激闘
俺が坑道で、ハデスとの連携訓練をしている間に、4人の影将軍とその手下達はカスタリング鉱山に着いて、坑道に侵入した。
『どうやら、奴らが着いたようじゃ』
『人数は、前と同じか?』
『同じじゃ』
『今の俺なら勝てるか?』
『ハデスの力を十分に使いこなせれば勝てるじゃろう。雑兵どもは、我が眷属とドッペルゲンガーで蹴散らそう』
『頼む』
その後、俺は解除していたゼネラルアーマーを召喚し、更にハデスも装着した。
ハデスとの連携を確かめるために、今回は、剣だけで戦うことにする。
ハデスが腰に差していた剣を抜いて、警戒しながら、入り口に向かって進む。
2層に上がったときに、前方から騒ぎが聞こえてききた。
フィアの眷属のケルベロスとドッペルゲンガーが、影の部隊とぶつかったのだろう。
「カカカカッ。人間どもめ、ここが我の住まいと知って押し入ったか。貴様らに地獄を見せてやろう」
芝居がかったドッペルゲンガーの大きな声が聞こえる。
俺は思わずニヤリとしたが、気を引き締め直して、『行くぞハデス』と念話で気合いを入れて、駆け出した。
50メートル程先では、数十人の黒い鎧を着込んだ者達が、ケルベロスとドッペルゲンガー相手に、激しく動き回っている。
ケルベロスは3つの口からブレスを撒き散らし、ドッペルゲンガーは、現れたり消えたりを繰り返しながらファイアボールを打ちまくっているので、黒い鎧の者達は、それを躱す為に動き回っているようだが、躱し切れずに、燃え上がっていく。
俺はそいつらのところに駆けつけると、問答無用で、手当り次第に斬り捨てていった。
すると、突然、黒い鎧の1人から、強烈な突きが放たれたが、ハデスの物理攻撃無効で、何のダメージも受けなかった。
『強い奴の1人か』
俺は無双剣を発動して、そいつに切り掛かったが、横合いからもう1人に斬り掛かられたので。攻撃を途中で止めて、そちらに対応する。
ハデスを装着しているので、相手の攻撃を鎧で受けてもいいのだが、それが癖になると怖いので、相手の攻撃には、ちゃんと剣で対応することにしている。
この2人とも、剣の腕が俺より遥かに上なので、ハデスの動きに身を委ねて戦うことにした。
俺の反応よりもハデスの反応の方が早い上に、予備動作が無い動きで対応するので、2人を同時に相手をしても互角に戦えた。
ときに攻撃をいなされて、普通なら身体が泳いでしまうときも、ハデスの不思議な力のせいで体が流れない。
このままでは、勝負がつくのに時間がかかるかと思ったが、突然、訓練してきたフェイントが決まる瞬間が来た。
ハデスが剣を振り下ろし、相手が躱した瞬間に、すかさずゼネラルソードを召喚して、俺自身の腕で二の太刀を浴びせた。相手は、この動きに対応できずに、俺のゼネラルソードが相手を斬り裂いた。これで1人目を倒した。
これを見た、もう1人が慌てたように後ろに跳び下がった。
「貴様、分身剣の使い手か?」
今の俺は、肩から右腕が2本生えたように見えているはずだ。相手の質問に答える必要はないので、そのまま間合いを詰めて、まずハデスが斬り掛かり、時間差で俺がゼネラルソードで斬り掛かる。
相手の動きが激しく、ゼネラルソードを戻している暇がなく、ゼネラルソードを出したままなので、フェイント狙いが使えない。
敵の手下達がこちらに駆け付けようとするが、ケルベロスとリッチのドッペルゲンガーが邪魔をして、それを許さない。ドッペルゲンガーは、1度に1体しか姿を現さないが、実は数体いるようで、それが交互に現れて魔法を乱射し、敵部隊の前進を阻んでいた。
