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大誘拐団 7

翌日も桟橋に到着する船を見張っていたが、収穫は無かった、

仕方がないので、その日のうちに宿屋を引き払って船に戻る。

船は、夜明けと共に出発するので、朝に乗り込んでいては間に合わない。この日は、寛げない船倉での泊まりになった。

日の出と共に、船が動き出した、

水魔法で、船の下に、川の流れと逆の流れをつくり、風魔法で帆に風を当てているようだが、それだけではなく、いつの間にか、舷側から左右に12本ずつ長い櫂が突き出して、船を漕いでいる。

櫂の力もないと川の流れに逆らって進めないようだ。

その日の夕方には、川を下って来たときに停泊した桟橋に到着した。

夜には、顔馴染みになった、他のパーティとメンバーと、甲板で見張りに立つ。

海賊が出るかも知れない地帯だが、情報屋の言葉を確かめたかったので、今回は、海賊除けの蜃気楼は出さず、むしろ、海賊が襲って来るのを心待ちにする。

夜もかなり深まった頃、気配察知で、複数の動きを捉えた。熱感知でも、数十人の体温を感じている。かなりいる。直ぐにソナー魔法で周囲を探る。

1艘の大型船とかなりの数の小舟がこちらに向かって来ている。

今夜、この桟橋に停泊しているのは、メッサーブ号、ただ一艘だ。

となると狙いは、明白。この船だ。

俺は、護衛が待たされている笛を吹いた。甲板で見張りをしている他のパーティのメンバーが俺を見る。

俺は、「敵襲。敵は多数」と怒鳴りながら、舷側から、一番近くまで来た小舟目掛けて衝撃波魔法を放つ。

ドーンと大きな音と共に、小舟が砕けて、人影が川に放り出される。大型船までの距離は、まだ100メートル以上あり、魔法が届かない。そこで強弓に矢をつがえて、大型船の人影を狙って矢を放つ。

笛を鳴らしたのと、魔法で攻撃したことで、気付かれたと悟った相手の船からも矢が飛んで来るが、舷側に立ててある盾で身を隠しながら、自分が放った矢を、風魔法で方向を補正して、人影を倒していく。

数艘の小舟が接近して来ているが、他のパーティも総出で矢を放っているので、近寄って来た小舟の人影は悉く撃ち倒された。

近づいて来た敵の矢が激しくなってきたので、俺はゼネラルアーマーを召喚し、小型の盾で顔を隠しつつ、風魔法の攻撃に切り替える。

遂に敵の大型船が目の前まで来たので、衝撃波魔法を立て続けに撃つ。

こちらに向かって来ていた大型船の舳先が砕け、そこで弓を放っていた奴らが、バラバラと、船から落ちる。

ドガンという音と共に、相手の船がこちらの舷側にぶつかり、俺たちの乗っている船が大きく揺れる。

しかし、敵の船の舳先を砕いておいたので、こちらの船の舷側を突き破ることは出来なかったようだ。

だが、船と船がくっ付いてしまったので、敵の船から海賊達が乗り込んで来た、こうなるともう乱戦だ。俺は三半規管破壊魔を撒き散らしつつ、ゼネラルソードを召喚して、敵を斬りまくる。アリシアが5体のストーンゴーレムを創って、乗り込んでける敵への壁とする。ストーンゴーレムの体からは、ストーンバレットが打ち出され、数人ずつまとめて倒している。

ローゼンも大剣を振り回して、敵を撫で斬りにしているし、ハビーも剣でもう何人も倒している。

『海賊ってこんなに弱かったか?』と不審に思っていると、他のパーティのメンバーから悲鳴が上がった。

そっちの方を見ると、赤毛の女が内側に湾曲した短剣を両手に持ち、冒険者達をあっという間に斬り伏せている。俺は、そいつに向かって三半規管破壊魔法を撃とうとしたが、魔法が発動しない。

