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バッハエンデの海戦 1

街の教会で呪いを解いてもらった数日後、冒険者ギルドに寄ると、サンドクラブ討伐を引き受けた漁村から、俺を指名した依頼が来ていた。

内容を聞くと、村の護衛だった。ギルドの受付嬢に詳しい内容を確認しようとしたが、ギルドでは何も分からないので、現地で確認して下さいとのことだった。

ただし、現地で確認した後でも、危険が多いようなら断っても構わないとのことだった。

あの漁村は、金払いもよく、村人達には良い印象があったので、その依頼に応じて、行くだけは行ってみようと思った。

サンドクラブを討伐した漁村は、バッハの端と言う意味でバッハエンデと呼ばれており、トライエルバッハの街の一部とされている。

元々この地域は、内陸側のトライエル地方と、海側のバッハ地方に分かれていて、それがある時期、トライエルの領主がバッハ地方を併合してトライエルバッハになった歴史を持っている。バッハ地方だったときは、バッハの街とこの漁村は、くっついてはいないが一つの街として扱われており、その経緯から、今でも、街の飛び地の扱いになっている。

街の中心部は、元はトライエル地方の中心で、その中心街を拡張して、北街区に領主館と貴族街、南街区に商工業地域が広がっており、その南街区に俺達が泊っている宿や冒険者ギルドがある、

その冒険者ギルドから、バッハエンデまでは、ディアスに引かせた馬車で行くと、ほぼ半日で着く。

前のように、漁師組合の建物に入ると、ダッグエイドが俺を見つけて、

「お~、来てくれたのか。あんたが来てくれると助かるよ」と言って近寄って来た。

「ギルドで依頼を聞いた。俺を指名してくれたみたいだが、受けるかどうかは、内容を聞いてから決めてよいと、ギルドで言っていたぞ」

「ああ、それは分かっている。今度の依頼は、特殊だからな」

「村の護衛だと聞いたが?」

「それはそうなんだが。ここじゃ落ち着かないから、村長の家に行こう。話はそこでする。引き受けるかどうかは、その後で決めてくれ。まあ、あんたなら引き受けてくれると思うけどな」

と言いながら、俺達と一緒に、組合の建物を出て、近くの村長の家に向かう。

「あれから、サンドクラブは出ないのか?」と俺が聞くと、

「たまに出るけど、漁に出られなくなるようなことはない」

そんな話を交わしていると村長の家に着いた。

入口を入った直ぐの大きなホールに、20席程の椅子を置いた会議用の机があり、俺達はその椅子に腰を掛けて待つことになった。

ダッグエイドは、一旦、その部屋から出ると、村長と数人の長老と高価そうな鎧を着た1人の騎士を連れて戻って来た。

「おお、来て下さったか。有難い。あんたが引き受けてくれたら百人力じゃよ」と村長が言う。

「ほう、その冒険者は、そんなに強いのか?」と騎士が村長に問いかける。少し態度が尊大な奴だ。

「40匹からのサンドクラブを、1人でやっつけたからな」とダッグエイドが、俺を持ち上げる。

「何、サンドクラブを40匹か。火魔法を使ったのか?」とその騎士は興味を示して聞いてくる。

「ナデューン様、まずお掛け下され」と、村長が上座を勧め、その左右に、村長と数人の長老が腰を掛ける。

俺は、ダッグエイドの腕を掴まえると、

「まだ、引き受けると決めたわけじゃないのに、こんな会議に出席したら、断れなくなるじゃないか」と文句を言うと、

「いや、そのご心配は無用です。ナデューン様との話し合いはもう終わりましたので、この席におられるのは、我々の話を聞かれるだけです」と村長が弁明する。

「その通りだ、冒険者。心配することはない。海賊との戦いは、我が海軍の仕事だ。そなた達冒険者は、この村が無防備ではないことを見せる為に、村の入口で武器を構えて、案山子のように立っておれば足りる」

「案山子は言葉が悪いですが、ダブリン殿、お気を悪くなさらぬようにお願いいたしますぞ」

ナデューンと呼ばれた騎士が、俺をバカにした言葉を吐いたが、村長がすかさずとりなす。

「ダブリン殿、この度、依頼したいのは村の護衛ですが、戦いを想定したものではありません。この村には、戦いに参加できるような能力もありませぬ故に。ただし、この村とて、海賊との戦いに貢献したい気持ちはありますのでな、この浜辺に海賊船が近づいてくれば、ダブリン殿の魔法で、あの大きな音を出して頂きたいのです。あの大きな音なら、この村の者だけでなく、海上の軍にも聞こえるはずですからな」

「大きな音を出せるから、俺を指名したと?」

「機嫌を悪くなさらぬようにお願いいたしますが、大きな理由はその通りですな。しかし、ダブリン殿なら、万が一、万が一にも海賊の一部が陸に上がった時に、この村を護る力をお持ちだと思いましてな。それでご指名で依頼を出した次第でございます」

『言葉を費やしているが、結局は、大きな音が出せるから俺を呼んだということか』

俺が、村長の言葉を聞いてムッとしていると、

「はははっ、村長、そこまで言うと、ダブリン殿のメンツもなくなる。ダブリン殿は、我々村の自警団に入ってもらう。村の入口の警備は、自警団の仕事だ。それで、皆のメンツが立つ。どうかなダブリン殿?」と、ダッグエイドが俺の方を見る。

『こんな風に、頼んでもいないのに、勝手にメンツを立てられたら、断れないじゃないか。こいつは嵌められたようなもんだ』と思いながら、ダッグエイドを睨んで頷く。

「はははっ、ダブリン殿は依頼を引き受けてくれるとさ、村長」

「それではエイド、ダブリン殿の案内を頼みます」

「承知。ダブリン殿、行きましょう。それでは失礼致します。ナデューン様」と、ダッグエイドは騎士に向かって一礼すると、俺達を連れて村長の家を出た。

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