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大誘拐団 4

王都での誘拐事件を調べるためとはいえ、王都騎士団であるヴィエラとアリシアは、勝手に王都を離れることは出来ない。さらに王都以外の街では、権限の問題もありそうだ。

そこで、一度4人で第3騎士団本部に戻り、テレナの意見を聞くことにした。

「王都では、子供の奴隷は家事奴隷しか認められていない。しかし、労働奴隷にすることも認められている街もある。エルトローレの街も、その一つだ。王都で攫った子供を、エルトローレで売り捌くことは大いに考えられる。それを考えると、エルトローレの様子を一度調べてみるのもいいだろう」と、テレナの許可が下りた。

デュエットについては、そなたの女の1人になったのなら仕方がない。部外協力者として同行しても良いと、こちらも許可が出た。

パティ達に、デュエットを引き合わせた後、騎士団本部を出た。


その日の午後、俺達は、シュミッテン商会を訪ねた。

商会の主のシュミッテンは、

「トライエルバッハ沖で、領主軍が海賊に負けてから、勢いに乗った海賊達が、ゼネーブ川を遡って来ているそうでしてね。流石にこの王都までは来ませんが、王都からエルトローレの間に、海賊が入り込んでいると噂になっていまして、それで護衛を増やしているんですよ」と説明してくれた。

「王都の軍は、海賊を討伐しないのか?」と聞くと、

「王都の軍船もエルトローレまでは遠征しませんし、エルトローレの領主軍も、街の護衛に徹していますから」とのことだった。

「海賊との戦いの経験は?と聞かれたので、

「バッハエンデの村で、海賊の残党狩りに参加したことがある」

「おお、それは頼もしい。ぜひとも、護衛をお願いします」

こんな会話をして、護衛の仕事は、簡単に決まった。


護衛対象の船はメッサーブ号といい、全長30メートル以上の帆船だ。甲板の幅は5メートル以上あり、船倉には、酒やワインの樽が、所狭しと積み込まれている。その他に、穀物を入れた麻袋がうず高く積まれ、その他にも多くの木箱が積まれており、中身は、陶器や雑貨や布などだそうだ。


こんな大きな船が、川を航行出来るのかと思ったが、ゼネーブ川は、定期的に、土魔法で川底の掘削が行われ、船の航路が確保されているのだそうだ。


マストは、甲板中央と後ろ甲板にあり、いずれも帆が張られているが、風の力だけで進むのではなく、水魔法による水流と、風魔法の追い風で補助するのだそうだ。


乗組員は30人程で、それ以外に、船長、航海士、水先案内人やコック等がいる。

護衛は俺たちを含めて3組。俺達4人の他に、5人組みと、6人組みのパーティがいる。この護衛の30人を合わせて、60人以上が、この船に乗っている。


翌朝早く、船はバウアーヘン桟橋から出発した。

目的地のエルトローレ桟橋は、王都の下流にあるエルトローレの街にある桟橋で、船は川の流れに乗っていけばいい。

川の流れの速さは、人が歩く速さ程度だが、水魔法と風魔法で船が後押しされているので、歩く倍くらいの速さで進んでいる。


朝早く王都を出た船は、順調に川を下り、夕方には川沿いにつくられた、停泊用の桟橋の一つに船を停めた。

俺達は、船倉の一つをあてがわれたが、仕切りがあるだけのスペースで、デュエットが予想していた夜の営みは、出来そうにない。


乗組員達は、この桟橋で船を降りて河岸にある娼館に行くが、俺達護衛は、船に残って見張りだ。

夜の見張りは、冒険者の各パーティが交代で人員を出すことになっている。そして、この夜の見張りが、ソロの冒険者が断られる理由だった。


俺達のパーティから出す夜の見張りは、後半を俺が引き受けることにして、前半をヴィエラとアリシアで受け持つことにした。

デュエットを見張りから外したのは、信用していないからではなく、正規の訓練を受けて来た2人と、自己流の鍛え方しかしていないデュエットでは、実力に違いがあり過ぎたからだ。


