作戦会議
護国騎士団のテントの設営も終わり、歩哨以外の団員は、それぞれのテントの中に入っている。
今、俺が居るのは大型テントの中だ。野戦用の折り畳み式の机と椅子が置かれ、机を囲んで腰かけているのは、団長のテレナリーサ、副団長のアンドレラ、魔法隊長のアリシア、俺とアンテローヌの5人だ。
「新米公爵の言い草が頭にきたから、本陣での会議の席を蹴って出て来た。だから、今回の戦いでは、公爵軍だけでなく王国騎士団からも援軍が期待できない。我々は、あくまでも単独で行動する」
「「単独でですか・・・」」と周囲が絶句する。
「ここからすぐ北西の丘に、およそ5千の敵が陣取っている。我々の数が増えないと見極めたら、今夜にでも襲撃してくるだろう」
「こちらから先手は打てないのですか?」とアリシア。
「倍する敵に怯えた世間知らずの公爵家の後継ぎが、野戦で籠城出来る訳もないのに、防戦を主張した為にな」
「やっかいですね」
「まったくだ。しかし、ここは我慢するしかない。そこで夜襲への対策だが、アリシア、土魔法の出番だ。相手から見えないように地形をいじって、足止めの場所をつくってくれ」
「足止めですか。というと土塁とか?」
「丘の周りをいったん掘り下げて、その底からこちらへの登りは急勾配の斜面にしてくれないか。アンテローヌ、手伝ってくれるな」と、アンテローヌの顔を見る。アンテローヌは魔力がA、土魔法の熟練度も19で達人の域に達している。魔法の使い手として非常に優秀だ。
「勿論です」とアンテローヌ。
「敵が攻めて来たら、丘の上から攻撃する。ときにダブリン殿、丘の上から敵を大量に削れる必殺技はあるか?」
「煉獄の業火だな。燃え尽きるまで消えないし、体だけじゃなく武器も防具も魔法まで燃やしてしまうからな」
「それは凶悪だな」と、テレナリーサは普通に感心したが、その他の面々は、顔を引きつらせている。
「煉獄の業火は、俺だけじゃなく、フィアと2体のリッチも使えるし、ケルベロス達も使える。どこかで足止めさえできれば、1万の兵でも食い止めることが出来るだろう」
「それは頼もしい」とテレナリーサ。
「その煉獄の業火とやらが、こちらに燃え移ってきたらどうする?」とアンドレラが心配する。
「煉獄の業火はリッチなら消せる。はずだよな、なあフィア」
「その通りですな」俺の問い掛けにフィアが姿を現して答えた。
「水魔法では無理なのか?」とテレナリーサ。
俺が「無理だ」と答えると、
「それでは。リッチの1体は、もしものときの火消し役をお願いしたいから、我らの近くに待機させておいてくれ」とテレナリーサ。
「分かった。それなら俺とフィアと1体のリッチとケルベロスで、煉獄の業火を担当しよう」
「すると、我らの総攻撃は、ダブリン殿の火攻めが終わってからですか?」とアンドレラが確認する。
「その通りだが、果たして、そのときに敵が生き残っているか疑問だがな」とテレナリーサ。
「その後は、どうする?」と俺。
「こちらに夜襲を掛けて来るとして、恐らく千程度だろう。煉獄の業火で迎え撃てば、夜に火は目立つから、他の敵も一気に動くだろう。全面的な戦闘になるのは間違いない。我々はその混乱に乗じて、目の前の敵を片付けたら、近くの丘の残りの敵を平らげる」
「その後は?」今度はアリシアが聞いた。
テレナリーサは立ち上がって、机の上に広げた作戦図を指差しながら、
「ここと、ここと、ここを襲う。もちろん順番にだがな」
「なるほど、一番近い敵陣から攻めていくということですか」とアンドレラ。
「この辺りから敵の主力になる。蛮族の首魁の1人アウロラ・ベツレムの側近達が出て来る筈だ」
「アウロラ・ベツレム?」と俺が聞くと、
「蛮族の女族長だ。かなり強いらしい。しかし、手強いのは、その女くらいだ。蛮族は数が多いが、個人の力量は知れている。今夜中に、敵の本陣を落とすぞ」
ここまで言ってテレナリーサは全員を見回す。どうやら会議は、これで終わりのようだ。
「少しだけ話があるんだが、いいか?」と聞くと、テレナリーサは、
「少しだけ2人にしてくれ。アンドレラも、頼む」と言ったので、俺達以外の全員がテントを出て行った。
「それで、言いたいことは何だ?」とテレナリーサ。
「新しい結界スキルを覚えた」と俺が言うと。
「王都の東門の外で使っていた、姿を消すやつか?」
「そうだ。あれを使えば」と言いかけると、テレナリーサは、手を上げて俺の言葉を止め、
「それ以上は言うな。自分の奥の手は、自分自身の為だけに隠しておけ。ここで手の内を見せることはない」
「だけど、戦況をひっくり返せるかも知れないぞ」
「そなたが、王国の為にそこまでする必要はない。この戦争も結局は、王国内の権力争いに利用されている。ここでそなたが大きな働きをしても、王国内では疎まれるだけだ」
「王国って、そんなに酷いのか?」
「身内の恥を晒すようだが、酷いものだ」
「王国は、テレナ達も見捨てるつもりなのか?」
「第3騎士団にとって、蛮族ごとき蹴散らすのは造作ない。放っておかれるのは却って都合が良い」




