族長の試練
「お前の部族を、この街に呼び戻せるか?」
「私は打ち負かされた。もう族長ではないから無理だ」
「そんなこと、誰も知らないだろう」
「今の私は族長でなくなったから、守護神の加護が消えている。ベツレム族の者には、それが分かる。今は、お前がベツレム族の新しい族長候補だ」
「族長候補?」
「ベツレム族の族長になるには、北の大森林に行かなければならない。それは、逃げることが出来ない試練だ」
「俺はベツレム族じゃないぞ」
「我らの世界では、血筋など関係ない。力のある者が長になるだけだ」
「それで、大森林に行って何をするんだ?」
「エウリゥディケー様の試練を受けるのだ」
「エウ、何だ?」
「エウリュディケー様だ」
「そのエウリュディケー様というのは何者だ?」
「北の大森林の守護神様だ」
「守護神?神がいるのか?」
「この世の初めからいる始原の神だと伝えられている」
「始原の神?」
「我らの部族では、そう伝えられている」
「アウロラは、会ったことがあるのか?」
「あるとも。もっとも声を聞いただけだがな」
「実際に会ったわけではないんだな」
「疑うのか?」
「始原の神と言われればな」
「試練を受ければ、お前もエウリュディケー様のことを信じるだろう」
「その試練というのは、どんなものだ?アウロラも受けたのか?」
「もちろん受けた。試練で、エウリュディケー様に認められなければ、族長にはなれないからな」
「どんな試練なんだ?」
「人によって違うらしい。私のときは、悪魔の洞窟に入って、悪魔を殺して死体を持って来るというものだった」
「悪魔の洞窟なんてものがあるのか。そこには本当に悪魔が居たのか?」
「居たとも」
「それで、悪魔を殺したのか?」
「頭をかち割ってやった」
「お前って大概だな」
「女を燃やすような奴に言われたくないぞ」
「その悪魔は、俺にも倒せそうな奴か?」
「試練の内容は毎回変わるそうだ。お前が悪魔の洞窟に行くことはないだろう」
「そうか、試練は人によって異なるっていうことだったな。認められるのは難しいのか?」
「大抵の者は、認められないと言われているな」
「認められなければどうなる?」
「族長にはなれぬ。というより、認められずに生きて戻った者はいないと伝えられている」
「恐ろしい試練のようだな」
「怖気付いたか?」
「バカを言え。やってみようじゃないか。それより、その試練をやり終えたら、お前の部族は俺に従うのか?」
「少なくとも私は従う」
「他の奴らは?」
「知らぬ」
「知らぬとは、どういうことだ?」
「ベツレム族は、心の向くままに従う相手を決める。つまり、人気だな。私は、強さと人気の両方があった」
「人気があった?信じられん」
「何を言うか。私には、求婚者がいっぱいいたぞ。皆、弱かったから、頭をかち割ってやったが」
『求婚者が自分より弱いと、殺してきたのか。なんて奴だ』
「しかし、試練で認められたら守護神の加護が付くから、お前に従う者が出てくるだろう」
アウロラは、漸く起き上がることが出来るまでに回復したと思ったら、次の日には、朝早くから馬に乗って練兵場を駆け回っていた。
俺が宿舎から出て練兵場に出ると、
「もう完全に回復したぞ。これから大森林に行く。ここに乗れ」
と言って、馬の背の自分の後ろを叩く。鞍も付いていない裸馬だ。
「俺も馬に乗れるぞ」と言うと、
「この馬に乗った方が都合がいい。早く乗れ」と急かしてくる。
「食糧を持たなくていいのか?」と聞くと、
「そんなものは途中で狩ればいい」と答えてくる。何ともせっかちな奴だ。
「テレナ達にも、お前と出掛けることを言っておかないといけないしな」と言うと、
「お前の妻達とは、もう話をした。私も、その1人になったからな」と言って、顎で宿舎の入り口を指すのでそちらを見ると、テレナリーサにアンテローヌに、皆が集まっていた。
「アウロラと一緒に行って、ベツレム族の族長になって来い。王命であることを忘れるな」とテレナリーサに、大声で激励された。
「分かった。必ずその命令を果たそう」俺はそう返して、アウロラの手を取って、馬の背に引き上げてもらった。
「私にしがみついておけ。飛ばすぞ」とアウロラ。
練兵場を出ると、そのまま領都を出て、北へ向かってひた走った。
飛ばすと言っていただけあって、速い。
俺はアウロラの胴に腕を回して縋りついているしかなく
「こんなに飛ばして馬を潰す気か?」と叫ぶと、
「この馬は潰れない」と叫び返してきた。
どうやら乗馬の技術ではなく、スキルか何かの影響のようだ。
「私のスキルではない。この馬のスキルだ」
と、俺が考えていることを読み取ったように答えてくる。
しかし、こうして後ろからしがみつくと、改めてアウロラが大きいと感じる。
190センチを超える俺より頭一つ分、背が高い。肩幅も俺より広いし、腕も俺より太い。しかも、俺が腕を回している胴は、鋼鉄の塊のような硬さだ。
ベッドの上では、普通の女と同じ柔らかさなのに、その落差が激し過ぎる。昨晩のことを思い出していると、
「お前は、まだ8歳なんだってな」
いきなり、思いがけないことを言われた。
「オーリアとクレラインから聞いたぞ」
「あいつら、俺のことを喋ったのか?」
「当たり前だ。妻達は夫の情報を共有するものだ。お前の秘密は、皆で共有しているぞ」
「俺が8歳ならどうしたと言うんだ」
「可愛いと思ってな」
「か、可愛いだと」
「私は子供好きだぞ。お前の子供が出来ておっぱいが出るようになったら、お前にも飲ませてやる。楽しみにしておけ」
「おい、それは、夫に言うことか?」
「相手がお前ならな。幼夫もよいものだ」
「何だよそれ。幼夫って」
「皆にも受けていたぞ。誰かとは言わないが、誰が最初に本物のおっぱいをお前に飲ませるかで賭けもしていたぞ」
『ぐっ、そんな屈辱的なことを。しかし、そんな賭けを言い出しそうな奴が1人いたな。アリシアだ。あいつなら言い出しかねない』




