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サンドクラブ 1

馬車の中には、俺とオーリアが向かい合って座って、アルミは俺の膝に凭れかかってウトウトしている。

「ライオットの街から逃げ出して、エズランドの街に来たと思ったら、ここも逃げ出すなんて、あんたと居ると退屈しないわね」とオーリア。

御者をしているクレラインは、「馬車を買っておいて良かったね」と、振り返ってアルミを見て微笑む。

この小型の馬車を引いている馬は、鹿のディアから取って、ディアスと名付けた。

今は世話をしているクレラインに一番懐いている。力が強く、体も大きいので、前脚の蹴りですら、オークの頭を潰すくらいの威力がある。街道で魔物に襲われても、フォレストウルフぐらいなら、蹴り殺したり、踏み潰したりして楽しんでいるように見える。

そして俺達は、エズランドを出て、ライオットの反対側に向かって、街道を進んでいる。

俺たちが向かっているのは、トライエルバッハの街だ。


そういえば、今の俺の身長だが、地球で言えば190センチより少し低い位だろうか。キュラウデスの魔石を食う前は170センチ位だったから、随分と背が高くなったものだ。


この街道に入って、1日目の夜は何事もなく過ぎたが、2日目の夜に襲撃があった。

干し肉鍋の夕飯を食べ終わって、女3人は馬車に乗せて休ませ、俺が焚火を挟んで馬車の左側に陣取り、召還したアレックスに馬車の右側を任せて警戒していた。

そんな俺達を、かなりの人数ですっかり囲んでいる。

多勢に無勢の場合は、先手必勝で行くしかない。俺は、クレラインとオーリアに敵襲だと合図をしてから、焚火の向こうの茂みに、エアカッターとクレイランスを広範囲に打ち込むと同時に、アレックスにも左側の奴らに突撃させた。

「ギャー」

「グアッ」

前方の茂みから悲鳴が上がる。同時に、背後の馬車の向こうからも悲鳴が上がった。

ただでさえも怪力のオークは、中堅と呼べる剣士でも、数人がかりでないと敵わないとされている上に、暗闇の中では、夜目がきくオークが圧倒的に有利だ。

前方の茂みから矢と魔法が飛んでくる。俺は、土魔法で強化したバックラーを顔の前に掲げながら、右手でゼネラルソードを構えて、盗賊の中に飛び込んでいく。敵の攻撃は、ゼネラルアーマーの防御力にまかせる。

こちらは人数が少ないので、いかに乱戦に持ち込むかが勝負どころになってくる。

俺は馬車からあまり離れないように気を付けながら、右に左にと走り回って襲撃者を斬り捨てていく。馬車の向こう側からもひっきりなしに悲鳴が聞こえる。

俺だけで10人程斬り捨てたとき、馬車の中から子どもの悲鳴が上がった。

『しまった。アルミ』

俺は慌てて馬車に取って返す。

目の前の幌を突き破って、男が馬車から突き落とされてくる。

幌が大きく裂け、馬車の上で剣を振り回すクレラインの姿が見える。馬車の上に男が数人乗り込んでいるようだ。俺は馬車に向かって走りながら、その一人に向けてエアカッターを放つ。エアカッターは幌ごとその男を斬り裂いていった。

