王都 2
王都騎士団の詰め所を訪ねると、
「よく来てくれた」
仮面の騎士は、俺が来たことを喜んでくれた。
「ええ~と、パティのことで頼みがありまして」と切り出す。
「パティ?」
「妻です」
「ああ、思い出した。一緒にいた女だな」
「陶芸工房の店を探しに陶芸組合に行ったんですが、取引を断られまして」
「何故?」
そこで俺は、陶器の欠片のこと以外、アンデオンの街でのことや、そこから逃げて来たことなどを説明した。
すると騎士は
「店を探すのは難しいが、アンデオンの闇ギルドに狙われているのなら、騎士団として保護出来るぞ。女は何人いると言っていた?」
「大人3人に子ども1人です」
「それなら、今日中にでも、私の家に引っ越して来い。部屋がいくつも空いているし、第3騎士団の本部兼宿舎にもなっているから闇ギルドでも手が出せないぞ。そこで腰を落ち着けて、店を探せばいいだろう」
「ありがとうございます、でも、何故、そこまでしてもらえるのですか?」と聞くと、
「そなた達が、王都の近くで盗賊に襲われたのは、我ら王都騎士団の面子に関わる出来事だ。だから、そなた達には、騎士団の保護プログラムが適用出来る。その場合、王都に来た目的が正常に果たせるように、騎士団の業務として援助すること出来る。だから遠慮することはない」
「そうですか。それは助かります。それなら皆を連れて行きたいと思いますが、何処へ連れていけばいいのでしょうか?」
「この建物の隣だ。今から案内しよう」
仮面の騎士は、気軽に席を立つと、付いてくるように手招きして、騎士団の詰め所を出て、隣の大きな建物に入っていくので、俺も付いて行った。
1階の広間に入り、仮面の騎士が「アンドレラ」と大きな声で叫ぶと、隣に通じるドアが開いて、1人の騎士が出て来た。その騎士は、仮面の騎士の前まで来て、直立して胸に腕を当てる敬礼をし「御用でしょうか?」と声を出した。街道で最初に会った時に、「言葉遣いに気を付けろ」と言った騎士だった。
「この者を覚えているな。昨日、街道で保護した民間人だ。この者とその一行に、王都周辺の盗賊被害者保護プログラムを適用する。この家に住まわせて、警備担当者を付ける。保護対象は大人の男1人と女3人と女の子ども1人だ。警備に当たる人選をして連れて来てくれ。私は、今から、この者に、部屋を案内する」と指示してから、俺の方に、「部屋は2階だ。付いて来い」と言って、広間の中央にある幅の広い階段を登っていく。
俺が慌てて後を付いていくと、ずらりと並んだドアの一つの前で止まり、ドアを開けて中に入ったので、俺も続いて入る。部屋はかなり大きく、スペースをを4つに区切って、4つの2段ベッドが置かれている。
「ここは8人が泊まれるから、この部屋を使ってくれ」
仮面の騎士がそう言っている間に、足音がして、アンドレラと見たことのない女騎士2人が入って来た。1人はブロンドでしっかりした感じの女性、もう1人は栗色の髪の毛のソバカスが多い若い娘だった。
「スターシアとラミューレか。この者に、ここの部屋を貸し与える。保護プログラムの対象者だ。しっかり警備しろ。ダブリン殿、後のことはその2人に聞いてくれ。私は、他に、用事があるから失礼する」と言って、仮面の騎士はアンドレラを連れて立ち去った。
「ダブリンです。私の他に女3人と子供が1人いますので、よろしくお願いします」と挨拶すると、
「スターシアだ」と年上の女騎士、「ラミューレです」とソバカスの騎士、それぞれに挨拶された。
「その者達は、何処にいる?」とスターシア。
「宿で待機しています」と答えると
「直ぐに迎えに行ってやれ。ラミューレ、一緒に行け」と、俺達に指示を出す。
俺とソバカスの騎士は、仮面の騎士の家で、王都第3騎士団の本部だという大きな建物を出て、宿まで皆を迎えに行った。
俺や他の者は徒歩で、焼け焦げた馬車をクレラインが操って、第3騎士団の本部に向かった。
割り当てられた部屋に入り、それぞれのベッドを決めた。ディアスは厩舎へ、馬車は車庫へとそれぞれ移動させた。
「食事は、下の食堂で食べることができます。配膳係に紹介しますので付いて来て下さい。それから、夜間の出入りは出来ません。外出できるのは、朝食が終わってから、夕食までの間です。外出するときは、私かスターシアのどちらかが護衛として付きます。着きました、ここが食堂です。食事は、騎士団と同じものが出されます」とラミューレが説明してくれた。
その夜は、久しぶりに警戒せずにぐっすり眠ることができた。
次の日の朝、皆で食堂で朝食を食べ終えたとき、仮面の騎士が「そなた、剣は得意か?」と聞いてきたので、
「得意ではないが、強くならなければと思っています」と答えると、
「よし、それでは剣を教えよう。私はこれでも、剣の腕では、この国でも3本の指に入る。その私が、直々に剣を教えよう、付いて来い」
と、先に立って、何処かへ行こうとする、
「何処へ」?」
「練兵場へ行く」
連れて来られたのは、建物の裏の運動場みたいなところで、木剣を渡されて、模擬戦をすることになった。
仮面の騎士は、木剣をだらんと下げて、
「どこからでもいいから、打ち込んで来い」と言う。
俺は、クレラインに習ったことを思い出しながら、打ち込んでみる。
しかし、仮面の騎士は僅かな動きだけで、俺の攻撃を躱す。いくら踏み込んで打ち込んでも、フェイントを交えて打ち込んでも、当たりも掠りもしない。
「どうなっているんですか?」と聞くと
「そなたの剣の技量が足りないだけだ」と諭された。
スキルを使いたくはなかったが、瞬動を発動させて、思いっきり深く踏み込んで横薙ぎに剣を振ると、その剣は、仮面の騎士の剣に掬われて、その頭上を超えた後、体に当たる直前の位置まで引き下げられてから、俺の手を離れて飛んでいった。
俺は唖然としながら「何を起こった?」と聞くと
「いい攻撃をすれば、こうして技を見せてやる」と、仮面の下でニヤリとしているのが感じられた、
そして続けて、「これから毎日、昼過ぎにここに来い。剣を鍛えてやろう」と言った。