『また、魔法阻害か。海賊の幹部は皆、持ってるのかよ』と思っていると、そいつが近づいて来たせいで、ストーンゴーレムが消えた。

俺は電撃魔法を撃とうとしたが、これも撃てなかった。

赤毛の女がアリシアに向かって行こうとすると、その前にヴィエラが飛出して、戦斧で斬り掛かる。

数合斬り合って、あのヴィエラが押され始めた。

俺は、ルージュに

『ゼネラルソードの先に移動してくれ。あの赤毛に斬りかかるから、その勢いであいつの顔に飛びかかって、目潰しの役をしてくれ』と呼び掛けてから、数歩前に出て、女から少し離れた位置で、ゼネラルソードを上段から斬り下ろす。ゼネラルソードの先から肌色をした水の塊のようなものが飛び出し、赤毛の女の手前でシャワーのようになって降り注ぎ、避けた女の顔に、水滴が降り掛かった。女は、それを気にせずにヴィエラに斬り掛かろうとしたが、途中で視界が塞がれ、剣は空を切った。ルージュが仕事をしてくれたようだ。

その隙を逃すヴィエラではなく、戦斧で、女の手首を斬り落とした。

「グアッ」は、悲鳴を押し殺しながら、赤毛の女は、躊躇なく身を翻して、川に飛び込んで逃げた。

船の上は、まだ、海賊が大勢いたが、この女を追いかければ、海賊の確かな情報が手に入ると思った俺は、その女を追いかけて川に飛び込んだ。


ゼネラルアーマーを着たままなので、川底に沈んでいくが、超音波スキルで女を捕捉して、体の周りに水流を起こして女を追いかける。

女は、片手を失っているにしては泳ぎが速く、下流に流されながらも対岸に泳ぎ着き、岸に上がっていった。


利き手の手首を失った女は、痛みに耐えながら、対岸に辿り着いて岸に這い上がると、そこで膝座りになりながら、手首から流れ落ちる血を止めようと焦っていた。川の中でかなり血を失っていたのだろう、意識が少し朦朧とし始めていた。

そこへ、

「お頭、大丈夫ですか?」と声を掛けてきたのは、手下の1人だった。

その手下は、女が片手を失って、武器も持っていない丸腰だと分かると、

「お頭、手をどうしたんですか?」と心配した口調で近寄ってくると、いきなり、手首の切り口を蹴り上げた。

「ぎゃー」と女は悲鳴を上げて、のたうち回る。

男は、大怪我をしている方の腕を靴で踏むと、骨が見えている傷口に剣を突き立てる。

「グゥッー」女が、悲鳴にならない苦痛の声を上げると、男は女を蹴り倒してから、今度は、無事な方の腕を踏み付けて、

「へへへっ。女海賊だといきがっていたが、両手が無けりゃ、ただのメスになるしかねえな」そう言いながら剣を大きく振りかぶった、

女は目を大きく見開いたまま、声すら出せないでいると、その男の首が宙を舞った。その原因は、俺が放ったエアカッターだ。


「危なかったな」

俺が、女に追いついたときは、無事な方の手首も斬り落とされようとしているときだった。

女は、俺の方を見ると、睨みつけて

「貴様は、船の護衛」と言いながら、無事な方の手を使って後ずさる。

「おいおい、海賊とはいえ乙女の危機を助けてやったんだ。感謝ぐらいしろよ」

「乙女の危機だと?誰が乙女だ?貴様、頭がおかしいのか?」と毒づくが、顔をそむけていて、耳まて赤くなっている。

「そんなことより、その怪我をそのままにしておくと、血を流し過ぎて死ぬぞ。手当をしてやろう」と言って近づくと、更に後ずさりしようとしたが、後ろに樹があって、もう下がれなかった。

俺は女に近づくと、手首を失った腕を掴んで上にあげさせて、

「少し待ってろ」と言って、ナイフで自分の手を少し切って血を出すと、それをブラッドスライムにして、女の手首の切断面に張り付けた。

ブラッドスライムで傷口を抑え込んでやると、血が止まり、痛みも少し和らいだようで、女は少し安心したのか、そのまま気を失った。

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