このときハデスが、奇妙な動きをした。
剣を大きく振りかぶったが、剣筋が甘く、相手の攻撃を誘うような斬り付け方をした。普通なら、相手は剣で防ぐのだが、今回は勢いのないフェイントの攻撃と見て、相手はその剣を強く弾いた。
ハデスの持つ剣は、冥府の鎧の一部なので、物理攻撃無効の特性がある。
ハデスの剣が弾かれたとき、その勢いが強かったので、ハデスの剣は、それを防御ではなく攻撃と判断した。その結果、物理攻撃無効が働き、ハデスの剣は弾かれずに相手の剣を押し込んで、そのまま相手の肩から胸までを斬り裂いた。
この一撃で、ゼネラルソードを解除する余裕が生まれ、再び右手がハデスに包まれて、俺の手にハデスの剣が戻った。
2人目を倒したので、残りの強敵は2人になった。その2人は、まだ2層に下りて来ていない。
『残りの奴等はどうしている?』とフィアに聞くと、
『1層で、侯爵軍と戦っている』とフィアが答える。
『よし、助けに行くぞ』と、俺は2層に残っていた敵を全て殺して1層に急いだ。
影将軍とその手下達は、命令を受けた次の日にはカスタリング鉱山に着いて、俺を探して坑道に入ったが、それがランズリード侯爵家の者にバレない筈がなかった。
高度な隠密系の特殊スキルを持つ影将軍達だったが、隠密系スキルに関しては、ランズリード侯爵家の者達の方が、一枚上手で、坑道に入っていく大勢の気配を察知したランズリード侯爵家の息女達が精鋭を率いて、坑道の中まで追いかけて来た。
追手の一隊を率いていたのは、ランズリード侯爵家の長男テオドーレ、3女デュフォーヌ、5男サーバインの3名。
『ふん、低位の隠密スキルなど、気配が駄々漏れだ』
と、テオドーレはハンドサインで部隊に指示を出して、影将軍の部隊を、弓と魔法で狙い撃ちにした。
ランズリード侯爵家の秘伝の隠密スキルは、影将軍たちの隠密スキルよりも上位のスキルらしく、影達はこの追跡に気付けず、この攻撃で多くの者が命を落とした。
この為、4人の影将軍は、部隊を2つに分け、2人を俺の暗殺に先行させ、2人がランズリード侯爵軍の足止めの為に1層に残った。
奇襲で相手の数を削ったテオドーレ達は、ランズリード侯爵家秘伝の特殊スキルで姿を消して、ディフォーヌ、サーバインの3人で、残りの敵に斬り込んだ。
この3人は、ランズリード家のもう一つの秘伝である分裂剣を使う。分裂剣は、剣の一撃が複数の攻撃に分裂するスキルだ。テオドールは5分裂剣、ディフォーヌとサーバインは3分裂剣が使える。たった3人の一撃が、11人分の一撃になる。彼らが3回剣を振ると、30人近くが倒された。
100名程でランズリード侯爵軍を迎え撃った影将軍達だが、たった数分の間に、僅か数名にまで減ってしまっていた。
「くそ、これは罠だったのか?」
影将軍の1人が決死の反撃を試みたが、ディフォーヌの剣に金属鎧ごと上半身を斬り裂かれて倒れた。
そのとき、
「くっ、舐めるなよ」と、影将軍の中で最強とされるドーンが、金髪の騎士に斬り掛かって手傷を負わせて身を翻そうとした。
しかし、
「伯爵の犬め、死ね」
予想しなかった方向から現れた剣に腹を刺し抜かれて倒れた。
「サーバイン、この程度の敵に情け無いぞ」
ドーンを倒し、手傷を負ったサーバインを叱りつけたのは、手下の残りをせん滅していた長男のテオドールだった。
「兄上、申し訳ありません」
俺が1層に上がって来て、戦いの場に駆け付けたのは、ちょうど金髪の騎士サーバインが、青い髪の騎士テオドールに謝っているときだった。




