刺客 2
オーリアの予想では、陶芸組合からの刺客が、今日か明日にも襲って来るのは間違いないだろうということだ。
そして、襲ってくるとしたら、今夜の可能性が高いということで、皆の意見が一致した。というのも、馬に乗れば、かなり遅れて街を出ても、夜には俺達に追いつくからだ。
その為、俺はゼネラルアーマーを召喚しており、クレラインは金属のフルプレートアーマーを着込み、右手に剣、左手に盾を持って、完全武装していた。オーリアも、鉄板で補強した革の鎧で全身を包み、右手に短剣、左手にバックラー型の小型丸盾を持って、臨戦態勢を整えている。
パティとアルミにも鉄板入りの革鎧を着せて、何かの弾みで怪我しないように、装備を整えた。
干し肉鍋の夕食を終えて、クレライン、オーリア達と作戦を練る。
「襲って来るとしたら、眠ってからか?」
「普通ならね」とオーリア。
「普通でない場合は?」と俺が尋ねる。
「相手を舐めている場合、眠っていなくても襲って来るよ」と、オーリア。
「今回は、そっちのケースか?」
「たぶんね」
「それなら、配置を決めよう。オーリアはアレックスを付けるから、馬車の中でパティとアルミを護ってくれ」
「待機だね。了解」
「バートは馬車の右側に配置する。左側は俺、クレラインは後側を頼む」
「了解」
横で話を聞いていたパティとアルミを馬車に乗せ、オーリアとアレックスも同じ馬車に乗り込ませる。
続いてバートを、馬車の右側に配置する。アレックスにもバートにも目の部分だけ穴が空いた頭巾を被らせているので、夜に見ればオークとは分からない。
パティは、最初アレックスを見た時には、腰を抜かす程に驚いていたが、今では慣れたものだ。
俺は、少し罠を仕掛けると言って、焚火の傍を離れ、周囲に土魔法で落とし穴をつくって回った。落とし穴というよりは、土の表面から10センチ位のところに50センチ幅の空洞というかトンネルを創り、それを縦横無尽に張り巡らせ、どの方向から来ても、空洞を踏み抜いて、足を取られるようにした。
そして、皆が配置について敵を待つ。
ゼネラルソードを召喚し、全方向に弱いソナー魔法を放って警戒していると、敵が来た。
周囲を囲んで、するすると近づいてくる。
俺は味方への合図も兼ねて、衝撃波魔法を馬車の左側から来た敵に向かって撃つ。ドーンと言う腹を揺るがす音が響き渡り、草むらに隠れながら近づいて来ていた数人が跳ね飛ばされた。すぐに、エアカッターを広範囲に乱射して、馬車の左側から来た敵の制圧を目指す。
「グァー」
「ギャー」
と悲鳴が上がる。
そのとき、馬車の後方から一人の敵が迫って来た。速い。クレラインが跳ね飛ばされた。
そいつが馬車に跳び乗ろうとしたとき、馬車の中から黒い塊が飛び出して、そいつと空中でぶつかった。
クレラインのフォローをするように命令しておいたアレックスだ。
俺は、馬車の後ろに駆け付け、地面に転がって、起き上がったばかりのそいつに、ゼネラルソードで斬り付けた。
「ちっ」
そいつは反応よく俺の剣を避けたので、そこに衝撃波魔法を放つ。
ドーンと音がして、その後ろから駆け付けようとしていた盗賊達が跳ね飛ばされる。しかし、そいつは、片膝を地面に着きながらも衝撃破に耐え、すぐに地面を蹴って俺に斬り掛かって来た。動きが速く、一瞬で間合いを詰められた。俺よりはるかに剣の腕が立つ。俺の体に相手の剣が届き、カンッという音を立ててゼネラルアーマーに弾き返される。その瞬間を狙って、「止まれ」と一か八かでバインドワードを使った。男の動きが一瞬止まったので、横なぎに剣を払って首を刎ねた、つもりだったが最後の瞬間に躱され、首を何センチか斬ったにとどまった。相手の動きを封じるため、すかさず三半規管を揺らす超音波魔法を使う。相手の膝が崩れたので、もう一度剣を振るって、今度はしっかり首を刎ねた。
