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王都 1

パティとアルミが窯から出て来て、燃えた馬車を見て唖然としている。窯を積んだ馬車は、あちらこちらに焦げ跡があり、側板が落ちたり、幌が無くなったりしていたが、修理すれば、まだ使える状態だ。

ディアスを馬車に繋いで、携帯食で朝飯を食べ、出発しようとしていると、街道の王都に向かう方向から複数の蹄の響きが聞こえて来た。

警戒してそちらの方を見ていると、30騎程の騎馬隊がやって来た。白銀の鎧が、陽光を受けてキラキラ輝いている。どう見ても盗賊ではない。

騎馬隊は俺達の近くまで来ると止まって、先頭の騎士が騎乗したたまま、

「盗賊に襲われたのか?」と聞いてきた。銀の仮面を着けているので顔は見えないが、女の騎士だ。

クレラインとオーリアは、鎧が所どころ壊れていて、傷だらけだし、俺は顔と服が煤で汚れていたから、悄然としているように見えたのだろう。煤で汚れていたのは、焼け残った方の馬車を修理していたからだ。

「ああ、そうだ」と俺が答えると、

仮面の騎士の隣にいる騎士が、「言葉使いに気を付けろ」と怒鳴る。これも女騎士だ。

最初に声を掛けて来た騎士が片手を上げて、その騎士に向かって

「止めないか。相手は保護の対象だ」と諫める。

そして、俺達に向き直って

「我々は王都騎士団だ。昨夜、盗賊の大きな動きがあったらしいと報告があったので巡回に出て、そなた達を見つけた。生き残りはこれだけか?」と尋ねてくる。

「生き残り?最初から、この人数ですが」と答えると

「男1人に、女3人、子ども1人か?そなた達はどういう関係だ?」と聞かれると、

「妻です」とパティがすかさず俺の片腕を抱え込んで答える。

「子供連れの夫婦と、女2人は、護衛か?」

「同じパーティを組んでいる冒険者です。このメンバーで王都に行くところです」と答えた。

「もう1台の馬車に乗っていた者達はどうした?」と聞くので、

「このメンバーで分かれて乗っていましたが、1台が燃やされたので、全員でこっちに乗ろうとしていたところです。こっちの馬車もあちこち燃えてしまって、今、修理していたところです」

「災難だったな。それでは、王都まで護衛しよう。馬車は、もう動くのか?」

「はい、動くようです」

「それでは先導するから、付いてまいれ」


騎士団の後を馬車で付いて行くと、先ほどの仮面の騎士が、隊列の先端から後ろに下がって来て、

「その馬車に積んでいるのは何だ?」と聞いてくる。

「焼き物の窯です」

「何で、そんな物を積んでいる?」

「王都で焼き物の工房を始めようと思いまして」

「そなたは、陶芸職人なのか?そうは見えぬが?」

「陶芸職人は、妻です」

「そうか、奥方が職人か」

そのとき、騎馬の隊列の前の方から「テレナリーサ様」と声が聞こえた

「むっ、呼ばれている。失敬する」と言って、仮面の騎士は隊列の先頭に戻って行った。


「あれは、あんたに気があるね」オーリアが、御者をしている俺の肩越しに話しかけてくる。

「間違いないね」とクレラインも後ろで、相槌を打つ。

「おい、勝手なことを言うなよ」と俺がたしなめる。

仮面の騎士は、それからは俺達のところに来ることはなく、夕方には無事に王都に着いた。

王都の街門で、全員の入街税を払って、王都に入った。

ところが、街門をくぐったところで、衛兵の隊長らしい男に、盗賊の被害を聞き取りたいと言われ、仮面の騎士に先導されて、衛兵室で事情を聞かれた。

「盗賊は何人いた?」

正直に60人も居たとは言えない。60人もどうやって撃退したと聞かれるからだ。

「夜で暗かったので分からない。馬車を襲ってきた奴等を無我夢中で追い払っていたら、馬車を燃やされた。2台とも火を点けられたが、1台はなんとか火を消した」と答えると

「災難だったな。馬車には何を積んでいた?」と問われたので

「色々だ。荷物を満載していた」

「売り物か?」

「毛皮もあったし、食糧もあったし、服とか靴とか、いろいろだ」

「雑貨屋か。無事だった方の馬車に積んでいたものは?」

「焼き物の窯だが」

「窯?」

「この人の奥さんが陶芸職人で、王都で工房を開くんだとさ」と仮面の騎士が口を添えてくれた。

「妻子持ちか?」

「ああ」とあいまいに答える。

「盗賊に襲われて、よく子供が無事だったな?」

細かい所に気が付く奴だな、と思いつつ

「妻と子供は、窯の中に隠していた」と答えると、

「なるほど、窯の中に隠したか。機転が利くじゃないか」と感心された。

「これで調書はつくれる。ご苦労だった」と衛兵の隊長らしき人物は立ち上がった。

俺も立ち上がり、「帰っていいのか?」と聞くと、すかさず

「私が送ろう」と仮面の騎士も立ち上がった。

門衛の詰め所を出たところで、

「初めて王都に来て、何かと不便だろう。何か困ったことがあれば、私を訪ねて来い。相談に乗るぞ。私は、王都騎士団第3騎士団長のテレナリーサだ」そう告げて去っていった。


次の日、俺とパティは、王都の陶芸組合を訪れた。この王都でのパティの新しい店を探すためだ。

だがパティが自分の名前を告げると

「貴女のことは回状が回っておりましてな、アンデオンの陶芸組合の理事の名誉を著しく傷つけ、冤罪に追いやったとして、王国の全ての陶芸組合は、今後、貴女との一切の取引を禁じられております。お帰り下さい」と、言葉使いだけ丁寧だったが、実質は追い出された。

「なんでよ。何が冤罪よ。あいつらが火を点けたのは本当のことじゃないか」とパティはぷりぶり怒っている。

「パティは、確か、陶芸組合に入っていないって言ってなかったか?」

「ああ、入ってないよ」

「じゃあ、この王都にも組合に入っていない陶芸職人がいるだろうから、探して、空いている店がないか聞いてみたらどうだ」

「それもそうね。でも、王都に知り合いはいないし。ああ~、さっきの奴、本当に腹が立つ」

「昨日の騎士だけど、何か困ったことがあったら相談に乗ると言ってたぞ」

「騎士って、あの仮面の騎士?」

「そうだ、確か、王都騎士団第3騎士団長のテレナリーサって言ってたぞ」

「騎士団長?だったら、貴族だろう。何故、貴族がそんな、あっ、あんたに気があるんだわ。きっと、そうに違いない」

「まさか?一回、会っただけじゃないか」

「一回しか会ってなくても、女は、直感で決めるのよ。私がそうだったもの」

「仮面をしていて、顔も分からない相手だぞ。仮に、向こうに気があっても、俺の方にその気が無かったらどうするんだ?」

「へ~、ということは、私のときは最初からその気だったのね」

「そ、それは、だな。こ、好みのタイプだったからな」

「嬉しい~」と言ってパティは俺の腕にしがみ付いてくる。

「そのことは置いておいて、あの仮面の騎士は、公正な奴だった感じがする」

「そうだね。言葉使いで咎めた騎士をたしなめていたものね」

「だから、相談に行けば、乗ってくれるかも知れない」

「そんなに言うなら、行って来てよ」

「分かった。宿まで送ったら、騎士団のところへ行ってくるよ」

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