怒りのテレナリーサ
「それで、アンデッドは、キミの命令を聞くのかい?」
夜になっても、グレナーデ団長が俺にのしかかったまま聞いてくる。
「俺の命令を聞くと思います、やってみないと分からないというのが正直なところです」と答えると、
「うん、うん、自信なさげなくせに実力があるところがいいね。ギャップがいいよ。うん、うん」と頷くグレナーデ団長。
この異世界に、ギャップ萌えがあることに驚いた。
「ところで、キミは私とこういう関係になったんだから、私に対してはテレナに次ぐ忠誠を誓って欲しいんだけどな」と念を押された。これってハニートラップじゃないか。だけど、仕方がないので、
「それは、もう。テレナに次ぐ忠誠を誓います」と答えた。
「うん、うん、それなら答えて欲しいんだけど、キミがアンデッドに命令出来るのはどうしてかな?」
「それは、まだテレナにも話していないので・・・」と答えるのを渋ると、
「私には、話せないのかな~?」と迫ってくるので、
「テレナと一緒ならお聞かせします」と譲歩した。
テレナは、こんな踏み込んだことを聞いてこないが、このグレナーデ団長は、容赦なく俺の秘密を聞いてくる。
そのとき、「姉上、入るぞ」と、返事も待たずにテレナがテントに入って来た。
俺は真っ裸のままで、やはり真っ裸のグレナーデに覆い被さられている。
「テレナ、何でいきなり入って来るのよ」
グレナーデが怒ると、
「何故、スキルの秘密を聞き出そうとしているんだ。いくら姉上でも、そこまでするのは許されないぞ」と、テレナも怒っている。
『俺達の会話をテントの外で聞いていたのか?』と俺は驚いたが、そんな俺には見向きもせず、2人は暫く睨み合っていたが、やがてグレナーデが、
「分かった。私が悪かったわよ。謝るから、許して」と譲った。
俺には何のことか分からなかったのでキョトンとしていると、
「人のスキルを詮索するのは、一番やってはいけないことだ。ましてや私を差し置いて、本人から秘密を聞き出そうとなどとは、許し難い」
と、テレナの怒りは収まりそうにない。
「だから悪かったって謝っているじゃないの」とグレナーデがむくれると、
「もう、この者は連れて行く」
テレナリーサは、そう言って、俺の腕を掴まえてベッドから引きずり出した。テレナリーサに本気で引っぱられたのは初めてだが、俺より遥かに力が強くて、全く逆らえない。
「ちょっと待ってくれ、裸のままだ。服を」と言いかけたが、
「裸のままでいい」と、テレナは俺の言うことに取り合わず、外に引きずり出されて、そのままテレナのテントまで引っ張って行かれた。
夜で暗かったのと、テントの外には見張りしかいなかったからあまり見られていないと思うが、恥ずかしいことこの上なかった。
結局、テレナのベッドに放り出されて、八つ当たりなのか、嫉妬なのか、「暫く、ここから動くな」と不機嫌な声で言い渡された。
『悪いのはグレナーデの筈なんだが、何で俺が責められるんだ?腑に落ちない』と思うが、テレナリーサは、俺の前で手を後ろに組んだまま、動物園の檻の中の猛獣のように、行ったり来たりしている。
「自分のスキルについては、誰にも教えるな。そなたのスキルを誰かに知られることは、私が弱みを握られたのと同じことになる」とテレナが独り言のように言う。
「グレナーデ団長の相手をしろといったのは、テレナじゃないか」と俺が反論すると、
「それと、これとは別だ。そなたのスキルについては、私も聞かなかっただろう。私でさえも知らないことを、人に教えるな」と怒るので、
「だから教えていないぞ。テレナと一緒なら話してもいいと言っただけだ」と言い返すと、
「たとえ、私が居ても教えるな」と一喝された。
「分かったよ。それより、服を取って来て欲しいんだが」と言うと、
「分かればいいんだ」と言って、テレナは鎧と服を脱ぎだした。
そして、耳まで赤くした裸のテレナが覆い被さって来て、朝まで一睡もさせてもらえなかった。
『やっぱり嫉妬していたのか?』と俺は思った。
王国第4騎士団は、俺がいるとアンデッドが襲ってこないという判断に賭けて、俺達と一緒にアンデッドの原を縦断していくことになった。
隊列の先頭はテレナリーサ。その左右に、俺とアンテローヌが轡を並べ、俺達30人の騎馬の後方に、6千人の王国騎士団が続いている、アンデッドの原を縦断して、領都ロデリアを目指して出発した。
王国騎士団6千人のうちの300人は輜重隊で、従卒たちが食料と水を積んだ馬車を引いている。
アウロラは、包帯代わりの綺麗な布でぐるぐる巻きにして、輜重隊の馬車の積荷の上に、寝転ばせたまま落ちないように縛りつけている。
アウロラには、定期的に薬酒を飲ませているので、そのうちに意識を取り戻すだろう。傷が癒えたら、俺の奴隷にするつもりだ。一騎打ちで負けた方が奴隷になるというのは部族の風習らしいから、奴隷になるのを拒否することはないだろう。まっ、それより先に俺の眷属になってしまう筈だから問題はないのだが。
「領都ロデリアまでは一緒に行くが、我らは直ぐに王都に戻らなければならない。そなたの為に、アリシア、シモーヌ、ヴィエラを残していく。アンテローヌもいることだし、ロデリアをダブリン領として治めればよかろう」
轡を並べながら、テレナリーサが俺に語り掛けてきた。
「俺達と、王国騎士団との関係はどうなるんだ?」と疑問を口にすると、
「王国騎士団は、治安維持をするだけだ。街の政には絡んでこないぞ」
王国騎士団は、領都に残留するらしい。しかし、領地を治めることに手を貸してくれることはないようだ。
「街を治めるとなると、相当な人手が必要だぞ」と俺が心配を口にすると、
「現地で、人材を雇うしかないな。アンテローヌに、領主代理をさせろ。そなたに政治の経験があるとは思えぬから、領主としての仕事は全てアンテローヌに任せてしまえばいい」
ここで言葉を切ったテレナリーサは、反対側で馬を進めているアンテローヌに顔を向けて、
「ロデリアの領主代理を頼むぞ」と呼びかけた。
「お任せください。テレナリーサ様」とアンテローヌが応える。
「3長官を決めねばならないな。司法長官はアリシアだな。商務長官はシモーヌ、護民長官はヴィエラでよかろう。この4人がいれば、領内の政は回るだろう」




