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ルビー 2

利き腕の手首を失って、剣の腕が平凡な冒険者並みに落ちたように見えたが、元々、両刀使いで、左手でも剣が扱えたルビーは、右手首を失ったバランスを覚えると、急速に剣の冴えを取り戻していった。

先程まで互角に打ち合っていたデュエットが、今では、一合も持たない。ルビーの初太刀で、打ち合いが終わってしまうようになった。

そのルビーが「どうだい、ご主人様もやるかい?」と声をかけて来る。

「ご主人様って、俺のことか?」

「他に誰がいるんだよ?」

「あんた呼びでいいぞ」

「とにかく、やってみなよ」

「それじゃ、やってみるか」

俺は木剣で打ち込むが、全く歯が立たない。

「足の踏み込みが足りない。その倍は踏み込むつもりで、もう一度、打ち込んで来な」と、指導が具体的で、教え方が上手い。

数合打ち合って、動きを何ヵ所も修正されると、今までとは、剣の動きが変わってきたのが自覚出来た。

他の皆も、手を止めて、俺達の立ち合いを見学して、関心している。

「へ~、そんな風に動けばいいのか」と、クレラインとオーリアも関心している。

ルビーは手を止めて、

「一度、デュエットとやってみな」と、俺とデュエットとで立ち会いをさせた。すると、俺の初太刀が、簡単に決まった。

「「えっ」」

お互いに、意外過ぎて動きが止まった。

「どうしたんだい。私が教えたんだ、それくらい出来て当然だ」とルビーが自慢する、

「ルビー、私にも教えてくれない」とデュエット。

「よし、いいぞ。ご主人様、交代してやってくれ」

こうして、俺、デュエット、クレライン、オーリアの4人は、夕方まで、ルビーの指導を受け続けた。

「最後に言っておくけど、これで強くなったと思ったら大間違いだよ。今の動きを体に覚え込まさないと、強い奴を相手にすると、素の動きが出て負けちまうからね」


強さを取り戻したルビーを見て、俺はルージュの言葉を思い出した。

そして、オーリアを皆と離れた所まで連れて行って、ヒソヒソ話をする。

「ルージュが、ルビーを影にしろと言うんだ」

「私も、同じことを考えていたところだよ」

「どういうことだ?」

「今のあんたは、もう国中の組織から注目されているのは間違いないからね」

「俺は、そんなに目立つことをしたか?」

「自覚が無いのかい?まず、エズランドのギャングのボスを殺しているだろう。次に、アンデオンの闇ギルドの幹部を4人も殺して、公爵家の女に囲われて、王都の街道周りの盗賊や王都の闇ギルドもだいぶ殺しただろう。その上、海賊の幹部まで奴隷にしてしまった。エルトローレの奴隷商や領主は、あんたを殺したいほど憎んでいるだろうしね。これで、目立たない筈がないだろう」

「それはだな」と、俺が弁解しようとするのを、オーリアは止めて、

「そういえば、ルビーが光ったと言ってたけど、あんたの眷属になったのかい?」

「ああ、そうだ。何故か、眷属になっていた」

「それなら、ルージュはどうなんだい?」

「ルージュか?ルージュは、怨霊だぞ」

「いいから、確かめてみなよ」

オーリアが言うので、ルージュが憑依したと言っているブラッドスライムを鑑定した。


名前 ルージュスライム

種族 怨霊スライム

固有スキル 憑依 呪い 呪い無効 スキルドレイン(接触時) 魔石進化(魔石吸収時) 魔力ドレイン(接触時) ◇■&#x▽◎  ◯◎&#▲◇

スキル 分裂、変形、変色、液化、溶解、吸収、気配察知、熱感知、◇△&#○、&#▲▽◎、 ◎&#◆&#△、△◎&◇▲○


状態 ダブリンの眷属


「げっ、ルージュが眷属になっている。しかも、スキルに、死者の言葉が混じっている」

「やっぱりそうか。それなら、私とクレラインは勘定に入らないとしても、あんたは、海賊の幹部、魔物2匹、怨霊1体の眷属を引き連れていることになる。あんた自身の強さも含めると、国レベルでの監視対象になっていてもおかしくないね」

