動かしてボタンを叩いた、俺のキャラは前へ飛びながらパンチをしたりしゃがみながら細かくキックをしたりとてんやわんやな動きっぷり、友達の女キャラは華麗に飛び回り鋭い蹴りをお見舞いしてくる、左上にあるゲージはみるみる減っていき気がついたらゲージはなくなりHPがなくなった。

『ぐあぁっ』

 悲痛な悲鳴と共に倒れ込むキャラクター、台の横から友達がニヤニヤと覗き込んで来る。

 何も楽しくない、ただ一方的にやれるばかりでただただストレスが溜まる。

 彼の気持ちなどおかまい無しでゲームは進行されていく

『ラウンド2ー』

 ただ、やられっぱなしなど面白くない。

『レディー』

 どうせやられるなら

『ファイトッ』

 一泡くらいふかせてやるっ

 中学生の下らないプライドが傷付けられ、あらためて真剣にゲームを理解しようとした。

 格ゲーは初めてだが、ゲームをやった事がない訳ではない、対戦アクションゲームや落ちものパズルゲー等は十分にやった事がある、活かせるエッセンスは存在するはずだ。

 またもや華麗に飛んで間合いを詰めて来る敵、先ずは攻撃に当たらない事を考えなければ、後ろに下がれば...

 スティックを進行方向と逆側に傾け逃げようと思った、その行動が功を奏し

『防いでみせるっ!』

 俺のキャラが相手のキャラの攻撃をガードしたのだ、後ろスティックはガードだったのか...

 チャンスと思いなんでもいいから当たれの気持ちでテンパリながらもレバーとボタンを闇雲に押しまくった

『昇天突きっ!』

 低い構えからのジャンプアッパーが見事相手に命中したーー


「お、おおお...」


 謎の高揚感


 その後も対戦は滞りなく進み、先ほどの試合よりは攻撃が当てれたものの、見事惨敗。

「おいおいびびらせんなよー!2本目急にガードからの反撃昇天するから驚いたぜー」

「......」

「実はどっかでやった事あったりーー」

「も、もう一回やろう」

「え?」

「もう一回、もう一回!」

「お、おう、別にいいけど...」

 友達は向かいの席に戻り、俺は100円を追加で入れた、キャラクターはさっきと同じ主人公

 悔しかったのか、謎の高揚感が突き動かしたのか、彼は無謀な再戦を申し込んだ。

「ガードはわかった、次は攻撃か...」

 昂る気持ちに試合前からボタンを押す。

 もっと、もっとこのゲームを知りたい。

 たった数分の一試合が彼格闘ゲームの世界へと導いた。


 何試合行っただろうか、1000円札を両替しに行ったのは覚えていたので10試合以上は間違いなくプレイしている、そんな数十試合目の事

「いける...ここで、こうして...ここが動けなくなるからこうっ」

 一進一退の攻防、相手の大技を守り切り、大きな好きに確実な一手

『神拳!昇天突きー!』

 派手なエフェクトにかっこいいカットインの入った大きなジャンプアッパーが相手に当たる。

『K.O!』

『いい試合だった!』

『リュウセイ!WIN!』

 初めて聞くリュウセイの勝利ボイス...

 勝った?勝ったよな?勝った...勝った!!

「うおおおぉぉぉぉー!!!!勝った!!勝った!!!」

 人生で1番声を張り上げたかもしれない雄叫びをあげ勝利に酔いしれる。

「うわぁ、やべぇー、気持ちいぃ...」

今まで味わった事のない快感、脳に溢れてくる知らない快楽物質、なんだよコレ、面白過ぎるだろ。

「お前成長エグすぎだろぉ、俺結構このゲームやり込んでんだけど!」

 落胆する友達を横目に再度台へと食らいつく。

 まだ一本とっただけ...次勝てば正真正銘の勝ち...

