インビジブル
峡谷の反対側の崖を駆け上った後、一層深くなった森を進んでいた。
先頭を歩いていた俺は、気配察知と熱感知で、前方に何かがいることに気付いたので、顔の横で拳を握り、止まれのシグナルを出した。
超音波で探ると、姿は見えないが、30メートルぐらい離れた木の上に、3メートルほどの体を持つ何かが居た。
俺は振り向かずに、「オーリア、ルビー、分かるか?」と、2人も超音波で相手を把握しているか確認する。
「ああ、何かいるね」とオーリア。
「これがインビジブルか。話には聞いていたが、本当に見えないんだな」とルビー。
街での聞き込みで、この森にインビジブルがいるということを聞いてきたのはルビーだった。
この森には、インビジブルのスキルを持つ魔物がいるらしく、その魔石と素材は、インビジブルマントの素材として金貨100枚近い買値がつくという。そのため、インビジブルの情報が出ると、冒険者達は目の色を変えて森に殺到するそうだ。
インビジブルの魔石と素材からは、高度な錬金術によって、インビジブルマントが創られる。しかし、インビジブルマントはあまりにも高価なため、持っているのは王侯貴族か大商人に限られるということだ。
「殺るぞ」と言つつ、俺はクレイランスを3本創って打ち出した。
森の中では、木の枝が邪魔になってエアーカッターが使いづらい。それより、土魔法で硬化させた土の槍を創って打ち出す方がいい。槍の形だと、木の枝に邪魔されずに目標に到達するからだ。
土魔法の熟練度が上がったことで威力とスピードが増したクレイランスは30メートルほど先の何かを貫いた。
前方の木の枝の上から、いきなり血が飛び散り、何かがどさっと地上に落ちてきた。
傷ついたことで姿を隠すスキルが使えなくなったのか、3メートルもあるカメレオンに似た魔物が姿を現した。
俺は、血が飛び散ったと同時に、瞬動と縮地でそいつが落ちたところまで駆け付け、剣を首に突き刺して動けなくして、体にタッチしてスキルをドレインしてから、首を斬り落とした。
こいつがカメレオンだとしたら長い舌があるはずだと下顎を切り落として口の中を調べてみると、大きな舌を持っていた。
ルビーたちが駆け寄って来て、体内の魔石を探している。
その間に、俺は、自分のスキルを確認した。
インビジブル1、擬態1、刺突舌1、待ち伏せ1をドレインしていた。
『インビジブル。欲しかったスキルが、都合よく手に入ったものだ』とほくそ笑んでいると、
「魔石を食べるかい」とオーリアが、ゴルフボール程の大きさがある魔石を差し出だしてきた。
「俺はもうインビジブルをドレインしたから、ルビーかオーリアが食べた方がいいだろう」
「だけど、これを食べたら、他にも効果があるかもしれないよ」とオーリア。
俺は少し考えて、以前にゴブリンを食べたときのことを思い出していた。1体の魔物を全部食べ切ると、何かしらの称号が付く可能性がある。オーリアとルビーは、スキルドレインを持っていないので、この肉を食べてもスキルを得ることはないので、俺が全部食ってもも問題はない。
「魔石は、一旦持っておこう。俺は、こいつを丸ごと食べてみる。食べ終わるまで、周囲を警戒していてくれ」
「姿を消すスキルはドレイン出来たのかい」とオーリアが聞いてくる。
「ああ出来た。これで、砦の潜入は、かなり楽になる」
俺はカメレオンの肉を食べながら答える。
それから4時間かけて、俺はインビジブルカメレオンと勝手に名付けた魔物を食べ切った。
ステータスを確認すると、新しい称号として、
インビジブルの捕食者
(相手のインビジブルを無効に出来る)
を得ていた。
相手のインビジブルを無効にできるのか。
考えてみれば、インビジブルの魔物といえども、インビジブルからの攻撃は脅威に違いない。相手のインビジブルの無効化は、インビジブルの魔物には、必須のスキルなるのだろう。
同じように、砦に潜入したとき、インビジブルマントで姿を消した奴が、要所を見張っているかも知れない。そいつが、気配察知も熱感知も無効に出来るスキルを持っていたら、気付かないかもしれない。しかし、このインビジブル無効化があれば、少なくともリスクの一つは潰せる。
インビジブルのスキルを使ってみると、確かに姿を消せたが、インビジブルは5分位しか続かなかった。
「熟練度が低いからだろうな。頻繁に使って持続時間を延ばす訓練が必要だが、有用さは疑いない。この辺りにこいつと同じようにインビジブルのスキルを持つ奴がいるなら、時間をかけても探す価値がある。インビジブルの魔石は人数分欲しいから、暫く狩りを続けるぞ」
インビジブルは、気配察知があると騙されないが、目だけに頼っている冒険者はあっさり殺られかねない厄介な魔物だ。
3日かけて、さらに2体のインビジブルを倒すことが出来た。
この手の魔物は、待ち伏せが得意で、飛び道具の様な攻撃手段を持っていることが多い。
幸いなのは動きが速い魔物で、インビジブルのスキルを持っているものには出くわさなかったことだ。多分、インビジブルのスキルは、じっと待つということと関連したスキルなのだろう。
2日目に、もっと森の奥に進んだところでインビジブルカメレオンをもう1体狩った。攻撃パターンを確認するために、近づいて攻撃させてみると、透明な舌を3メートルも打ち出してきたが、インビジブルが無効になっている俺には見えるので、簡単に躱すことができた。舌の先端は固くて尖っているので、これで相手を刺突して捕食するのだろう。こいつの魔石はオーリアに食べさせた。
その翌日は、収穫が無く。その次の日には、インビジブルを使うジャイアントマティスンを狩った。こいつは体長1.5メートル程の大カマキリで、エアカッターを撃ってくるが、全てウインドシールドで防いだ。
魔法を使えない場合、鉄の盾を持ち鉄の全身鎧を着込んでいれば、剣か槍で普通に倒せる相手だが、気配察知がないと、狩る前にかなり怪我をさせられるだろう。
こいつの魔石は、ルビーに吸収させた。
こえれで、オーリアとルビーもインビジブルのスキルが使えるようになった。
最初に手に入れたインビジブルカメレオンの魔石は、クレラインに魔石進化の固有スキルが現れたときの為に取っておくことにして、一旦インビジブルの捜索は打ち切りにすることにした。