俺は、あてがわれた船倉の一角で、寝そべっている。

そう言えば、囚人船で殺した男からドレインしたのはカースというスキルだった。

鑑定でも使い方が分からなかったので、ルージュに聞くことにした。

『おい、ルージュ。カースというスキルについて教えてくれ』

『カースは、呪いを解くスキルだよ』

『呪いを解く?呪いをかけるんじゃないのか?』

『生者が呪いをかけることは出来ない。呪いが自分に跳ね返って来るからな。カースがどうしたんだ』

『どうやって使うんだ?』

『カースは持っているだけで効果がある。使うタイプのスキルじゃないよ』

『呪い無効と、どう違うんだ?』

『呪い無効は、呪いにかからない。カースは呪いが掛かる前に解ける。大きな違いがあるのさ。だけと、今のあんたには分からないよ』

『そうなのか?』バカにされたようで、憮然とした俺は、それ以上、カースについて聞くこを止めた。


その後、眠ってしまったようで、ヴィエラに揺り起こされて、見張りに立つ為に甲板に出た。


甲板に出て、夜の川を眺めていると、大剣を背中に吊った大男が、俺に近付いて来て、話しかけてきた。

「俺はローゼンだ。5人のパーティのリーダーをやっている。あんたは?」

「ダブリンだ。4人パーティのリーダーだ」

「最近は物騒になったもんだ。海賊が、こんなところまで来るなんてな」

「トライエルバッハの領主軍が、負けたんだったな」と話を合わすと

「おっ、事情通なのか?」と聞いて来るので

「いや、ちょっと前に、バッハエンデからの依頼で、村の防衛に参加して、事情を少し聞き齧った程度だ」

「じゃあ、海賊と戦ったのか?」

「少しだけな」

「海賊はどうだった?」

「強かったぞ。村の人間もかなりやられた」

「今のパーティで行ったのか?」

「いや、船の戦闘に参加できるのは男だけたと言われた」

「そうか、今どき、そんな風習が残っているところがあるんだな。そうだ、代わりに、こっちからも情報を渡しておこう。これから行くエルトローレだが、治安が悪くてな、女の冒険者がよく攫われる。あんたのパーティは美人揃いだから、気を付けた方がいいぞ。俺達のパーティは野郎ばかりだから、安心だがな」と言って「がはははっ」と豪快に笑う。

「そうか、気を付けておこう」

その後、ローゼンは立ち去り、俺は船の警戒に注意を戻した。


明方近くになって、気配察知に夥しい何かの群れを感じた。川の上を覆うようにして船に迫ってくる。

俺は、護衛に配られている笛を吹き鳴らした。

甲板にいるローゼン達が俺の方を見るので、俺は川の方を指差す。

川の上の黒い雲のようなものを認めた見張りの1人が

「ミュールギュントだ」と叫んだ。

俺の笛を聞いて、船倉から冒険者達の何人かが飛び出して来る。

「ミュールギュントだと。皆、船倉に入って、入り口を締めろ」と航海士が叫ぶ。

航海士の叫びで、見張り達は、次々と船倉に飛び込み、俺もそれに続いた。

船倉の入り口が全て閉められ、暫くすると、カツッ、カツッ、カツッと、木材に何かを打ち込む音が聞こえ始める。

俺達は暫く息を潜めていたが、音は止まないどころか、船のあらゆる所から聞こえてくるようになった。

「不味いぞ、今日は諦めずに、甲板を突き破ろうとしている。誰か、ミュールギュントを倒せる者はいないのか?」と、航海士が大声で叫ぶ。

「ミュールギュントの弱点はなんだ?」と、俺は周囲に聞くが、

「知るかよ。魔法が使える奴は、使ってくれ」とローゼンが叫んだ。

ここから魔法を使うと、船を壊してしまう。魔法を使うには、一旦、船倉から出ないといけない。ミュールギュントが立てている音からして、恐らく刺突攻撃をして来る魔物なのだろう。それならゼネラルアーマーで防げる。しかし、こんなに大勢がいるところで手の内は見せたくない。そういえば、ゼネラルアーマーを持っていなかった頃は、土魔法で鎧を創っていたなと思い出して、

