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ルージュの呪い 2

俺たちが警戒していると、2つに増えた火は、3つに増え、4つに増え、どんどん増えていく。

俺は、ゼネラルアーマーとゼネラルソードを召喚し、バックラー型の盾を構えて、火の正面に立つ。

クレラインとオーリアは、半身が俺の身体と重なるようにして、俺の背後に左右に並んで剣を構えている。俺たちが練習している三位一体フォーメーションその2だ。

目の前で10以上に増えた火は、暫くその場で揺らいでいたかと思うと、1つを残して消え、その火は、ゆらゆらと揺れながら、森の方に移動していく。ところが、俺達からある程度離れるとそこで止まって揺れている。

「どういうことだ?」俺が戸惑っていると

「付いて来いって言ってるみたいね」とクレライン。

「うん、私もそう思う。あんた、誘われてるみたいよ」とオーリア。

「女が誘っている感じがするわ」

「間違いなく、これは女ね」

「おいおい、お前たちには何か感じ取れるのか?俺は、何も感じないぞ」

「女の直感よ。敵意はないみたいだから、あの火に付いて行ってみましょう。オーリア、アルミを見ていてね」と言いながら剣を鞘に収めたクレラインが、俺の左腕を取って火の方へ連れて行こうとする。俺が逆らわずに付いて行くと、その場で揺れていた火が森に向かって進み始めた。


揺れる火に導かれた俺達は、森の中の少し開けた場所に辿り着いた。すると、揺れる火は、その開けた場所の真ん中で一旦止まると、地面の中に吸い込まれるようにして消えた。

「消えたぞ」と俺。

「消えたわね」とクレライン。

「ここに何があるんだ?」

気配察知で周囲を探っても何にもいない。

そのとき、火が地面の中に消えたことから、地面の中にも気配察知を働かせてみた。

すると、かすかな鼓動が感じられた。非常に弱い、微かな鼓動だ。

「何かが、あの中心にいる」

「あの中心に?」クレラインが不審気に聞き返してくる。

「地面の中だ。弱い鼓動が感じられるぞ」

クレラインは俺を見上げて「弱い鼓動?助けて欲しいのかな。どうする?掘り返してみる?」

「また、女の直感か?」

「そうね。助けを求めてるって感じるわ」

「それなら、掘ってみようか」

俺は半信半疑で、火の消えた場所まで行き、穴を掘り始めた。もし、何かが助けを求めているなら、穴を掘るのに剣を使うのは相手を傷つける危険があるから手で掘った。

皮膚硬化と穴掘りのスキルが役に立った。

1メートル位掘ったところで、手が何かに触れた。柔らかくて温かさがある。

「何かあるぞ。いや、いるぞ」

周囲の土を除けていくと、どうやら人間の皮膚らしいことが分かった。気配察知では鼓動を感じるから生き埋めにされたのか?

多急ぎで穴を広げると、1人の人間が生きたまま埋もれていたのが分かった。女だ。しかも素っ裸だ。全身を掘り出し、穴の中から引き出した。鼓動はあるが、目を閉じたままで、呼吸もしていない。

「ひょっとして、アンデッドかこれは?」

と、今更ながら、鑑定するのを忘れていたことに気が付いた。

慌てて、その肌に触れて鑑定すると、


名前 ルージュ

種族 人間(蘇生者)

性別 女

年齢 285

ジョブ 海賊

筋力 B-

耐久 C+

俊敏 A--

魔力 S+

抵抗 S++

スキル 剣術9、短剣術11、隠密5、敏捷11、気配察知3、統率5、航海術8、操船9、風魔法12、闇魔法15、ファントムファイア25、潜水15、気配察知32、無呼吸耐性50

状態 呪い(完全蘇生)


『蘇生者?285歳?蘇生中?無呼吸耐性50?』 

俺は、驚き過ぎて固まってしまっていた。

同時に、航海術1、操船1、潜水1、ファントムファイア1、無呼吸耐性1、呪い(完全蘇生)をドレインしたことが分かった。

「どうしたの」と、クレラインが驚いている俺を心配して聞いてくる。

しかし、俺はそれに答えるどころじゃなかった。

呪い(完全蘇生)をドレインしてしまったからだ。

スキルドレインは、呪いもドレインするのか。大丈夫か、俺?


呪い(完全蘇生)を鑑定すると


呪い(完全蘇生)

死んでも必ず蘇生する。蘇生時には若く健康な状態になる。


『これって、もしかしたら不老不死じゃないのか?何で呪いなんだ?いや、老化はするのか。しかし、老衰で死んでも、また若返って生き返るということか。すると、この女は死んで埋められてから、土の中で若返って生き返って、そのまま生き埋めの状態だったわけか。ひょっとしたら、土の中で何度も死んで蘇っているのかもしれないな。無呼吸耐性の熟練度が50なんていう、とんでもないことになっているのは、何万回も呼吸が出来ない状態になったってことだよな。つまり窒息死が何万回も繰り返されたってことか。って、それって生き地獄じゃないか。やっぱり呪いだ。そんな物騒なものをドレインしてしまったのか』


