大誘拐団 6
メッサーブ号はこの桟橋で荷物を下ろした後は、数日停泊して王都への荷を積み込む。
俺達の契約には、王都に戻る航路の護衛も含まれている。桟橋に停泊している間は、船に泊まってもよし、街の宿屋で部屋を取って、そちらで泊ってもよし、ということになっている。ただし、宿に泊まると、その料金は自前だ。
エルトローレ桟橋は、王都からの船が頻繁に発着するため、幾つもの桟橋が並び、そこに、何隻もの帆船が停まっている。
朝のうちは、俺が1人で桟橋や岸をうろついて、船から降ろされたり、船に積まれたりしている荷物の中に、子供が隠されていないか調べている。
樽の中に隠されていると、熱感知はあまり役に立たないし、ソナー魔法も触った状態でないと中の様子が分からない。頼れるのは気配察知だけになってしまうので、ちゃんと調べることが出来る訳ではない。
ただし、数えきれない程の桟橋がある王都では、船の積み荷を全て見張ることは不可能だが、エルトローレでは桟橋がここしかないので、見張り易いというメリットがある。
朝に桟橋に着いた船は、午前中の間に積み荷を降ろしてしまうので、俺達も、昼には一旦、桟橋を離れて、街の中を探索することにした。
すると、暫くして、10数人の子供達がロープに繋がれて連れて行かれるのを見かけた。
「あれは、一体、何だ?」とヴィエラに聞くと、ヴィエラは顔を顰めて、
「子供の奴隷だ」と答える。
「王都では見なかったが?」と疑問を口にすると、
「王都では、子供の奴隷は家事奴隷しか許されていない。家事奴隷は、奴隷商が買い取ることを禁止されている。しかし、このエルトローレでは、労働奴隷として奴隷商が買い取るとことを許されているから、このように普通の奴隷として扱われるのだ」とヴィエラが説明する。
「もし、あの中に、王都で誘拐された子供がいた場合は?」
「エルトローレに入って奴隷商に買われた時点で、違法ではなくなる」
「ということは・・・」
「もし、攫われた子供達がエルトローレに運ばれてきたら、奴隷商に買われるまでに助け出さないといけないということになるわ」とアリシア。
「それなら、あの奴隷商を探っても仕方がないのか?」
「奴隷商には、近付かない方がいいわよ。何処の奴隷商も領主と深く繋がっているから、後が面倒になるわ。ここでは、王都騎士団の権限も使えないしね」とアリシア。
「それじゃ、桟橋を見張ることしか手が無いのか?」
「それで十分じゃないかしら。私達も少人数だし」とアリシア。
「今日はもうないとして、明日と明後日、桟橋を見張って、それで成果が無かったらどうする?」と、俺。
「成果がなくても、一旦戻って、テレナ様に、報告しないといけないわ」とアリシア。
翌日、朝から桟橋近くの河岸をウロウロして、到着する船の積荷を遠くから監視している。
川上から1艘、川下から2艘やって来て、桟橋に停泊した。
桟橋を見張っていると、ヒョロっとした浅黒い男が、近寄って来て、
「探し物は見つかったか?」と小声で聞いてきた。
無視していると
「こんなにあからさまに見張っていたら、何かを探しているって、叫んで歩いているようなものだぜ」
「いや、そういう訳では」と言いかけると、男は、黙って手を差し出してきた。
俺がポカンとしていると、
「金だよ、金。情報が欲しいんだろう?だったら金を出しな」
「情報屋か?」と聞くと、頷いた。
「金を出して、俺が欲しい情報じゃなかったらどうする?」
「あんたが欲しいのは子供の情報だろう?」
俺が黙っていると、
「なら、前振りだけ話してやろう。この前、王都を出たところで、大勢の子供が見つかっただろう」
ここで、その男はニヤリと笑って、再び手を差し出す。
「続きは、幾らだ?」
「金貨2枚」
「高い」と、反射的に答えてしまう。