「国レベルでの監視対象か?それなら、影なんかつくったら、余計に警戒されるじゃないか」

「今更だよ。とっくに警戒されているって。だからこそ、影をつくっておく必要があるんだ。そして、強さからいって、影の適任者はルビーしかいない」

「オーリアはやってくれないのか?」

「私じゃ力不足さ。ルビーとルージュに任せておけばいいよ」

「ルージュもか。しかし、勝手に影なんかつくって、テレナにバレたら不味いんじゃないか?」

「テレナは力を貸してくれって言ってたんだろう。だから、ルビーを処刑せずにあんたの奴隷したんだよ。第一、エルトローレに行くときにも、私達を同行させずに、2人の騎士に任せているだろう。あれは、戦力的に、私やクレラインでは、無理だと判断しているからだよ。実際、ヴィエラとアリシアは強い。あれくらいの強さがないと、テレナの仕事は出来ないということさ。だから、ルビークラスの奴を集めて戦力を整えてくれってことだと思うよ。ルビーの名前を消して、あんたに渡したのはその為さ」

「ルビーは、その為に名前を消されたのか?」

「フスタール同盟の貴族に正体がバレないようにするのが一番の目的だろうけど。沈黙の魔法というのは、本来は、影が敵に捕まった時に、口を割らないようにするための魔法だ。そのことだけでも、ルビーを影にしろといっているようなものだよ」

「そうなのか?それなら、何で、直接言わないんだ?」

「今すぐ影にしろとまでは、思っていないんじゃないかな」

「どういうことだ?」

「テレナの男にふさわしい力を、あんたが身に付けるまで待っているじゃないかね」

「俺が、テレナにふさわしいかと言われたら、まったく、足りていないぞ」

「そんなことはないさ。あんたがやって来たことを思い返してみなよ。ただし、テレナにふさわしい男になるには、自分の手下も持っていないとダメだ。ちょうどそこに、ルビーが転がり込んで来た」

「手下や影のつくり方なんて、俺には分からないぞ」

「ルビーに任せておけばつくってくれるさ」

「オーリアは加わらないのか」

「私は、あんたの相談役で止めておいて欲しいね。それより、最後に頼れるのは眷属だけだってことを肝に銘じておくんだよ。あんたは甘過ぎるからね。ホイホイと人を信用し過ぎるけど、テレナにしても、パティにしても、あんたがいなくても生きていける。だけど、私達眷属は、あんたと一蓮托生なんだ。本当は、ここまでの利害関係を持った者しか、信用しちゃいけないってことを覚えておいておくれ」

なんか、胸にズシッとくることを言われた気がした。


その後、俺は、ルビーを黒幕で覆われた一角に連れ込んで話をした。

「ルビー、俺の影になる気はないか?」

「影って、あの影か?」

俺が頷くと

「頼まれなくても、勝手に、そうするつもりだったけどな。ちょうど、名前も変わったことだし」

「ひょっとして、テレナは、そんな命令をしたのか?」

「それはない。言っとくけど、あの姫さんの考えは分からないよ。あんたは、あの綺麗な顔に目が眩んで分からないかも知れないけど、あれは化け物だ。あんな恐ろしい奴は、海賊の中にもいない。見た目に誤魔化されないようにしなよ」

と意外なことを言ってくる。

まあ、テレナはこの国で3本指に入る剣豪らしいから、強さだけからいえば、化け物と言っていいかも知れない。まっ、ルビーが違う意味で言っているのは分かっているが。

「お前だって、相当な美人だぞ」と答えると、

「茶化すんじゃないよ」と耳が赤くなった。

「それで、影というからには暗殺もするんだな?」

「先ずは、俺の護衛として、いつも俺の側に控えてくれ。試したいことが色々ある」

「こんな姿になってしまったのに、側に居ていいのか?」

「変装の手段を渡す」

「変装の手段?」

「これを受け取れ」と、ルージュスライムをルビーの左の掌に押し付けた。その瞬間に、ルージュスライムの半分が、無事にルビーの方に移動したようだ。

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