 この格闘ゲームは2本先取で試合終了、2回勝たないとちゃんとした勝利にはならない

「あと一本...あと一本っ」


 もはや、勝利に食らいつく獣だった。


 そんな獣へと変貌した彼はその後、生活の全てを格闘ゲームへと消費していった、そのおかげあって成績は下の下、運動も大した事なく、休み時間は格ゲーの事だけを考え、放課後はもちろんゲーセンへと足繁く通った。


 その後は特段変わったことも無かった...


 ただ、店舗大会で敵は無く、流れるように関東最強の名を手に入れ、気付けば日本最強になっていた。


 嬉しく無かったと言えば嘘になるが、それよりも悲しかったのだ...


 初めの頃は自分よりも強い相手ばかり、戦うたびに学び、失敗を繰り返し、打ち倒した。

 技術は磨かれ、思考は卓越し、相手の3手、4手、5手先までも読んでみせた。

 純粋にゲームを楽しみ、ゲームの奥の奥まで考え尽くした。


 そんな彼は一戦を超えてしまったのだ...


 相手を見透かす読みから繰り出される人間技ではないコンボ、気付けば相手のHPは削り切られている。


「人間じゃないっ!」

「まさに神技っ!」

「格ゲーの神!」


『鬼神だっ!!』


 そんな彼を讃える声は現実でもネットでも溢れかえった、だが、向き合って戦う者は減った。

 今ではゲーセンでなくとも家庭用ゲーム機にも移植され、オンラインで無限に対戦が出来る、名前を変えてプレイはしているが、プレイスタイルや動きで大体バレる、すると相手は勝てないと理解し試合を放棄する者もいれば、感激ゆえの緊張か実力を発揮しきれない者もいる。

 彼は強敵に飢えていた。

 もっと、強い相手を、もっと手強い相手を...

 もっと、もっと!もっと!!


 ...願いは叶ったのだ、翌年彼は、上位プレイヤーにとても手を焼く用になる、もはや上位どころかトーナメント序盤に当たる中堅プレイヤーとも危うい試合をする。


 パーキソン病

 振戦ふるえ、動作緩慢、筋強剛(筋固縮)、姿勢保持障害(転びやすいこと)を主な運動症状とする病気で、50歳以上で起こることが多い病気、40歳以下の年齢で起こる、若年性パーキソン病というものも存在する


 彼が診断された病名だ、簡単な話、手が震えるのだ、意図はしていないのに。そこまで症状がひどいわけではなく、処方箋により治療で確実に普通の症状よりは軽い方だ。

 だが、格闘ゲームにおいては致命傷だ、60分の1秒の命のやりとりをする格闘ゲームにおいて震えからくる誤操作、感覚が鈍くなり遅くなってしまう反応、それらは彼のゲームセンスを潰すには十分過ぎる要因だった。ネットでは優勝した時は何かしらのチートを使っていたのではないかという声まである。

 弁明等はしない、してもしなくて言ってくるやつは言ってくるし、そもそもSNS等は苦手だ。

 そうして彼は優勝から2年後には競技シーンから姿を消し、『鬼神』は過去の伝説となった。


...........................................


 2024年 春 高仲一、過去の鬼神は...


 コンビニでアルバイトをしている。

 格ゲーは家庭用で触る程度、今年30になり、カノジョもおらず、まともな学歴や資格も無し、まさにお先まっくらのオワコン中年だ。

「はぁ、30歳の誕生日にするコンビニ夜勤...たまんねぇー...」


 今の人生に希望など持っておらず、惰性で生きながら惰性で堕落している。


「いっそのこと、今流行りの異世界転生ーなんて起きたら、また...あの時みたいに......」


 彼は飢えていた、滾りに、闘争に、血が沸騰する様なやり取りに...


「なんて、中2病でもあるし...はぁ、仕事しよ」


 なんの因果か、彼の願いは再び叶ってしまう、運命が故か、鬼神が故か...

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