ルビー1
数日後、俺達のスイートルームに、テレナが、スキンヘッドにされた上、頭から目の周りかけて黒い刺青を入れられた女を連れて来た。
「これが、あの海賊の女だ。頭と目の周り刺青は、死罪相当の犯罪奴隷の印だ。だからこの女を連れて街を歩くなよ。死罪相当の犯罪奴隷を連れて歩いていると、衛兵が飛んで来るからな。刑罰は、もう一つある。おい、口を開けて、舌を出せ」
テレナに命令されて、女は口を開けて舌を出す。その舌にも刺青が彫られていた。
「沈黙の魔法を込めた刺青だ。奴隷の持ち主の命令がないと話が出来ない効果がある。この刺青にそなたの血を垂らして、そなたがこの女の持ち主になってやれ」
俺が固まっていると
「この女が要らないのか?この女はお前の奴隷にしてくれと、泣いて頼んでいたぞ」
俺は思わず首を振って
「いや、そうじゃない。刑罰の内容に驚いただけだ。この女との約束は守る」
「ならば、早く、舌に血を垂らしてやれ」
俺はナイフで左手を少しだけ傷付けて血を出すと、その血を右手の人差し指の先に付けて、口を開けて待っている女の舌に擦り付けた。
女が安心したように口を閉じると、女の体が少し光った。
「今、光らなかったか?」と聞くと、
「いや、光らなかったぞ」とテレナ。
「それより、これで、そなたが命令したら話せる筈だ。話すように命令してやれ」とテレナが言うので
「お前の名前は何て言うんだ?」と聞いたとたんに、
「あんたの女にしてくれたんだね。よかった」と言って、俺に抱きついてきた。
「安心しろ。お前は俺のものになった。この部屋にいるときは、自由に喋っていいぞ。さあ、名前を教えろ」
奴隷になると、ステータスボードに出るんだよな。と思いながら、この女がステータスボードに出ているか確認する。
名前
種族 人間
性別 女
年齢 21
ジョブ 海賊
筋力 B-
耐久 C++
俊敏 B+
魔力 C++
抵抗 C+
スキル 剣術7(18)、短剣術7(19)、(両刀術17)、隠密3、怪力6、敏捷9、気配察知7、航海術5、操船4、潜水7、無呼吸耐性2
状態 奴隷、呪い(沈黙)、欠損(名前、右手首)、ダブリンの眷属
「名前は、分からない」と女が答えたので、ステータスボードをもう一度見ると、確かに名前の欄が空白になっている。そして、欠損の中に、名前がある。その上、元のステータスが高いし、俺の眷属になっているし、驚くことばかりだ。
「テレナ、こいつの名前は?」と聞くと
「前の名前を持ったままだと、正体がバレることがあるので、名前は消している」
「そんなことが出来るのか?」
「この女がここにいることがバレると厄介だからな」
「そうか、それなら名前をつければいいんだな」
『この女は赤毛だったから、赤、レッド、いや、そのまま過ぎる。ルビー、そうだルビーがいいな』
「よし、名前を付けるぞ、お前はルビーだ」
「私は、ルビー。・・・。私はルビーなんだね。名前をくれたんだね」と、俺に抱きついたまま泣き始める。
「ねぇ、このまま抱いておくれよ。でないと、不安で死にそうなんだよ。あのイケズな女に酷い目に遭わされたんだから」とテレナの方をチラ見する。
「テレナの悪口を言うな」と俺が言うと、それが命令になったのか、ルビーは口をバクバクするが、声が出なくなった。
『サイレントの魔法と全く同じだ。すると、サイレントの魔法は、呪いなのか?』と考えていると、テレナが服を脱ぎ始めた。いや、テレナだけでなく、部屋にいる全員が服を脱いでいる。そして、アリシアとヴィエラがルビーの服を脱がし始め、パティとオーリアとクレラインが俺の服を脱がしにかかっている。
「何をしている?」と聞くと、「サークルの決まりだよ」とパティ。
そうか、生娘がサークルに入って来たときは、サークルの女全員でベットに入るって言っていたな。そんなことを思い出しているうちに、俺はベッドに運ばれて、ルビーと合体させられていた。
テレナは服を着ながら、
「それでは、私は行く。その女を、ちゃんと躾けておいてくれ」と言って、部屋から出て行った。
この部屋に引っ越して来てから、母系家族の家に入婿した感が半端ない。
確かにこの世界に来てから、女に不自由していないなんてものじゃない。女の方から次々と押しかけてきて、勝手に増えて行く。だけど、女達は、俺が女を増やしていると思っているようだ。これでいいのか、悩み始めている。
夜は、必ずテレナの寝室に誘われる。
「そうだ、急な話だが、明後日から2週間、王宮に詰めなければならない。その間、この屋敷には戻って来られない。騎士団も10名連れて行くから、この屋敷自体も手薄になる。その間、この屋敷を守りを手伝って欲しい。そなたの家族も含めてな」
「2週間か?長いな」
「それは、色々あってな。詳しいことは、国家機密だから話せない」
「国家機密か、それなら聞かないでおくよ。その間は1日でも帰って来ることはないのか」
「無理だな」
俺が、見るからにががっかりしたのだろう。
「そんなに気を落とすな。仕事が終われば帰って来る。私もそなたと一緒にいたいという思いは同じだ」と、慰められてしまった。情けない。
「分かった。留守の間、この屋敷を守るよ」
「ヴィエラとアリシアも連れて行く。スターシアとラミューレを残していくから、何かあれば、彼女達と相談してくれ」
