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バッハエンデの海戦 3

「この周辺に逃げ込んだ海賊を探すために船を出すが、あんたも行くか?」とダッグエイド。

「船を出すのか?」

「ああ、この砂浜に来た奴等の他に、北の崖の方に逃げた奴等や、もっと南に逃げた奴等がいるはずだ。南には、領主軍の一部がいるから問題ないとして、北の崖の方に逃げた奴等は厄介だ。崖が入り組んでいて、隠れるところが多いからな」

「それを探しに行くのか?」

「行きたくなけゃ、いいぜ。泳ぎが達者でないと、危ない場所だからな」

「クレラインやオーリアは、どうする?」

「迷信なんだが、船に女を乗せるのを嫌がる漁師がいてな。今回は、最初から外している」

「北の崖というのは、どの辺りまで行くんだ」

「ここからでも、一番高い所が見えているだろう。あそこの下までだな」

「分かった。俺も行こう」

そう答えて、ダッグエイドと一緒の漁船に乗り込んだ。


漁船は全部で6艘。1艘だけ大きく、この漁船の群れを船団に見立てたら旗艦になる。乗っているのも他の船は5人~6人だが、この船だけ15人も乗り込んでいる。俺とダックエイドが乗っているのは、その旗艦だ。

船団は、崖を調べながら、ゆっくりと北へ向かって進んでいく。この世界の船には動力が無い。帆を張り、男たちが櫂を漕ぎ、両方の力でゆっくりと進んでいく。

崖の高さは、最初は4~5メートルだったが、北に進むにつれて、20メート、40メートルと高くなっていく。ところどころに崖が陸の奥に向かって切り込まれたようになっていて、近寄らなければ奥の様子が分からない場所がある。そんな場所に限って、手前の海から岩が突き出していたり、岩礁が隠れしていたりして、船で近づくのは危険な場所になっている。

そういった箇所を一つひとつ確認しながら慎重に船団が進んでいたが、断崖が海に向かってグンと突き出して、その崖を回り込まないと向こう側が見えない場所に差し掛かったときのことだ。先頭を行く小舟が崖を回った時に、襲撃があった。

「グワ―」

「ギャー」

小舟に何が起こったのか、崖のこちら側にいる俺達には分からないが、悲鳴の数を数えると、全滅したようだ。

「おい、急げ」

ダッグエイドが、櫂を漕ぐのを急がせる。

しかし、俺達が乗った船が崖を回る前に、もう1艘の小舟が先に崖を回ってしまい、やはり悲鳴が上がった。

こうして、回り込まないと相手が見えない位置からだと、直線的な攻撃しかできない魔法攻撃は無力だと思い知った。

続けて、俺達が乗った旗艦が崖を回り込む。

そこに居たのは、崖に陣取った海賊どもだった。

崖の向こう側には、岩棚が突き出した絶好の足場があり、そこに10人近い海賊がいて、ボーガンを撃ってきていた。

先行した2艘の小舟の漁師は、全員これで殺されたようだ。

幸い俺達が乗った船は大きいために、屋根付きのキャビンがあり、漁師たちは、その陰に隠れて矢を避けることが出来た。

「こんなところに、岩棚なんかなかったはずだ」とダッグエイドが叫ぶ。

その叫びを聞いて、『土魔法の使い手が創ったのか?』と考えつつも、俺はエアカッターを乱射して、岩棚にいる海賊どもの数を減らしたが、海賊の1人がいきなり俺達の船に跳び移って来た。

『かなりの距離があるのに、一気に跳んでくるとは、身体強化系のスキルを持っているな』

俺はそう思いながら腰の剣を抜いて、そいつを迎え撃つ。しかし、そいつは剣が上手く、俺の剣を避けるように刃先を動かして、俺の腹に剣を突き立てた。普通なら、これで勝負あったというところだが、幸いゼネラルアーマーを召喚した上に服を着ていたので刃が通らなかった。