馬車の上の襲撃者はまだ数人いて、クレラインとオーリアがアルミを庇いながら斬り合っている。

『不味いぞ。アルミを人質に取らせてたまるか』

俺が馬車に飛び込んだときには、馬車の上の男たちは叩き落されていて、アルミは無事だった。

俺はすぐに馬車の後ろ側に仁王立ちして、エアカッターとクレイランスの弾幕を張った。

馬車の後方から襲撃して来たのは10人位いたようだが、馬車の上で半数がやられ、今の弾幕で残りも全滅させたようだ。

馬車の前方からも悲鳴が聞こえる。野営のときには放し飼いにしているディアスに蹴られたようだ。

俺は、そのまま馬車から飛び降りて、馬車の左側の襲撃者を掃討していった。

馬車の右側からも時折悲鳴が聞こえる。アレックスの方も片付きつつあるようだ。

暫くして、生き残った奴は逃げ去ったようで、大怪我をして動けない奴等や逃げ遅れた奴らの止めをさしてまわった。

馬車の中を覗くとクレラインとオーリアがアルミの頭を撫ぜている。

「アルミ、無事か?」

「おやおや、私たちのことは心配してくれないの?」とオーリアにからかわれる。

「嬢ちゃんがいたから、ちょっと手間取っただけよ」と、苦笑いするクレライン。

馬車の周りに落ちて動けなくなっている奴らを、頭を殴って気絶させ、縛り上げて尋問することにした。

アレックスも戻って来たが、さすがに無傷とはいかなかったようで、鎧も身体も傷だらけだ。このまま死なれて消滅されると困るので、召還を解除した。

いったん落ち着いたので、周囲の警戒をクレラインとオーリアに任せる。

「クレライン、ディアスは大丈夫か見てくれ?オーリアは、アルミを見ていてくれ」

野営のときは馬車から外して自由にさせているディアスも、さっきは暴れていたようだ。ケガをしていなければいいが。

「ディアスは大丈夫よ。どこにも怪我はないみたい」


野営のときに、こんな大きな馬を馬車に繋げておくと、夜に魔物に襲われたときに、馬が暴れて馬車が暴走したり、馬が殺されて倒れたはずみに、馬の体重で馬車が転倒する危険があるからだ。

「クレライン、盗賊から目ぼしいものを漁ってくれ」

「しけたやつらだね。金目の物は持っていない。ところで、こいつらはどうする?」とクレライン。

「生け捕りにしたのは3人か?よし、尋問しよう」

俺は気を失って縛られている奴らの1人を選んで、太腿に剣を突き刺した。

「ギャー」と男は悲鳴を上げた。痛みで目が覚めた男は、キョロキョロと周りを見回している。

俺は剣を少し捻って

「おい、質問に答えろ」

男は俺に気が付いて、こちらを見上げると

「貴様、こんなことをして、ただで済むと思うな」

「自分が置かれている立場が分かっているか?お前は捕虜だ。俺の質問に応えなければ、手足を一本ずつ斬り落とす」と脅す。

男は逃れようとして体を揺すり、

「縄をほどきやがれ」とうるさいので、剣を太腿の裏側まで突き通す。

「グアッ~」

「もっと痛い目に合いたいようだな」と言うと

「なっ、何が聞きたい」と答える。

「お前たちは何者で、何人いる?」

「へっ、俺たちのことを知らねえのか。とんだ田舎者だな。俺達は、ベジェットの災厄だ」

「なんだその名前は。盗賊団じゃないのか?」

「へっ、盗賊なんてケチなもんじゃねぇ」

「そのベジェットの災厄っていうのは、何人くらいいる?」

「ふん、驚くな200人以上いるぜ」

俺は、盗賊の脚に突き刺した剣を上下させて、太腿を斬り裂いていく。

「ギャー、や、止めろ」

「嘘は良くないな。本当は、何人だ」

「ご、50人位だ」

「何故、俺達を襲った?」

「こんなところで呑気に野営を続ける間抜けがいるからだ」

「お前たちの頭は誰だ?」

「ベジェットだ」

「そうか、もうお前に用はない」と言いながら、俺は太ももから剣を引き抜いて、そいつの首に押し込んだ。

「ラクレイン、オーリア、他の奴らも殺しておいてくれ。武器を集めたいが、これだけ派手に殺し合いをしたから、血の臭いに釣られて魔物がたくさんやって来るぞ。急げ。この3人の持ち物だけ剥いで、すぐに出発するぞ」

3人の死体から剥ぎ取った武器や革鎧などを馬車に放り込むと、ディアスを馬車に繋いで皆で乗り込んだ。

最後に殺した3人の盗賊から新しいスキルがドレイン出来た。

聞き耳1と方向知覚1だった。

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