俺が考え込んでいる間に、謎の女は呼吸を始めたようだ。

「息を吹き返したようね」とクレラインが俺の腕を引く。

俺は我に返って女を見ると、相手も寝ながら顔を捻って俺を見ていた。

「あんた、私を、呪いから解き放ってくれたんだね」と掠れた声で喋った後、ゴホッゴホッと咽込んで、意識を失った。

女の言った意味に気が付いて、慌てて女に触れて鑑定すると、女はもう死んでいた。

「死んだ」と、俺が言葉を漏らすと、

「えっ、今、生きてたよね」と言いながら、クレラインが女の首に手を当てて脈を診て、「死んでる」と驚いて身を引く。

「一体、何があったんだい?」

「あの女は」と説明しかけて、どう説明しようかと考えていると、死んだ女の身体が崩れ始めた。

見ている間に、皮膚が黒ずんでボロボロになり、水分を失ってミイラのように萎み、髪が抜け、皮膚と肉が粉になって体から零れ落ち、まだ形をとどめていた骨も、直ぐに形が崩れて、全体が黒い粉になり、その場に、人型をした黒い粉が積もったようになった。しかかし、その黒い粉も森の風に乗って四散し、見る見るうちに何の痕跡もなくなった。

「嘘でしょう」とクレラインが驚きのあまり硬直している。

俺は俺で、『いずれ俺も、あのようになるのか』と恐怖に震えた。


あまりにも衝撃的な光景を見た為に、馬車までの帰り道、俺とクレラインは終始無言だった。さらに俺には、急いで考えなければいけないことが出来てしまったので、半分、上の空で歩いていた。


野営の場所に戻って、俺とクレラインとオーリアの3人で焚火を囲んでいる。

「あの火は、ファントムファイというスキルと、闇魔法の合わせ技だと思う。気配察知で、俺達が近くで野営しているのに気づいて、ファントムファイアを使って招いたんだと思う」

「なるほど、助けて欲しかったのね」とオーリア。

「せっかく助けたのに、なぜ、死んでしまったの?」とクレラインは、俺も疑問に思っていることを聞いてきた。

「何故、死んだのか分からない。だけど、あの女が300歳近かったことは、鑑定で分かった」

「300歳。若く見えたけど?幻影を見せられていた?」

「いや、実際に若かった。鑑定では、完全蘇生の呪いは、蘇生時に若返るそうだ」

「若返る?」

「そうだ。そこから考えられることは、あの女が仮に老衰で死んで埋められたとして、土の中で若返って生き返ったということになるな」

「若返って生き返った?」

「土の中で生き返っても、どうやって土の中から出るのよ?」

「そこが肝心なところだ。たぶん、土の中から出られなかったみたいだ」

「いやだよ。それじゃ、生き埋めじゃないか」

「その通りだ。あの女は生き埋めのまま、死んでは生き返ってというのを、土の中で繰り返していたらしい」

「何て恐ろしい。もし、老衰で死んだんじゃなくて、誰かに生き埋めにされたんだとしたら、この世で一番残酷な目に合わされたということになるわね」

「生き地獄というのも生易しいな」

「それで、あの女はどれくらい土の中にいたの?」

「100年以上は埋められたままだったんじゃないかな」

「何で分かるのよ?」

「無呼吸耐性の熟練度が50もあったからな」

「無呼吸耐性?」

「呼吸をしなくても耐えるというスキルだな」

「熟練度50のスキルなんて、聞いたことがないわよ」

「そうだろう。剣術スキルの上限が30くらいと前に教えてもらったからな。一生かけて剣の鍛錬に励んで30くらいなら、50というのは、人生が2回分か3回分、下手したら、もっとだろう。それを考えると、300歳近い年齢と考え併せて、100年以上、200年以上、生き埋めになっていたとしてもおかしくない」

「それで、近くに来た私達を幻影で呼び寄せたってわけね」

「だけど、せっかく掘り起こしたのに、なぜ死んだの?」とクレラインはこの点にこだわる。

「よく分からないんだが、その呪いが俺に移ったからかもしれない」

こう言うと、2人は俺から身を離すようにして

「あんた、呪われたのかい?」

「私達まで、呪われたりしない?」

「それは、大丈夫だ。俺が呪われたのは、俺のスキルのせいだからな」

「そんなことまで話してしまっていいのかい?」

「仕方がない。この呪いのせいで、この先、何が起きるか分からないからな。お前たちにも、ある程度は知っていてもらわないと、困るかもしれないしな」

「そうだね。そういうこともあるかもしれないね」

「分かったよ。誰にも喋らないし」


その後、俺は、クレラインとオーリアを馬車で眠らせて、俺とアレックスで見張りについた。

『俺が、恐れるのは、あの女のようになることだ。もっとも、俺は土魔法が使えるから生き埋めは怖くない。しかし、鉄の箱に閉じ込められて生き埋めにされたり、水の底に沈められたりすれば、窒息死は避けられないし、たとえ生き返っても、またすぐに窒息死してしまう。だから、そうなったときに脱出できる手段が必要だ。

岩石や金属なら衝撃波の応用で破壊できるかもしれない。衝撃波は金属の結晶を破壊することが出来るらしいから、衝撃波をパワーアップさせた超振動魔法のようなものを開発する必要があるな。

問題は、水の底に沈められたときだな。対策としては、とりあえず無呼吸耐性の熟練度をアップすることだ。今のうちから、30分や1時間の無呼吸に耐えられるようにしておかなければならない。後は、皮膚硬化だな。首を斬り落とされて、胴体と別々にされるのも避けたい。刃物が通らないまでに皮膚硬化を高めなければいけない。やらなければならないことが増えすぎて疲れた』

一旦考えるのを止めて、ちゃんと見張りをしよう。その前に、足元の石を拾い、手の中で弄ぶようにしながら、石の中に振動を与えることをイメージする。

『超振動なんて、そう簡単に出来るわけないよな』

空が白みかけた頃、クレライン達と見張りを替わり、俺は馬車の中で仮眠した。

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