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大誘拐団 8

そのまま、その場所に留まると、他の海賊が来るかもしれないので、女を背負って、下流へと移動した。

腰の皮袋から丸薬を取り出して飲ませようと思ったが、まだ気を失っているので、口移しで飲ませた。

ついでにこの女のスキルをドレインすると、両刀術1が身に付いた。

丸薬を飲ませて暫くすると、女は気が付いた。そして、俺が居るのに気が付くと、無事な方の手で腰のナイフを探した。

だが、気を失っている間に、武器を取り上げているし、木立の根元に足首を縛り付けているので、身動きも取れない。

「何が乙女の危機を助けただ。こんな風に縛り付けて、痛ぶるつもりだろう」と非難されたので、

「そんなつもりはない。ただ逃げられないようにしただけだ」と答えた。

「縄を解け」

「まず、質問に答えろ。子供達はどうした?」

「子供達?」

「お前達が、子供達の誘拐に関わっていることは分かっている」

「どうしてそれを?」

情報屋の言っていたことは正しかったようだ、それにしても、何者だろうな?あの情報屋は。

「口を滑らせてしまうぐらいなら、いっそのこと、全部吐いてしまえ」

「私は、子供達の誘拐に手を貸すのは嫌だった。大人を殺すのは何とも思わないが」

「喋る気になったか?」

「お前は悪い奴ではなさそうだな」

「海賊に言われたくないぞ」

「貴族達の依頼だった」

「貴族達って?そう言えば、海賊のバックにはフスタール同盟がいるって話だったな」

「そうだ。そのフスタール同盟だ。そいつらの依頼で、王都から船で運ばれてくる子供達を受け取って、エルトローレの街の奴隷商に引き渡すことになっている」

「子供達は、今、何処にいる?」

「1回目は、もうエルトローレの奴隷商に引き渡した。今は、次の連絡を待っているところだ」

「今夜、なぜ、俺達を襲った」

「もっと稼ぎが欲しかったからだ」

「最初の子供達は何人いた?」

「150人位だ」

大掛かりだな。貴族達が背後にいるのは確かなようだ。しかし、そうなると俺たちには手に負えない。後は、エレナの仕事だ。

そう考えて、船に戻ろうとすると、

「待て、私を置いて行くな」と女が叫ぶ。

「どうしてだ。ここで待っていたら仲間が助けに来てくれるかもしれないぞ」

「それは嫌だ。お前もさっき見ただろう。片手を失った今の私では、男達に弄ばれるだけだ。頼むから置いて行かないでくれ。重要な情報も話したじゃないか。証言だってしてもいいぞ」と、必死で訴える。

俺が思案していると、

「頼む。お前の女になってもいいから。いや、お前の女になる。この怪我に魔法を掛けてくれたんだろう。痛みが無くなっている。ここまで助けたら、途中で放り出すな。最後まで助けてくれ。お前のためなら何でもするから、連れていってくれ」

