カグリア
カグリアまでの道のりは平穏だった。つい数日前までアンデッドが支配していた為、この辺りには魔物も盗賊もいない。
というのも、元は緑豊かな大地だったこの一帯だが、今は、水も食料も調達できない死の大地に変貌しているからだ。アンデッドが撒き散らした穢れが大地を変貌させたのだ。
そんな場所で時間をかけるのは不味いので俺達は先を急ぎ、3日後にはカグリアが見えてきた。
幸いこの街の城壁と城門は無事だった。蛮族の侵攻ルートから外れていたことで見逃されたのだろう。そして、街が門を閉じて籠城していた為、幸運にもアンデッドの侵入をも防ぐことになったのだろう。
俺達だけで街に乗り込むと舐められるので、フィアに100体のスケルトンソルジャーを召喚させておいた。金属鎧で全身を包み、兜の面頬を下ろしていると、スケルトンだとはバレないだろう。
アンテローヌは門の前で馬を降り、ローザリア王国の旗を掲げて、大声で呼びかけた。
「我らは、ローザリア王国の辺護騎士様の一行である。亡きロデリア辺境伯爵に替わってこの地を治めることを女王陛下から託された。速やかに街の門を開けたまえ。さもなくば、王国への反意があると受け止める」
城壁の上で顔だけを出していた兵士たちに動揺が走り、数人が慌てて壁から離れた。上官を呼びに行ったと思われる。
暫くすると年配の士官が門の上に顔を出して、
「恐れ入りますが、いずれの貴族家の方々でしょうか?」と聞いてきた。
アンテローヌやアリシア達の高価そうな鎧から、かなり上位の貴族と判断したようだ。
「私は、元ランズリード公爵家のアンテローヌ・ダブリンである。こちらにおられるのは女王陛下より辺護騎士の称号を賜り、新しくロデリア領主となられたダブリン卿である。速やかに開門したまえ」
「私は、元セレストリ辺境伯爵家のアリシア・ダブリン。王都第3騎士団にして、護国騎士団の騎士である」
「同じく、元セレストリ辺境伯爵家のシモーヌ・ダブリンである。王都第3騎士団にして、護国騎士団の騎士である」
「元カウデセン辺境伯爵家のヴィエラ・ダブリンである。王都第3騎士団にして、護国騎士団の騎士である」
これらの家名を聞いた門の上の士官は冷や汗を流した。
「なんと、これほど高貴な上級貴族家の方々がこの街に来られるとは。すぐに門を開けますので、しばしお待ちください」
士官は部下に命じて街門を開けさせると、自ら来訪者を出迎える為に門の裏で待機した。
すぐに門が開き、俺達は街に入った。
代官の屋敷に案内されると、現在の街の代表をしているという若い男が俺達を出迎えた。
「王都から来られた方々ですか?あっ、私はマイヨル・グランゼルムと申します。このカグリアの代官補佐でしたが、代官と衛兵隊がロデリア辺境伯爵様に連れて行かれましたので、臨時で街の代表をしております。その後の情報が入ってこないので、何も分かりません。ロデリア辺境伯爵様はどうなったのでしょか?蛮族が攻めて来たとも聞きましたが、追い払って頂けたのでしょうか?」
代官屋敷の応接間でソファに座りながら俺達は話し合っている。
マイヨルは、この部屋や屋敷の中のいたる所に居るスケルトンソルジャーを見る度に、恐怖で卒倒しそうな表情になっている。
「ロデリア辺境伯は、謀反人として打ち取った。また、その直後に王国に攻めて来た蛮族も、追い払った。。いずれもここにおられるダブリン卿のお働きによるものだ。そのお働きによって、ダブリン卿は女王陛下から、辺護騎士の称号と、このロデリアの領地を賜られ、領都ロデリアは制圧済みである」
アンテローヌが、これまでのいきさつと俺の身分を簡潔に説明した。
ソファに腰かけていたマイヨルは、思わず立ち上がって片膝を着き、
「これは閣下にご無礼を致しました」と臣従の礼をとった。
「今まで通り、楽にしてくれ」と俺が声を掛ける。
「ソファにお戻りなさい」
とアンテローヌが、マイヨルに指示をする。
マイヨルがソファに座り直すと、
「今から、ロデリア領は、ここにいるダブリン卿が治める。いま軍勢を準備しているので、遠からず軍勢がこの街に到着する。ちなみに、このアンテローヌが、ロデリア領の新しい宰相を務める。そして、このアリシアが司法長官、シモーヌが商務長官、ヴィエラが護民長官を務める。マイヨル殿には、引継ぎを頼む」
「は、はっ、承知致しました」
若いマイヨルは、アンテローヌの勢いに押されっぱなしで、言われたことに頷くことしかできない。
「それではこの屋敷は、今からダブリン卿が使うので、引継ぎが済み次第、あなた達は出て行きなさい」
その後、アンテローヌとアリシアが、マイヨルから屋敷の鍵を取り上げ、執務室に案内させて、代官補佐が管理していた書類や印章や財産などを全てを取り上げていった。同時に、シモーヌとヴィエラが屋敷の使用人達から仕事を取り上げて、代官屋敷の財産から給料を清算しながら屋敷から追い出した。
数時間後、代官屋敷に残っているのは俺達だけになった。
「旦那様、アウロラとその配下をこの街に呼ぶことはできますか?」
「ああ、呼べるぞ。だけど蛮族が来たら、反発が起きないか?」
「数で威圧すれば大丈夫でしょう」
「それなら千人以上は必要だな」
「この街が蓄えている食糧から考えて、それが限度でしょうね」
「分かった。フィア、いるか?」
『ここに』とフィアが姿を現した。
「アウロラに千人の部下を連れてこの街に来るように伝えてくれ」
『承知した』




