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ナザニエール

クラガシアからナザニエールへの道のりは、ナンガブール山の裾野からやって来る亜人の襲撃も警戒しないといけない。


この頃には、霧魔法で馬車を覆うことが出来るようになった。馬車を中心に半径5メートル位が霧に包まれて、霧の外から馬車は見えなくなっている。

この霧に精神干渉を掛ける。どこまで効果があるかは分からないが、霧に触れると不快感を覚えるように精神干渉を掛けたので、人も魔物も、わざわざ霧の中には入ってこないはずだ。霧魔法の熟練度が上がって霧の出せる範囲が50メートル位にまで広がると、かなり効果があると思うのだが。ただし、霧魔法は応用魔法の為に、ステータスを調べることが出来ない。


野営地を決めて夕食を食べた後は、日課となっているルビーを相手の模擬戦を行った。

ルビーは、ステータスが元に戻っていないとはいえ、剣術の熟練度が16もあって、俺だけでなく、クレラインもオーリアも軽くあしらわれた。


クラガシアを出てから4日目の夕方、予定通りにナザニエールに着いた。

冒険者の標識を見せて街に入った。

すぐに宿屋を探して4人部屋を取った。移動中は野営で出来なかった分、女達の欲求不満が溜まっていたようで、この夜は、朝まで眠らせてもらえなかった。


俺は、このナザニエールでは、少しの間腰を据えて、鉱山の情報を集めらつもりでいたので、次の日は午前中いっぱい眠って過ごした。


フレイラの話では、ナザニエールの街は、ナンガプールの裾野から流れて来る強い魔物を狙って、多くの腕の良い冒険者が集まっているとのことだった。

その為、領地の防衛を担うトラディション騎士団は、領都のトラディションに配置されていて、この街の防衛は、もっぱら街の冒険者ギルドと衛兵隊に任されているという。

その分、ナザニエールの冒険者ギルドは、他の街のギルドと違って、社会的地位が高いらしい。

その理由は、ナザニエールの冒険者ギルドには、ナンガブール山の裾野から魔物や亜人が溢れて街に攻め込んだときに、冒険者を強制的に召集出来る権限が与えられているからだ。

とはいえ、この権限もザルで、街に登録した冒険者だけが対象のため、それを知っている冒険者達は、ナザニエールに来ても、半数近くが冒険者ギルドに登録しないという。


フレイラがこういう情報を持っていたのは有難かった。それを知らずに、他の街の冒険者ギルドと同じように登録していると、この強制召集に駆り出されるかもしれなったからだ。


そうすると、ギルドに登録していない冒険者は、どこで情報を収集したり、素材を売ったりしているのか?

フレイラもそこまでは知らなかったので、街に出て探ってもらうことにした。

「3人は、街の冒険者から、冒険者の活動や魔物のことを聞いてくれ。俺は、鍛冶屋を探して、鉱山について聞き込みをしてくる」

女達にそう指示をして、俺は自分自身にノーボディをかけて、1人で街に出た。


夕方、全員が宿に戻ると、

「何か分かったか?」

「ああ、ギルドに入らない冒険者は、いくつかの酒場を溜まり場にしていて、そこで情報交換をしている」

「素材はどうしている?」

「素材は、道具屋、毛皮屋、肉屋などに、個別に持って行くそうだ」

「他に、何か分かったか?」

「冒険者が多いだけあって、問題も多いようだ」

「問題?」

「冒険者がいくつかの派閥に別れていて、あまり仲が良くないようだ」

「揉めているのか?」

「揉めているところは見なかったが、雰囲気が良くない」とクレライン。

「情報を集めるには、むしろいい環境かもしれないよ」とオーリア。

「いくつかの派閥に別れているなら、二手に分かれて、別々の派閥に接近するかい?」とルビーが提案する。

「その前に、冒険者の強さはどうだ?」

「ベテランがほとんどだ。それ以下の冒険者は、ここでは仕事が出来ない雰囲気だった」

「魔物が強いのか?」

「魔物が強いし、亜人は強いというか、やっかいだそうだ」

「亜人が厄介なのは何故だ?」

「体がデカくて力が強い上に、群れで行動しているらしい。その上、皮膚が硬いのに、傷を負わせても直ぐに治ってしまうらしく、なかなか倒し切れないということだ。見つけたら逃げるのが一番だそうだ」とクレライン。

「魔物の中で危険な奴は?」

「アイアンクラッシャーらしい」とオーリア。

「アイアンクラッシャー?」

「アイアンクラッシャーは、拳の大きさくらいの虫だそうだ。石よりも固くて重く、空から降って来るということだ」

「振ってくる?」

「空から降ってくるようにして地上にいるものを、全て破壊してしまう。多数で一斉に降って来るから、避けきれないし、鉄のように硬いから、盾や兜も割られてしまうらしい」

「それは、危険だな」

「こいつも、見つけたら逃げるしかないそうだ」

「で、鉱山については何か分かったかい?」と今度は、俺の成果を聞かれた。

「ここから、一番近い鉱山はバルダールというそうだ。馬車で3日程離れているらしい。鉱山の麓には要塞があるらしくて、兵隊が坑道の入り口を見張っていると言っていた。坑道に潜り込まないと、中の様子は分からないようだ」

ルビーや俺が、初めて来た街で簡単に情報を聞き出せたのは、精神干渉を使っていたからだ。話しかける相手に、あらかじめ精神干渉をかけておくと、こちらを警戒することなく、聞いたことに答えてくれる。

もっとも、一般人が知っていることは少ないので、集めることが出来た情報に重要なものはない。


「それじゃ、これからどうするんだい?その鉱山に行くのか?」とオーリア。

「いや、よそ者は砦の中には入れないということだからな、皆で行っても仕方がない」

「それなら、どうするんだい?」

「俺1人なら、砦に忍び込めるかもしれない」

「例のスキルかい?」

「ああ、そうだ。しかし、忍び込むには、砦に出入りしている奴に化ないといけない。そのためには、砦の入り口を近くで見張らないといけないから、俺1人で行動しないといけなくなる」

「1人で行動するのは、危険すぎる」とクレライン。

「私には、精神干渉のスキルがあるから一緒に潜入できる。私を護衛として連れて行ってくれ」とルビー。

「私もルビーも、魔石でスキルが増やせるから、暫く魔物を狩って、もっと強くなってから砦に忍び込んだ方がいいんじゃないかい」とオーリア。

「亜人に上位種がいたらその魔石を吸収すれば、召喚出来る眷属が増えるんじゃないか」とクレライン。

「いっそのこと砦を攻めて落としてしまえば簡単なんじゃないか?」とルビーが乱暴なことを言う。

「今回の調査は、出来るだけ隠密にやるんだ。派手に暴れるのは無しだぞ。しかし、強い魔石で俺達自身を強化するのは賛成だな。明日、街を出て、暫く森の中で泊まり込んで魔物を狩ってみるか」

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