剣の腕が俺よりはるかに上の相手だと分かったので、衝撃波魔法を撃とうとしたが、魔法が上手く発動しない。

『くそ、魔法を阻害するスキルまで持ってやがるのか』

そいつが、剣を上段に振り上げた隙をついて、俺は無敵スキルを発動して、そいつの腰にタックルし、そのまま船の舷側を飛び越えて、そいつを抱えたまま海にダイブした。

海に落ちると、そいつは直ぐに剣を捨てて、腰のナイフを抜いて、体にしがみついた俺の背中をめった刺しにしているが、ゼネラルアーマーを着て、無敵状態の俺に刃物は通じない。俺はそいつの首に手を伸ばし、喉ぼとけを掴まえると、全力で握りつぶした。喉ぼとけの軟骨は気管を護っているらしいが、その軟骨と気管を無敵状態の怪力で握り潰したので、そいつの気管は、砕けた軟骨のかけらでズタズタに裂けて、呼吸が出来なくなった筈で、そいつは目と口を避けんばかりに開き、何かを叫ぼうとしたが、口から夥しい泡と血が吐き出されただけだった。そいつは喉を掻きむしろうとしたが、直ぐに気を失って沈み始めた。

俺自身もゼネラルアーマーの重みでどんどん沈んでいくので、召還を解除して、そいつを掴まえ、水魔法で上向きの水流を作り出して海面に出た。

そいつが海賊たちの頭目だったようで、俺がそいつを掴まえて海面に出ると、残りの海賊たちは武器を捨てて降参した。

ゼネラルアーマーを解除して素手になっているので、気を失った海賊の頭目からスキルがドレイン出来た。

魔法阻害1、潜水1、航海術1、操舟1だった。やはり、魔法を阻害するスキルを持っていた。しかし、もっと気になることがある。潜水1、航海術1、操舟1って、あの幻覚で出て来たスキルと同じスキルが並んでいることに、かなり恐怖を覚えた。


この場所に留まっていると、血の臭いを嗅ぎつけて、海の魔物が集まってくるからすぐに船を出せと、ダッグエイドが指示を出している。

全滅した2艘の乗組員は、船は諦めて、死体だけを旗艦に運び込んでいる。

俺も、死体を運び込むのを手伝おうとしたが、ダッグエイドに止められ、それよりも魔物の警戒をしてくれと言われたので、気配察知とソナーで魔物を警戒する。

海に逃げた海賊達は、各集団ごとに、バラバラに逃げているだろうとのことで、他の集団が、またここに立て籠るかもしれない。そのために、数日おきにこの周辺を見て回る必要があるとのことだ。


船団は、帰りには何事もなく無事に漁村に着いた。

出迎えた村人達は、犠牲者の家族を呼びに走ったり、捕虜にした海賊たちの首実検のために軍の人間を呼びに行くなど、村中が慌ただしい雰囲気に包まれた。

俺が喉骨を握り潰した男は、呼吸が出来なくなって、帰りの船の上で死んだ。その死体は今、村長の家の前で、他の討伐した海賊の死体と並べて置かれている。

降参して捉えられた海賊たちは、後ろ手に縛られて、目隠しと猿轡をされて、地べたに座らされており、銛を構えた漁師たちに見張られている。

暫くすると、あの尊大な騎士、ナデューンがやって来た。

「こちらが討伐した者、こちらが降参した者でございます」と村長が説明する。

ナデューンが、盗賊の頭目の死体のところで足を止め、後ろに控える部下に、似顔絵を出せと命じた。

部下が似顔絵を出すと、死体の顔と見比べて、

「キャプテン・ラムローグに間違いない。手柄だな。誰がやった?」と村長に聞いた。

「ダブリン殿です」と村長が俺を紹介する。

騎士は俺の方を見て

「ふむ、あの冒険者か。このラムローグは剣の達人らしいが、その方は、剣の腕が立のか?」

「海の中だったので、俺は素手で戦った」

「海の中か。それでは剣は使えんな。それで、どうやって仕留めた」

「喉骨を握りつぶした」

これを聞くと、騎士は海賊の腫れ上がった喉を見て、嫌そうな顔をして

「そうか、騎士の戦い方ではないな」と興冷めしたように言った。

「まっ、報奨金はちゃんと出そう。追って沙汰を待て」とナデューンは言い置いて、村長に案内されて村長の家に入っていった。

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