「嫌なら、いいんだぜ」と、その男は踵を返そうとするので、
「よし払おう」と言って、鎧の中に吊っている皮袋から金貨2枚を取り出すと、相手は人差し指を顔の前に立てて、左右に振り、「金貨2枚っていうのはさっきまでの話だ。あんたは一旦、断ったんだから、話は仕切り直しだ。金貨3枚出しな」
『畜生、完全に足元を見られている。しかし、ここで文句を付けたら、また、金額を釣り上げられるだろう。仕方がないから、言い値を払うか』
と考えて、金貨を1枚を追加して、金貨3枚を渡した。
「へい、まいどあり~」
そいつは金貨を受け取ると懐に仕舞い込みながら、
「王都から攫われた子供は、この桟橋までは来ないぜ。途中で、海賊に船を襲わせて、引き渡すのさ。どうだい、役に立っただろう」
浅黒い男はそう言い残して、ヒラリと身を翻して去って行った。
俺は、話の内容に唖然として、その男が立ち去って行くのを、ただ見送ることしか出来なかった。
急いで宿屋に戻り、その男が言ったことを、ヴィエラとアリシアに話す。
ヴィエラとアリシアは難しい顔をして、暫く考え込んでいたが、
「その話が本当なら、王都からエルトローレの川の両岸を全部調べないといけない」
「第3騎士団では、無理だな。人手が足りないし、何よりも、王都騎士団は、王都の外では仕事が出来ない」
「その男が嘘を付いているのかも知れない。とにかく、もう1日ある訳だし、その間に、何か見つかるかも知れない。何も無くても、一旦戻って、テレナ様と相談してからだな」
その日の夕方、デュエットが2人だけで話がしたいと言うので、2人部屋を2部屋取ることにした。
部屋に入ると、
「ねぇ、私がこんなことに付き合っていていいの?」とデュエットが不安そうに聞いて来る。
それはそうだよな。ギルドの依頼を受ける為に俺に声を掛けただけなのに、いつの間にか王都騎士団の密偵の様な仕事に巻き込まれている。
おまけに王都第3騎士団の騎士団長や騎士団員と、俺を共有することになってしまっている。それは不安だろう。
「パティ達と王都にやって来た時に困っていて、テレナに助けてもらったんだ。だからテレナは信用していいぞ」
「そういうことじゃないのよ。私なんか、唯の平民の冒険者よ。騎士団の人達は良い人だと分かってるけど、やっぱり、偉い人達だから息が詰まっちゃうのよ」
「そう言うなよ。この調査が終わったら、パティ達と一緒に居てもらう様にするから。俺は、デュエットのことが好きだぞ。だから手放すのは嫌だ。俺と一緒に居てくれ」
そう言うと、デュエットは少しホッとしたようで、
「そ、そこまで、言うなら、あなたに付き合うわ」
俺はデュエットを安心させる為に、抱きしめてやる。
「狡いわ」とデュエットが呟くが、それを無視してベッドに誘った。
デュエットの精神状態が不安定になっていたのを察していたのか、ヴィエラとアリシアは、こっちの部屋に入って来なかった。
「お前のことは、俺が守るから安心してくれ。危ない時は、俺の後ろに隠れていていいからな」と言いながら、今夜は語り合うことにした。
「デュエットのことを聞かせてくれ。村から出て来たと言っていたよな。王都の近くの村か?」
「そう、王都から3日程の所にある小さな村よ。何もない村だったから、嫌で出て来たの」
「美人だし、男にいい寄られなかったか?」
「えらく持ち上げるわね。言い寄って来た男は何人かいたけど、どれも長く続かなかったわ」
「俺とは長く続けてくれよ」
「あなたは、私から言い寄ったんだから大丈夫よ。それより、早く子供を産ませて」
「よし、任せろ」
やっと心が落ち着いた様子のデュエットを、優しく抱きしめた。
★★★ 重要なお知らせ ★★★
今回の話もボリュームが多いので、
この続きである大誘拐団7は、
明日土曜日の20:00頃にアップしたいと思います。




