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傲慢

俺は、カロンの船に運ばれている。

河の流れは右へ左へと急角度で曲がり、ときに激流になる。その流れの中を、カロンは巧みに船を操っていく。

『これから、どこへ行くんだ?』と俺が聞くと、

『まず、傲慢の城へ行く』

『傲慢の城?』

『傲慢と対決するがいい。そなたが勝てば、傲慢の芽が潰える』

『俺が負けると、どうなる?』

『負けると、そなたの中に、傲慢が芽生える』

『俺の中に傲慢の芽が?すると、どうなる?』

『地上に撒かれた傲慢は、そのまま育つことになろう』

『どうして、俺が傲慢を止めなきゃいけないんだ?カロン、あんたなら出来るだろう?何故、あんたがやらないんだ?』

『我ら冥界の者は、生者の世界には出られぬからのう』

『だけど、あの穢れの女王とかいうのは、俺の前に現れたぞ』

『そなたがヘルゲートを、ちゃんと閉じなかったからじゃ。いわば、そなたが召喚したようなことになったのじゃ』

また、俺の責任だと言われたので、俺は口を閉じるしかなかった。


『傲慢の城が見えて来たぞ』

カロンの言葉に顔を上げると、河の岸の向こうに、黒々とした城が見えた。

カロンが船を岸に着け、

『ここからは、そなただけで行け』と言われた。

『俺1人で行くのか?カロンは付いて来ないのか?』と聞くと、

『そなたの尻拭いを、なぜ、我がせねばならぬ?』と、突き放された。仕方がないので俺は船から岸に跳び移った。

足元を見ると、真っ黒な大地がどこまでも広がっているようだった。

振り返ってカロンを見ると、さっさと行けと言わんばかりに、他所を見ている。

俺は、前方の黒い城に向かって歩き出した。

ときどき、大地からスケルトンが湧きだして襲い掛かって来るが、剣で斬り倒して進んでいく。

数時間歩いて、城に着いた。そして、俺が城の門の前に立ったのを見計らったように、大きな扉が左右に開いた。

まるで、中に入れと誘われているようだったので、俺は、抜身の剣を右手に握りしめたまま、城の中に入っていった。

城の中に入ると、直ぐに大きな広間になっていて、その奥に大きな椅子が置かれていた。そして、その椅子に、小さな人影が座っていた。

近寄ってみると、椅子は、金銀と宝石で飾られた玉座のようで、そこに座っているのは、豪華な玉座に相応しくない、10歳位の子供だった。

その子供は、頭に冠を被り、金糸の刺繍がある白い長衣の上に、色取り取りの宝石を散りばめた幾つもの勲章を着けたチェニックを着込み、真紅のマントを羽織っていた。

そして、贅を尽くした椅子に座っている子供がこちらに向けた顔は、恐怖に引きつっていた。

しかし言葉は、やけに強気で、

「グヘヘッ。きちゃまが、我を討ちに来たやちゅか。にゃまいきな」

いきなり脅して来るが、幼児言葉が滑稽だ。

俺が思わずニヤついていると、

その子供が「傲慢」と叫んだ。

その途端、俺の中で、何かが急激に膨らんだ。身体の底から、いや、魂の底から、力が漲ってくる。

『俺は、つ・よ・い』

マグマのように身体の奥底から湧き上がる、力が暴走しそうになるのを、奥歯をギリギリと噛み締めて耐える。

「ひゃははっ。僕ちゃんの勝ちじゃ。そなた、我が姿を見たときに、子供と侮ったであろう。その驕りこそ、傲慢の芽じゃ。ひゃははははははっ」

嘲笑いを受けながら、気がつ付くと、俺は黒い大地に1人で立っていた。

周囲を見回して、傲慢の城も、傲慢自身だと思えるあの子供も、何処にもいない。


『俺は、負けたのか?あいつを見たときに子供だからと、俺が侮っただと?いや、子供の姿には、むしろ警戒したはずだ。あの言葉使いだ。幼児の言葉使いで俺を脅してきたので、それで、侮ってしまったのだ。ということは、その為の、あの言葉使いだったのか。まんまと、引っかかったということか』

そんなことを考えながら、しばらく立ち尽くしていた俺だったが、間をおいて身体の底から突き上げてくる力の暴走を抑え込むのに、歯を食いしばって耐えなくてはならなかった。

『この異変は、いったい何だ?』

俺は、自分自身の変化に戸惑いながら、カロンの船に戻った。


俺が船に乗り込むと、

『どうやら負けたようじゃの』とカロンが話しかけてきた。

『奴は、何処へ行った?』と聞くと、

『そなたの中じゃ』と言われた。

『傲慢は、そなたに吸収されて、そなたの一部となった。ステータスを確認して見るがいい』

カロンに言われて自分のステータスを見ると、称号 傲慢が現れていた。俺が、驚いていると、

『8つの穢れの全てに負けると、そなた自身が穢れの王となるから、今後、気をつけるがよい』

カロンの言葉を聞きながらも、俺は、身体の底から突き上げてくる力の暴走を抑え込むのに必死だった。

『穢れに負ける度に、押さえ切れない力が増える。その力は、そなたへの責め苦となろう』

カロンの無情な忠告を、俺は呆然として聞いていた。

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