テレナが2週間留守にするという話に、俺は少しショックを受けていた。いや、ショックを受けたポイントはそこじゃない。その2週間、何をするのか、国家機密だからと何も教えてくれなかったことに、ショックを受けたのだろう。
翌朝、テレナが出掛けた後の寝室で、ボーとしていたとき、
『姫さんに、突き離された気持ちなのかい?』
と頭の中で声が聞こえた。
『ルージュか?』
『あんたも、そろそろ考えた方がいいよ』
『何を考えるんだ?』
『あのルビーというのは使える。あんたの影として、育てな』
『影?』
『あんた自身の戦力を整えろってことだよ』
『俺自身の戦力?』
『これからは権力争いを覚悟しなきゃいけない。そのときの為の戦力さ』
『権力争い?』
『姫さんも言っていただろう。黒幕に手を出すには準備が必要だって』
『テレナは、フスタール同盟と、ことを構えるつもりだというのか?』
『少なくとも、子供を誘拐した連中には、責任を取らせるつもりだろうさ。だから、あんたを頼りにすると言ったんだろう』
『ピンと来ていなかったけど、そういうことか』
『私が体を二つに分けるから、半分をルビーに渡しな。ルビーの素肌に手のひらを当ててくれたら移動するよ』
『ルビーにくっ付いて、どうするんだ?」
『私がルビーの顔に貼り付けば、ルビーは誰にでも化けられる』
『変装用マスクになるのか?頭の刺青はどうする?』
『刺青は私が隠すから、その上からカツラを被ればいいい』
『影ならオーリアの方が適任だと思うんだがな』
『オーリアは、頭はいいが弱過ぎる。ルビーなら、影としての最低限の強さがある』
『剣術の熟練度がだいぶ落ちていたぞ』と、俺はルビーのステータスを思い出しながら言う。
『あいつは元々両刀使いだ。直ぐに、強さを取り戻すさ。それに片一方の手首が無いのもいい。細工ができるからな』
ルージュが言い出した、俺自身の影をつくるというのは気になるので、知恵袋のオーリアに相談しようと思った。
俺達にあてがわれたスイートを覗くと、誰もいない。
クレラインとオーリアとデュエットは練兵場だろう。パティとアルミは屋内練兵場か、ルビーは何処へ行ったんだ?と思いながら、練兵場に出てみると、クレライン達がいない。それではと、屋内練兵場に行くと、全員がそこに居た。
驚いたことにルビーが左手に木剣を持って、デュエットと打ち合っている。左手のルビーとデュエットは互角のようだ。利き腕がある時は、ヴィエラより強かったのに、悔しいだろうな。
クレラインとオーリアが2人がかりで、ヴィエラと打ち合っている。稽古を付けてもらっているようだ
部屋の片隅で、パティとアルミと、アリシアが、椅子に座って何かしている。俺が近づくと、アルミが顔を上げて、
「ダブ、これを見て」と土で出来た茶碗を見せてくる。なんだか親子のような会話だが、アルミにとっては俺はどういう存在なんだろうと疑問が湧くが、
「アルミが作ったのか?」と聞くと、「パティに教えてもらっているの。私も陶芸職人になろうかなぁ~」と可愛いことを言うので、
「いいな。パティという師匠が側にいるんだから、しっかり教えてもらえよ」と励ます。
パティとアリシアは2人で頭を寄せて、何か細かい作業をしているので、
「アリシアも、陶芸をするのか?」と聞くと、
「パティに土魔法を教えているのよ」とアリシア。
パティが顔を上げて
「アリシアが教えてくれる土魔法を使うと、これまでと違った焼き物が作れるそうなんだ」
「そうか、それは良かった」
剣士組みと土弄り組みに別れたが、皆でまとまっているようで良かった。
そのとき、ルビーの傷口がどうなっているのかが気になって、
「ルビー、傷はもういいのか?」と聞くと、ルビーは打ち合いを止めて、口をバクバクさせている。そうか沈黙の呪いだったな。
「俺に返事する時は、喋っていいぞ」
「ありがとう。やっと声が出せるようになった。ホントに」パクパクパク、
急に声が出なくなった。テレナの悪口を言おうとしたんだろう。
「テレナの悪口を言うなと言っただろう」と釘を刺しておく。
「傷口は、あんたが治療してくれたんだろう。あんたが診てくれよ」
と言いながら、俺の方に歩いて来る。仕方がないので、俺の方からもルビーに近付き、手首のない右腕を掴んで目の前に持って来る。
そう言えば、血を止める為に俺のブラッドスライムを貼り付けて、そのまま忘れていたな。
手首の斬り口は、まだブラッドスライムに覆われていて、傷の様子が分からない。
「痛くないのか」
「全然痛くない。不思議だ。あんたが魔法を掛けてくれたんだろう」
ブラッドスライムを剥がして傷口を見て、症状が悪化したら困るので、そのままにしておく。
「ズキズキしたりもしないのか?」と念を押すと、それもないと言う。
もし、それが誰にでも効果があるなら、俺のブラッドスライムは、超便利な絆創膏として使えることになる。例えば俺が深手を負っても、すぐにブラッドスライムで傷口を塞げは、血が止まり、痛みも無くなるということになる。そのほかに、ちょっとした傷に、バントエイドみたいな使い方も出来るということになる。自分のスキルなのに研究不足だった。
★★★ 重要なお知らせ ★★★
この続きであるルビー2は、
明日土曜日の20:00頃にアップしたいと思います。