この強敵からスキルをドレインしたかったので、危険はあるがゼネラルアーマーを解除して、男の頭部に触れると、無双1、瞬動1、回避1のスキルが手に入った。死体からはスキルがドレイン出来ないが、首を刎ねた直後だったからドレイン出来たのかもしれない。
この強い奴がリーダーだったのだろう、残りの敵は雑魚ばかりだった。馬車の右側から来た敵は、落とし穴に足を取られた奴も多く、そちらではバートが無双していた。
馬車の中を確認すると、オーリアが異常なしと合図してきたので、馬車の周囲を調べて回る。落とし穴は何ヶ所か崩れているので、足を取られた奴がいたことが分かる。そのせいで一斉攻撃にならなかったのだろう。
アレックスとバートに、生き残っている奴は、両足首を切り落として集めろと命令すると、直ぐに、7人の生き残りを集めて来た。全員、両足首を切り落とされて、痛みにのたうち回っている。
周囲の警戒をアレックスやクレライン達に任せて、まず、生き残りの全員からスキルをドレインして、弓術1が手に入った。
捕まえた奴の1人にファントムファイヤを使って、魅了状態にしてから尋問する。
「質問に答えろ。お前達は何者だ?」
「ババリアの誓いだ」
「それは何だ?」
「アンデオンの闇ギルドだ」
「なぜ、俺たちを襲った?」
「金を取り戻すためだ」
「この中で一番強かった奴は、お前達を指揮していたのか?」
「そうだ」
「そいつは、何者だ」
「ヘルファイブの1人だ」
「ヘルファイブって何だ?」
「ババリアの誓いの幹部だ。5人い・・・」
尋問していた男は、言葉の途中でぐったりした。どうやら、血を流し過ぎて死んでしまったらしい。
他に尋問できる奴はいないかと探したが、他の奴らは既に死んでいた。
「これほどの幹部が襲撃に加わっているなんて、どうもきな臭いね」
俺の横で尋問を聞いていたオーリアが零す。
「何が、きな臭いんだ?」
「闇ギルドは、あんたの実力を知らないはずだ」
「それが何か問題なのか?」
「普通なら、これだけ腕の立つ奴を送り込まないよ」
「それは、どういうことだ?」
「あんたの実力が知られている。いやそれはないね」オーリアは自問自答している。
「万全を期したという線は?」と俺。
「それは、あるかもしれない。でも・・・」と言い淀んだので、
「でも、何だ?」
「上位の幹部が殺された以上、この組織は追いかけてくるよ」
「怖いことを言うなよ」
「それが闇組織というものさ。まっ、あんたなら、全部返り討ちにすりゃいいけどね。とにかく、明るくなったらすぐここを立とう」
女達を全員馬車で寝かせて、俺は土魔法で穴を掘って、アレックスとバートに、刺客たちの死体を放り込ませた。
その後は、俺とアレックスとバートで、見張りを続ける。
そういえば、ドレインしたスキルを確認していなかったので、改めて確認する。
無双は、無敵の下位互換のようなスキルだ。無敵のように剣を跳ね返すような効果こそないが、一般人が素手でオークを殴り殺せるようになるぐらいに身体が強化される。俺にとっては、無敵がクールタイムで使えないときに、この無双が使えるので、2段構えで作戦が立てられることになる。このスキルが手に入ったのは、相当にラッキーだ。次に、瞬動、これは体を動かすときに、予備動作になるタメや反動を必要としないというスキルで、これも剣術や格闘には欠かせなスキルだ。このスキルがあれば、格闘の素人の俺でも、格闘技漫画でいうテレフォンにならずに相手を攻撃できるようになる。最後の回避は、攻撃を自動で回避してくれる便利なスキルだ。俺が殺した男は、この格闘技3点セットと呼んでもいいようなスキルを持っていたわけだ。そりゃ、強くて当たり前だ。
それに比べて俺は、ゼネラルアーマーに、バインドワードに、三半規管狙いと、反則のオンパレードだ。この強い奴に勝てたからといっても自慢出来ない。オーリアが言うように、これから闇ギルドに追われるなら、本当の実力を身に付けていかないとな。今まで無我夢中でやって来たから感じなかったけれど・・・。




