大誘拐団 2
翌日の朝食後に、テレナと練兵場に向かった。練兵場の横には、屋内型の練兵場があり、雨が降って屋外が使えないときや、機密性の高い訓練などに使われるそうだ。
屋内型練兵場は体育館程の広さがあり、その一角に、黒い幕で仕切られていて、内部が見えないようになっているスペースがある。
テレナは、その幕の中に俺を案内し、
「これから、私の剣の奥義を見せる。ここで見たことは、絶対に秘密だぞ」
そう言って、そのスペースの中央に並べられた木製の人型に、鉄兜と鉄の鎧を着せていく。
「こうして、私の手の内を見せるのは、そなただけだからな。よく見ていておいてくれ」
テレナは、備え付けの練習用の安物の剣を手に取ると、人型から3メートルほど離れて剣を上段に構えた。
「閃光剣」と呟いて、その場で剣を振り下ろす。
一瞬、剣から青白い光りが迸り、その光が鉄の兜と鎧を、滑らかに斬り裂いた。
「相手が鉄でも、斬り裂ける剣技だ。このような剣技が、私には幾つかある」
感情を出さないように喋っているが、自慢したい気持ちが隠し切れていない。今まで、自分の何かを曝け出せる相手がいなかったので、はしゃいでいるように見える。益々、可愛い女だと思えてきた。
「何だ?せっかく奥義を見せたのに、何をニヤニヤしている。今の技について、質問はないのか?」
そうか、そうか、聞いて欲しんだよな。分かるぞ、その気持ち。
「いや、驚いた。どれくらい、離れた距離から斬れるんだ?」
「もっと離れていても斬れる。これが私の奥の手だから、覚えておいてくれ」
こうして、テレナの秘密を一つだけ共有した。
そのあと、テレナの執務室に行き、打ち合わせをした。
「我々の騎士団では、人手が足りない。戦闘力だけなら、私の他にも強い騎士がいるのでいいんだが、情報取集力が弱くてな。そこで、そなたに、冒険者として活動しながら、市井の情報を集めて欲しい。連絡役としてヴィエラとアリシアを付ける。3人で組んで動いてみてくれ。応援がいるなら、人数を増やすぞ」
「ヴィエラというのは、バトルアックスの女か?」
「ははは、本人にそれを言うと、バトルアックスで頭を割られるぞ。それより、ヴィエラとアリシアなら、装備と服を粗末なものにしたら、冒険者に見えるだろう」
ヴィエラは、アマゾネスタイプで、身長は190センチ近く、腕の太さも、その辺の男よりも遥かに太い。顔立ちは美人だが、野生味のある顔付きをしており、言葉使いも荒っぽい。冒険者に扮するには適任だ。
アリシアは、ゴーレム魔法を見せてくれた美人さんで、第3騎士団きっての土魔法使いだ。他の騎士団メンバーのような堅苦しさがなく、世慣れた感じがするので、こちらも冒険者に扮するには適任だ。
「なる程、あの2人なら、冒険者だといっても通りそうだな。だけど、2人とも貴族なんだろう。冒険者の下品さを、嫌がらないか?」
「例えば、どんな?」
「2人とも美人だから、男が直ぐに手を出してくるぞ。ギルドに入ったら、知らない男が近づいて来て、いきなり尻を触ったり、胸を揉むなんて、日常茶飯事だぞ」
「そんな時は、そなたが守ってやれば良いではないか」
「それもまた問題がある。クレラインやオーリアと一緒だと、2人が言い寄られたときは、俺があいつらの胸を揉むことで、この女は俺のものだと証明してみせるんだ。でないと、言い寄って来る冒険者達が収まらない」と、下世話な話をすると、テレナは、悪戯っぽい笑みを浮かべて、
「よし、あの2人には、そなたが胸を揉んでも、嬉しそうにしておけと言っておこう」
「それじゃ、俺がただのスケベエに聞こえるじゃないか。ちゃんと説明しておいてくれよ」
「他に、気になることはないか?」
「宿の部屋は別々がいいよな?」
「いや、同じ部屋がいい」
「何故だ?」
「その方が自然に見えるだろう。2人のことが気にいったら、抱いてもいいぞ。私と違って、あの2人は、そっちの経験もそこそこあるから問題ない筈だ」
「いや、別々の部屋でも、自然に見えるぞ」と反論すると、
「それでは、後で、2人を揶揄えないじゃないか」と、悪巧みをしていることを漏らした。
そんなやり取りがあって、今、俺たちは、王都の冒険者ギルドにやって来ている。
王都の冒険者ギルドは、他の街のギルドに比べて格段に大きく、その分、冒険者も多い。
俺達は、ありふれた革鎧を着て、使い古した剣を腰に差している。ヴィエラだけは、これに加えて、中古のバトルアックスを背中に背負っている。3人とも、どこから見ても、どこにでもいる冒険者の風体だ。
俺達は、まずカウンターに行って、俺の金属プレートに王都の刻印を入れてもらい、ヴィエラとアリシアは冒険者登録をして、金属プレートを作ってもらった。
俺達がギルドに入ってから、幾つもの粘っこい視線が追いかけて来ている。
俺たちがカウンターを離れて依頼票が貼ってあるボードまで行こうとすると、3人組みの男が俺達の前に立ち塞がった。3人とも2メートルを軽く超える巨漢達だ。定番の絡みだなと思っていると、
「いい女を連れているじゃねえか。お前にはもったいないから、俺達に寄越せ」と言ってくる。
相手にするのが面倒臭かったので、三半規管を破壊する超音波を手加減して撃ってやる。3人は急に眩暈を起こして倒れ込んだ。まっ、三半規管をやられて立っていられる奴はいない。例外は、アンデオンの闇ギルドのナンバーワンだけだ。奴は、立ちながら気を失っていたが。
床でうごめいている3人の巨漢を避けて、ボードの前まで行き、依頼票を眺める。依頼票の数は多く、種類も多彩だ。暫く眺めていると、護衛の仕事が多いことに気付いた。
人口が多く、その人口を支える物流が集まる王都だけあって、王都は商業が活発だ。そして、王都の物流のメインとなっているのは、ゼネーブ川の水運だ。その為、物資を運搬する商船の護衛の依頼が、王都から地方へと商品を運ぶ陸路の護衛の依頼に比べて、かなり多い。
この依頼票を見詰めていて、気付いたことがあった。
街道の検問で、樽に押し込められた子供たちが見つかったと聞いたが、船に積み込まれてしまったら、検問のしようがないということだ。
『アルミを助けたとき、河岸に倉庫が並んでいるのを見たが、あれは船荷の為の倉庫だよな。ということは、川を見張らないといけないんじゃないか?第5騎士団が、街道で誘拐を見つけた為に、街道が使われているという先入観が出来てしまったが、ひょっとしたら、これは誘拐犯たちによるミスリードかもしれない』と考え込んでしまった。
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