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アウロラの野心

ロデリアの街の北側から、ローザリア王国の北の国境までが大森林になった。

この新しい大森林の真ん中に、アウロラは族長の天幕を建てた。

その天幕の中央に敷かれた大きな白い毛皮の上で、俺とアウロラは睦み合っていた。

「これからどうするつもりだ?」と俺が聞くと、

「ここに族長の天幕を建てたから、我が部族の者も、おいおい集まって来るだろう」とアウロラが答えた。

「ここに腰を据えるつもりか?」

「この新しい大森林は、私がエウリュディケー様から賜ったものだからな。ここを領地として、新しくアウロラ族を旗揚げする」

「アウロラ族か。お前が始祖になる支族というわけか。そのアウロラ族は、ローザリア王国に臣従すると考えていいのか?」

「いや、我らは、そなたに臣従するだけだ。ローザリア王国は関係ない」

「俺に臣従されても困るんだがな」

「そなたは、辺境伯と同等の権限を与えられたのであろう。辺境伯が、周辺の蛮族を手兵として臣従させるのは、よくあることだと聞くぞ」

「そういった政治的な決まりごとは、よく分からないんだがな」

「私に従う者だけでも10万はいる筈だ。そなたが、いずれ王国を起こすときには、我らが、そなたの槍となろう」

「俺には、そんな大それた野心はないぞ」

「そなたに、その気がなくても、そなたの周りの者達はそうは思っておらぬぞ。街に戻ったら、そなたの妃を名乗る者達の本心を確かめてみるがいい」

とアウロラは、俺の目を見据えるようにして言った。

「物騒なことを言うな。それより、俺はそろそろ王都に戻るぞ。この寒さでは、身体が持たないしな」と俺が話題を変えようとすると、

「いつまでも現実から目を逸らすわけにはいかないぞ。あの悪魔は、そなたのことを王と呼んだ。つまりは、この新しい領土の王は、そなただということだ。もう、そなたとローザリア王国の間で、領土の取り合い合いが始まっているのだ」

「俺は、ローザリア王国と争う気はないぞ」

「そなたにその気がなくても、国を興さざるを得なくなるだろう」

ここでアウロラと言い争っても仕方がないので、

「そのことは、また改めて話し合おう。とにかく、俺は一旦帰るぞ。アウロラは、ここに残るんだな」

「ああ、ここで部族を待つ。馬は持って行け」


アウロラと短い別れを済ませた俺は、馬を受け取ってロデリアの街へ向かった。


ロデリアの北の門は開け放たれており、門兵もいない。

門の外から街の中を覗き込むと、街に人影は無かったので用心しながらそのまま街に入った。

領主の居城まで馬を進め、城の中に入ったが、ここも無人だった。

領主の執務室に入ると、執務室の上に手紙が置かれているのが目に入った。

手に取って見ると俺宛だったので内容を確認する。


グレナーデが率いる王国第4騎士団は、すでにこの街を去り、アンテローヌとオーリア達も付いて行ったようだ。

この領主の城に居ても、寒さは酷い。手紙にも書かれているように、火が起こせないし、井戸水は凍り付いて、水が飲めなくなっている。

手紙によると、グレナーデ達は街の東門を出て、アンデッドの原を迂回しながら、南方にあるアグニッサ領へ向かうとあった。

ロデリアからの避難民のほとんどが、その方向に向かったらしいので、その避難民を保護すべく追いかけるとのことだった。

俺も、ここにいても仕方がないので、グレナーデ達を追いかけることにした。

もっとも、その前に南門から出て、やるべきことがある。

ロデリア辺境伯領の南部に出現したアンデッドフィールドを解除することだ。

南門から続く街道を進んで行くとアンデッド達が目に入るようになったので、『解除』と念じると、アンデッド達が消え去った。

これでロデリアの南部は安全になった。俺はここで街道を引き返し、最初の分かれ道で東へと馬を進めた。

自分で駆けた方が速いが、馬に乗ったままでもすぐに追いつくだろうと考えて、ゆっくりとと馬を進めた。

3日目に、遠目に人の群れが見えた。

『あれは、避難民か』

馬の速度を上げて、人の群れに近付いていく。

大きな荷物を背に負った者、荷車に生活道具を満載して引いている家族、様々な姿格好の者達が、やや乱れた隊列を組んで進んでいる。一目で避難民と分かる者達だった。少し先には騎士団の最後尾も目に入る。

避難民の行列を追い越しながら馬を進め、すぐに騎士隊の最後列に追い付いた。


「グレナーデ・ジエゼッベリ様は、いずこにおられるか?」

俺が後ろから声を掛けると最後尾の騎士たちが振り返り、

「これは、ダブリン殿。団長はもっと前方におられる」と教えてくれたので、避難民の行列の前へと馬を急がせた。

漸く、見知った後姿が見えてきた。

後から、ルビー、クレライン、オーリア、アンテローヌの順で馬を進めている。

「アンテ、オーリア」と大声で呼ぶと、4人とも振り返り、俺の姿を視界に収めると笑顔になって、馬首を返してこちらにやって来た。

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