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誘拐 1

その少し前のアンデオンの街では、こんなやり取りがされていた。

「ベナントがやられるとはな。奴は、バルバルの誓いの面汚しだ。で、ミルドランド、お前ならやれるだろうな」

「あんな考えなしと一緒にするんじゃないよ」

「そうか、それは心強い、流石はナンバーツーだ。相手は相当手強いようだ。くれぐれも油断するな」

「あいよ」


俺達が第3騎士団の宿舎で匿われることになったその日、王都から半日ほど離れた街道の周辺を、50人程の騎士が調査していた。

「団長、ここに大きな足跡があります」

「大きな足跡だと、ボロックの足よりも大きいのか?」

「ボロックの足より二回りは大きいです」

ボロックは、この隊の中で一番体が大きく、その分、足も大きな男のことだ。

団長と呼ばれた騎士を先頭に、足跡を見つけた騎士の周りに人が集まって来た。

「確かに大きな足跡だな。人間ではないかもしれない」と、団長。

「あっ、こっちにも大きな足跡があります」別の騎士が声を上げる。

「こっちのものと同じ奴の足跡か?」と団長。

「いえ、少し小さいようです」

「人間より大きな足跡が二つか」と団長が呟く。

「何の足跡だと思います?」と一人の騎士が聞く。

「この大きさだとオークか、オークの上位種だろうな」と団長がそれに答える。


王都騎士団第5騎士団は、ダブリン達が盗賊に襲われた場所の調査に来ていた。

その周辺には、盗賊の死体が散乱している筈だったが、すでに魔物に食い荒らされたり、魔物が持ち去ったのかして、騎士団が調査に来た頃には盗賊の死体はほとんどなく、焼け焦げた馬車の残骸の周囲には、武器と鎧の切れ端が散乱しているだけだった。

そして、踏み荒らされたり焼け焦げたりした草地に、人間のものよりもひときわ大きい足跡を見つけたところだった。

「この辺で、オークを見たという報告はありませんが」

「群れがいないということは、はぐれかも知れませんね」

「いずれにしても、警戒が必要だな。よし、この場所で、臨時の駐屯地を設営しろ」

団長の命令で騎士達は、そこから少し離れた場所を選んで木の杭を地面に打ち込み、駐屯地をつくり始めた。


それを遠から隠れて見ていたのが、この辺りを縄張りにしている、ある盗賊団の斥候だった。

その斥候はアジトに戻ると、

「お頭、不味いですぜ。いつもの狩場で、騎士団が基地をつくってますぜ」と報告した。

「騎士団が基地だと?」

「へい、あんな場所に基地をつくられたら、稼ぎ場所がなくなりますぜ」

「騎士はどれ位いる?」

「50人程、いましたぜ」

「騎士が50人か。昨日、どこかの間抜けどもが、下手を打って全滅して、街道の獲物を独り占め出来る絶好のチャンスだってのにな」

盗賊の頭目が、頭を抱えて考え込んでいると、

「お頭、アンデオンの闇ギルドの者だと名乗ってる奴が来てますぜ。どうしましょう?」と別の盗賊が報告に来た。

「何、アンデオンの闇ギルドだと?何の用だ?」

「あんたがここの頭かい?」と案内して来た盗賊を押しのけて頭の前に出て来たのは、血で汚れた皮鎧を着た、燃えるような赤毛の美しい女だった。


「私は、ミルドランド、アンデオンの闇ギルド、バルバルの誓いのナンバーツーだ。バルバルの誓いとして提案があるんだけど、聞くかい?」

「アンデオンの闇ギルドとしての提案?」

「聞くか?聞かないのか?どうするんだい?」

盗賊の頭目は、周囲を見回して、

「分かった。お前たち、出て行け」と部下達を部屋から追い出した。

「さて、話を聞こうか?」

「私達と手を組まないか?」

「手を組む?傘下に入れっていう話ならお断りだぜ」

「安心しな、そんな物騒な話じゃないさ。今日、街道に騎士団が出張って来ただろう。当分、街道での稼業は出来ないんじゃないかい。だけど、私と組めば、王都に入って、別の稼業が出来るってことさ」

「王都に入る?俺達が王都に入ったら、闇ギルドが黙っちゃいないぞ」

王都の闇ギルドは、街道で稼いでいる盗賊を見下しており、街道の盗賊が街で稼ぐのをシマ荒らしとして嫌っていた。

「王都の闇ギルドとは話が付いているさ」

椅子の中で踏ん反り返って赤毛の女の話を聞いていた頭目は、急に椅子から身を乗り出して

「王都の闇ギルドと話が出来るのか?」

「当り前じゃないか。アンデオンの闇ギルドの頭を誰だと思っているんだい」

「そんなもの知るわけはないだろうが」

「アンデオンの頭は、元は王都の頭だよ」

「そうなのか?んっ、それなら、今、何故アンデオンに居る?」

「騎士団に目を付けられて、王都に居られなくなったからさ。そんなことも知らないのかい」

「そんなことを俺に話してもいいのか?王都の騎士団に知られたらヤバいんじゃないのか?」

「ふふ、いっぱしの裏家業の奴なら、みんな知ってる事さ。それより、話を戻すよ。私達は、明日、王都に入る。あんた達も、私達と組むなら一緒に王都に入るんだね」

「王都で、何をするつもりだ?」

「人攫いさ」

「売る当てはあるのか?」

「半分は、王都の闇ギルドに売る」

「もう半分は?」

「ここで、預かる気はないかい」

「ここでか?」

盗賊の頭目は、腕を組んで考え始めた。

『それで、ここに話を持ってきたわけか。油断の出来ない奴だ』

「どうしたんだい?預かるのは嫌かい。それほど王都の騎士団が恐いのかい?」

挑発するミルドランドを、盗賊の頭目はギロリと睨んで、

「挑発に乗る気はないが、その話に乗ろう」と答えた。

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