魔法というのは、何のことを言っているのかはっきりしないが、どうやら、ブラッドスライムで傷口を塞いだことを、癒し系の魔法と勘違いしているようだ。

「俺を、裏切らないか?」

「裏切らない。誓いを立てもいい」

「そうか、それなら連れて行こう」

こうして俺はその女を連れて、船に戻った。


船で、ヴィエラとアリシアの前で女にもう一度話をさせると、

「これはテレナ様に直接聞いてもらわないといけないな」という結論になった。

「この女はどうする?」と聞くと、

ヴィエラは、「樽に詰めるか」と言って女を素っ裸にすると、樽の中に座らせ、上から蓋を閉じてしまった。

女は、樽に押し込められながら、

「私はその男の女だからな。それが条件で付いて来たんだ」と叫んだので、

「その件については、テレナ様の判断を仰ぐ」と言われて、ヴィエラとアリシアにそっぽを向かれてしまった。

女は、もう樽から出られなかなったし、狭い樽の中で身動きも取れないだろう。酒を注ぐ為の穴が、空気穴の役目をしているだけだ。

『食べ物やトイレはどうするんだ』と思っていると、「水と食べ物は、その穴から差し入れてやる」とのことだった。

船に損傷がなかったので、翌朝、桟橋を出航し、2日後、王都に着いた。護衛の料金は、船から降りるときに、船長から手渡された。

ヴィエラが、女海賊を閉じ込めた樽を貰い受けると言うと、俺達の正体を察していた船長は、「好きにしてくれ」と言ってきた。

俺が樽を肩に担ぎ、そのまま、第3騎士団の本部に戻り、テレナに報告した。

デュエットには、先に、パティ達のところに行ってもらった。


テレナは直ぐに樽の囚人を見たいと言ったので、地下室に樽を運び込んだ。

同席しているのは、テレナとヴィエラとアリシアと俺、それにテレナの護衛のアンドレラだけだ。

ヴィエラが樽を開けると、糞尿の臭いが凄かったが、女は気を失っていただけで、まだ生きていた。

テレナは、ヴィエラに命じて女を樽から出して、水を何杯もかけさせて臭いを落としてから、尋問を始めた。

女の話は、俺達が聞いた通りで、特に新しいことは無かったが、

「子供の誘拐は、フスタール同盟の依頼だと言うんだな?何か証拠はあるのか?それとも貴族の名前は出せるのか?」とテレナ。

女は首を横に張って

「証拠なんてあるわけない。貴族の名前は分からないが、伯爵だったと思う」

「証拠はなしか。それに、伯爵だと?それだけでは、何も分からないのと同じだ」

テレナは暫く考え込んでいたが、やがて話題を変えて、

「ところで、この男の女だと言ったそうだな。手を出されたのか」と冷たい声で問いかける。

「いや、まだだ」と女が答えると、

「それでは、この男の女ではないではないか」

「いや、私は誓いを立てた。この男の為なら何でもすると」

「何でもするだと?何故、そこまで言う?」

「その男に助けられたからだ」

テレナは、俺の方に向き直って

「その話は聞いていないぞ」と、再び冷たい声を出した。

「俺が、船から逃げたその女を追いかけて岸に上がると、仲間の海賊に無事な方の手首も斬り落とされるところだったんだ。だから、その男の首を刎ねた」と説明すると、

「なるほど、無事な方の手首も斬り落とされるところだったのか。海賊の中で、そういう目にあった女はどうなる?」と今度は、海賊の女に聞く。

「男達に弄ばれるだけだ」と、女はさも嫌そうに答える。

「それで、助けられたことを恩に着たのか」

「それもある。だけど、この男が悪い奴には思えなかったから、残りの人生を、この男に賭けてみようと思った。それに・・・」

「それに何だ?」

「あんたにだけ言うから、耳を貸してくれ」

「テレナ様、危険です」とアンドレラが止めたが、テレナは女に耳を近付けて、女の言葉を聞くと頷いた。

「そなたのことをどうするかは、少し考えてみよう。それまでは、地下牢だ。この女を地下牢に入れておけ」

ヴィエラとアリシアが、女を隣の地下牢に入れた後、

「執務室で、もう少し話を聞こう」と言われた。


執務室で2人だけになると、テレナはくるりとこちらを向き、仮面を外して、俺に抱き着いてきた。

「少し目を離すと、次々に女をつくるんだな。いくら女をつくってもいいが、私のことを忘れるなよ」

と言うので、正面から菫色の瞳を覗き込みながら、

「こんな美人を忘れるわけないじゃないか」というと、

「それだけか?」と聞いてくるので、

「優しくて」

「それで?」

「賢くて、思いやりがあって」

「それで?」

「俺の中で一番の女だ」と言うと、情熱的なキスをされた。


その後、テレナは体を離し、仮面を着けると

「今回はお手柄だったな。これで、川を使って子供が運ばれていると確信が持てた。しかし、証拠がない以上、あの女は証人としては使えない。海賊ということを隠して、ここで匿ってみるか」

「あの女は最後に何を言ったんだ?」

「気になるか?」

「気になるとも」

「ふふふ、乙女の危機を救われたんだとさ。あの女は、男を知らないそうだ。初めての相手をそなたに決めたと言っていたぞ」

「そんな・・・」

「思い当たることがありそうだな」

「あれは」と俺が説明しようとすると、片手を挙げて、

「残りは、夜にでも聞こう。それより、仕事の話だ」

「仕事の話?」

「あの女は、犯罪奴隷にして、そなたに与えるから、保護してやってくれ」

「保護?」

「誘拐事件のバックにフスタール同盟がいるとなると、迂闊には動けない。幸いあの女のことは、他の騎士団には知られていないから、あの女の存在は隠しておく。騎士団の中にもフスタール同盟の者は大勢いるからな。幾ら私でも、相手が悪すぎる。それに、元々、今回のことは、内密にしている。王都騎士団が、王都の外で活動を許されているのは、王都から1日までの距離と決められているからな」

「エルトローレに行ったのは、俺の我儘だ。悪かった」

「それは、いい。ヴィエラとアリシアは、休暇を取ったことにしておいたからな。それに、あの女の話で、子供の誘拐は河岸を見張ればいいことがはっきりしたから、第5騎士団と協力して河岸を徹底的に洗う。残念だが、こちらが手を出せるのは、誘拐の実行部隊までだ。その黒幕には、まだ手が出せない。こちらも準備を整えないとな。勿論、手伝ってくれるだろうな」

「当たり前だ。これまで、テレナの頼みを断ったことがあったか」

「いや、ないな。頼りにしているぞ、婿殿」と言って、テレナはニヤリと笑ったような気がした。


「それと、あの女のことだが、あの女が元海賊だとバレては具合が悪い。話を聞いた限りでは、あの女がそなたに捕まったことは、他の海賊にも知られていないのだろう?」

「多分、誰にも見られていないと思う」

「あの女は、本来なら斬首だが、そなたを慕って付いて来たことに免じて、罪を軽くする。犯罪奴隷にして、舌に刺青を入れるに止める」

「舌に刺青?痛くないのか?」

「死ぬほど痛いそうだが、刑だから仕方あるまい」

「何故、舌に刺青を?」

「沈黙の魔法を込めた刺青だ。奴隷の主が許したとき以外は喋れない。あの女の口から、いろいろ漏れると厄介だからな」

「女の主は?」

「そなたを慕ってきたんだ、そなたに決まっている。奴隷として面倒を見てやれ。もう、あの女には、それしか生きる道はない」



★★★ 重要なお知らせ ★★★

今回の話もボリュームが多いので、

この続きである大誘拐団9は、

明日土曜日の20:00頃にアップしたいと思います。

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