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家名のチカラ

『フィアは瞬間移動ができるから、アウロラの居る場所にすぐに着いたとしても、あそこに行くまで、領都から馬で1日半かかったから、アウロラがここに着くのは4日後くらいか。それまでどうするか?』

そんなことを考えている間に、アンテローヌ達は執政官としてこの街を掌握し始めていた。


現在のカグリアには、戦争前の約半分の人口しか残っていないらしい。代官や衛兵隊だけでなく、冒険者を含めた多くの者が、亡きロデリア辺境伯に徴兵されて連れて行かれたということだ。

それでも、主だった商人や職人は街に残っており、新しく商務長官になった、というよりも、勝手に名乗っているシモーヌへの陳情や訪問が相次いでいる。

また、護民長官のヴィエラは、護民兵の募集を始め、代官館の中庭に机と椅子を持ち出し、面接と実技試験を同時に行っている。

平民からの請願や訴えも多く、司法長官のアリシアの下には、代官補佐マイヨルが何も出来ない役立たずだったという苦情が多数寄せられていた。

街の人々がこのように大人しく俺達の支配を受け入れたのは、彼女達の貴族家の家名の力による。ランスリード家、セレストリ家、カウセデン家、いずれの家名も、市井の人々からは王族に近しい雲上人だ。彼女達の顔を直接見ることさえ、不敬として自重しているし、彼女達に直接声を掛けられた際には、皆、一様に感動に打ち震えている。


アンテローヌは宰相として代官館の執務室に閉じこもっていることが多いが、オーリアとルビーを密偵として使っているようだ。そしてクレラインは、スケルトンソルジャーを率いて屋敷の警備を担当してくれている。

そして俺はというと、することがない。暇なのだ。そこで、ヴィエラの護民兵の実技試験を手伝うという名目で、応募してきた者達と剣を交えている。俺の剣術熟練度は13でしかない。剣術熟練度26のアンテローヌや剣術熟練度18のルビーとは比べようもないが、それでも、熟練度13といえば上級者の中では頂点とされる。街の護民兵に応募してきた平民程度は軽くあしらえる。

カグリアの街の中には小区画の畑がいくつもあり、家畜も飼われていて、街そのものが何年でも自給自足で籠城できるように設計されているから、街の外が死の荒野になっていても、水や食料には困らない。

ただし、俺達の目的はこの街の統治だけではなく、ロデリア領全体の統治だ。カグリア以外の街がどうなっているのかも気になるし、死の荒野を浄化する方法も見付けないといけない。

俺以外が慌ただしい日々を送っていると、アウロラが3千人もの配下を連れて到着した。

門衛達には伝えていたにもかかわらず、実際に蛮族の軍勢を見た街の人々は大騒ぎとなった。


「3千人も連れてきたのか。フィアは千人と言ってなかったか?」

「こういうこは人数が多い方が上手くいくものだ。ここを拠点に、他の街も押さえていくのだろう」

「ああ、そのつもりだ。だが、3千人もいると食糧が持たない」

「食糧は部族の者が運んで来るから気にするな」

「食糧はどうやって都合をつけているんだ?それとアウロラの部族は何人になった?」

「今、2万ほど集まっている。まだ来ていない奴らの中にも、神託を聞いたという連中がかなりいるから、今の数倍にはなるだろう」

「全員を連れて来たと思ったが違ったのか」

「当たり前だ。エウリュディケー様直々に部族と領地を授かったのだ。アウロラ族が、北の大森林で有数の大部族になるのは決まっていることだ」

「それだけの人数の食糧はどうしているんだ?」

「北の大森林には食糧になる魔物が沢山いるので、我らが飢えることはない。心配するな。もっとも、その魔物を狩れるのは我らだけだがな」

そんな会話をしながら代官館に着いた。3千人の部族民は、街の衛兵隊宿舎やアンテローヌ達が接収した空き家に分散して放り込んだ。


アウロラを加えた俺の妻達が会議して、数日後に、ダブリン家臣団としての名乗りを上げることになった。

貴族家の揺籠と言われる家臣団が功績を上げ、後継ぎが出来れば、新しい貴族家を興す条件が整う。

このロデリアの統治が成功すれば、それがダブリン家臣団にとっての功績となるそうだ。

まっ、俺自身は貴族になるとかはどうでもいいんだが、アンテローヌ、アリシア、シモーヌ、ヴィエラ達が必死な為、俺は大人しく彼女達が敷いたレールの上を走っている。

貴族の家を捨てて俺に付いて来てくれた彼女達の為に、俺がこの王国の貴族になるのは、男として当然の責任だと思っている。


さて、家臣団の名乗りを上げる前に、もう一つしておくことがある。それは、冒険者ギルドの掌握だ。

この世界の冒険者ギルドは、ラノベに出て来るようなものではない。その理由は、個人情報を読み取る魔道具や銀行の替わりになるようなハイテクっぽい魔道具が、この世界には存在しないからだ。

となると、冒険者ギルドが出来ることは限られて来る。個人情報が読み取れないのだから、ギルドが発行するタグには、名前と所属する街を示す以上の機能がない。そして、名前と所属する街しか分からない冒険者の管理など、ほとんど無意味だ。その結果として、冒険者ギルドは、ただの仕事の斡旋所でしかなく、しかも依頼料の仲介も、基本的に行わない。依頼料の支払いは、依頼者と依頼を受けた冒険者とで直接にやりとりするのが通常だ。

冒険者ギルドの機能がそのようなものだから、この世界での冒険者ギルドの役割は大きくない。

しかし、領地によっては、領主の意向が強く働いている冒険者ギルドもある。その最も典型的な例はナザニエールの冒険者ギルドで、ナザニエールの街で登録した冒険者を無理矢理徴兵出来る権限を領主が冒険者ギルドに与えていた。

そして、このカグリアの冒険者ギルドも、冒険者を徴兵出来る制度があるらしい。だから、その冒険者ギルドを掌握する為、新しいギルドマスターとしてアウロラを送り込もうとしているのだ。

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