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騎兵戦

バルダ―ル鉱山をセレストリ辺境伯軍に攻め落とされたにも関わらず、領都を出発した8000のトラディション伯爵軍は、一兵も引き返すことなく、燃えて廃墟となったカスタリング砦の横を通り過ぎ、領地の境界にある山麓に布陣しているランズリード侯爵軍を目指して、ひたすら行軍を続けていた。


ランズリード侯爵軍は、尾根から100メートルほど降りた、なだらかな斜面に、1000の歩兵と400の弓兵、200の魔法兵が陣を敷き、その背後の尾根に近い場所に本陣を構えていた。

尾根から麓近くまで500~600メートルほど続く斜面は、立木がない草原で、騎兵が上から突撃するのに適した地形となっている。

事実、ランズリード侯爵軍がトラディション伯爵領に攻め込んだときには、尾根から騎兵を逆落としに突撃させて勝利している。

「ここで、トラディション伯爵軍を迎え撃つ。敵は8000、こちらは4000。兵数は半分じゃが、こちらは山の上に陣取っており、地の利がある。騎兵で逆落としに攻めれば、我らの勝利は揺るがぬ」

と、ランズリード侯爵は自信たっぷりに兵士を鼓舞した。どうやら、逆落としは、ランズリード侯爵軍の得意な戦法らしい。


しかし、俺は首を捻っていた。

確かに、この尾根は高さが700メートル程あり、麓からならそれなりの高低差があるが、傾斜はかなり緩やかで、岩を転がしても途中で止まってしまうほどだ。

トラディション伯爵軍は、騎兵の数が多いと斥候が伝えている。この世界の馬は、地球の馬より遥かに馬力がある。

『戦争には素人だが、敵騎兵が大軍で駆け上がって来ると、こちらの騎兵の逆落としの戦法は通用しないのではないか?』と感じた。

そこで俺は、隣にいるアンテローヌに

「この斜面を騎兵が駆け上がるのは難しいのか?」と尋ねた。

「簡単ですね。訓練された騎兵なら、平地と変わらない速度で駆け上がるでしょう」

と、さらっと答える。

「不味いんじゃないか?」と俺が思わず零すと、

「何がですか?」と、アンテローヌは不思議そうな表情を浮かべる。

「相手の騎兵が、一気に駆け上がって来たらどうする?」と重ねて聞くと、

「ご心配には及びません。我が軍には秘策がございます」と余裕の笑みを見せた。

しかし、それがどのようなものなのかは、軍事機密らしく、教えてはもらえなかった。


翌朝、とうとうトラディション伯爵軍が麓の森から姿を現した。

先頭は、横一列に盾の壁をつくって前進する歩兵だ。その数は3000位か?まだ全軍が姿を見せていない。

騎兵の姿も見えないが、まだ出て来ていないだけなのだろう。

山肌に設けられていた侯爵軍の本陣のテントは撤去され、ランズリード侯爵達は鎧を着せた馬に跨って、400の近衛騎馬隊と共に尾根に控えている。

ランズリード侯爵軍の歩兵は、尾根の下、100メートルぐらいの位置で、横1列に並んで敵を待ち構えている。こちらの歩兵の数は約1000。その数で、8000の敵の攻撃をどこまで防ぐことか出来るのか、俺には不安しかない。

敵の歩兵は森から出て100メートル程進むと、そこで立ち止まった。

距離は、まだ500メートル程あり、弓も魔法も届かない距離で止まっている。

暫くすると、敵に動きがあった。

歩兵達の一部が横に動いて、ほぼ5メートル間隔で、騎兵が通ることが出来る間隙が出来た。

更に暫く待つと、敵の騎兵が森の中から駆け出して来た。

敵の騎馬は全て、前部に馬用の鎧を着けており、矢を防ぐ備えをしていた。馬上の騎士も全身鎧だ。それが歩兵の間から続々と駆け出してくる。

馬の脚は速く、500メートルの距離の斜面を、あっという間に半分近く駆け上がって来た。

そのとき、木組みの装置を持った部隊が尾根の上に姿を現し、何かを打ち出した。

この世界のバリスタのようだ。

ヒュン、ヒュン、ヒュンと耳に残る音がして、太い矢が、次々と敵騎兵と衝突する。

バリスタの数はおよそ600。

『これがアンテローヌの言っていた秘策か』

バリスタから打ち出された矢は強力で、敵騎兵は次々と倒れていく。

敵騎兵が更に接近すると、今度は弓兵が放つ矢と、魔法兵が放つ魔法が降り注ぐが、鉄の装甲を着けた敵騎兵には、ダメージが無いようだ。

バリスタの攻撃を凌ぎ切った敵騎兵の数は多く、倒れた人馬を乗り越えて、歩兵の隊列に迫ろうとしたとき、味方の歩兵が左右に分かれ、尾根の後ろに隠れていたランズリード侯爵軍の騎兵が姿を現して、一気に山肌を駆け下りた。

駆け上がって来る敵騎兵は、まだ1500はいる。これに対する、ランズリード侯爵軍の騎兵はおよそ1000。1.5倍の敵とはいえ、敵は幾条もの縦列になっているので、その1列はせいぜい200騎程しかいない。

これに対して、ランズリード侯爵軍は、中央のみに集中した1本の槍のような陣形で突撃していく。

その結果、斜面を駆け下りる勢いを利用したランズリード侯爵軍は、中央正面の敵騎兵を粉砕して、その後方へと駆け抜けた。

これで中央の敵騎兵はいなくなったが、その左右には1000以上の敵騎兵が残っている。それが斜面を駆け上がり、ランズリード侯爵軍の歩兵に迫る。

ここで、もう一度、尾根の上からバリスタの一斉掃射があり、敵騎兵は更に数を減らした。

しかし、敵騎兵は、まだ800騎近く残り、歩兵やバリスタ隊に襲い掛かって来た。

ここで、尾根で待機していた400騎の近衛精鋭部隊が動き、これを迎え撃った。

俺達も尾根の上での激突に巻き込まれた形で参戦する。俺は、ハデスにオーリア達の護衛を命じて、ゼネラルアーマーだけを装着して、トラディション伯爵軍の騎兵に斬り込んでいった。

一方、敵騎兵の背後に突き出た味方の騎兵は、麓には向かわず、馬首を返して敵騎兵を追って斜面を駆け上り、敵騎兵の背後に迫った。この動きで、前後から挟撃された敵騎兵は総崩れになった。

この戦いで、2000からいたトラディション伯爵軍の騎兵は壊滅し、尾根の上の戦闘はランズリード侯爵軍の勝利に終わった。

しかし、山の麓には、まだ6000の敵歩兵が残っており、それが既に、進撃を開始していた。

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