「アリシア、土魔法で俺に石の鎧を着せることが出来るか?」と聞くと

「いいアイデアね。任せて」と、直ぐに、こちらの意図を了解してくれた。

アリシアが俺に向けて手を翳して何か呟くと、俺の全身を覆うように石の鎧が現れた。

「顔も、目の部分以外は、覆ってくれ」というと、石の面頬が現れた。

「よし、俺が出たらすぐに入り口を締めろ」と言い残して、船倉の入り口を開けて、甲板に飛び出した。

直ぐに、直径50センチくらいの黒くて丸い虫の魔物が襲ってくる。甲板に突き刺していたのは口の突起のようで、俺の石の鎧に突起を突き刺そうとしてくるので、俺は雷撃魔法を周囲に放った。俺の雷撃魔法は熟練度が1なので、虫の魔物を倒す力は無かったが、鎧に対する攻撃はいったん止まった。その隙に、虫の固まっているところに向けて、船に当たらないように衝撃破魔法を撃つ。ドーン、ドーン、ドーンと腹の底を揺るがす大きな音と共に、黒雲のように固まっていたミュールギュントが弾け飛ぶ。そのまま、風魔法のトルネードにファイアーボールを混ぜ込んだファイアートルネードを、川の上で群がっているところに放つ。

衝撃破魔法の音に驚いた桟橋周辺の住民が、驚いて建物から飛び出してきた。

その彼らの目に飛び込んできたのは、火の竜巻に巻き込まれたり、弾き飛ばされたりしながら、燃えて川に落ちていく無数の黒い虫だった。


ミュールギュントの数が減り、船に突き刺さる嫌な音がなくなったので、冒険者たちが船倉から飛び出してきた。

「くそ、虫のくせに船を襲いやがって」とローゼンが大剣を振り回して、空中に居るミュールギュントを斬る。一振りで数匹を斬り裂いており、凄腕の剣士だと分かる。

アリシアは、手を空中にかざすと、ストーンパレットを散弾銃のように打ち出して、ミュールギュントを固めて撃ち落としていく。ヴィエラもバトルアックスを振り回すたびに、数匹のミュールギュントを斬り落としている。

他の冒険者達も、剣や槍や弓矢で、次々とミュールギュントを倒している。

だが、デュエットだけは苦戦していた。彼女の剣の腕では、まだミュールギュントを斬り裂けない。硬い殻に弾かれたり、滑ったりしているようだ。

大勢は決したので、俺は、デュエットを援護するために駆け付けて、デュエットと肩を並べて剣を抜いた。

俺も剣の腕はなまくらだ。ここで少し実戦経験を積もうと、剣でミュールギュントに斬り付けた。

結果は、デュエットより少しましなだけだった。

「あんた、剣の腕はからっきしだね。まあ、魔法の腕が良いからいいけれど」とヴィエラ。

「私の創った石鎧が、役に立ったようね」とアリシア。

「ああ、助かった。ありがとうな」とアリシアに礼を言っておく。

そうこうするうちに、ミュールギュントは、数を減らして逃げ出し、娼館で泊まった乗組員達も船に戻って来た。

そのとき、船長と航海士が近づいて来て、

「礼を言う。キミが居なかったら、船に被害が出ていたかも知れない。よく、虫どもを追っ払ってくれた」と、言ってきた。

ミュールギュントからドレインしたスキルは雲霞だった。どうやら群れるためのスキルで、俺には関係のないスキルだった。


夜明けの虫騒動が終わり、メッサーブ号は予定を少し遅れて、桟橋を出発した。



★★★ 重要なお知らせ ★★★

大誘拐団2で、

更新を1週間に1回にしたいと書きましたが、

今回の話はボリュームが多いので、

この続きである大誘拐団5は、

明日土曜日の20:00頃にアップしたいと思います。

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