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冥界の戴冠者

最初に動いたのは、ナザニエールに潜んでいた他の貴族家の影、つまり密偵達だった。彼らは、商人や冒険者など、いろいろな職業に扮して潜んでいた。

伯爵領全体を覆っていた結界が消えたとき、伯爵領の空気が変わった。それは、微かな変化だったが、訓練を積んでいる影達がその変化を見逃す筈がなかった。

そして影達は、まず、連絡用の使い魔を放った。それまでは、数時間後には戻って来た使い魔が、今回は戻って来なかったので、結界が消えたと判断した彼等は、次々とナザニエールの街を抜け出していった。

この街が封鎖されたといっても、街の門が閉まっているわけではない。むしろ、食糧調達の依頼を受けた多くの冒険者が出入りする為、隠密に長けた影達が、この街を密かに出て行くことは、容易いことだった。

ナザニエールを出た影達の動きは、2通りあった。1つの動きは、領境を越えてクラガシアを目指し、そのまま王都や、自領へと向かうものだった。もう1つの動きは、領都トラディションに向かっていた。しかし、この者達は領都を囲むアンデッドを見て、ナザニエールに引き返した。


こうして、結界が消えた数日後には、多くの密偵達がクラガシアや王都に着き、使い魔や魔道具を使って報告をしたので、トラディション伯爵領の状況が王国中に知られることになった。

この情報を得て、王都では、緊急の御前会議が開かれた。しかし、王家の招きに応じたのは、大貴族家20家のうち12家に過ぎず、フスタール同盟の8家は参加しなかった。そして、御前会議が、不参加の貴族家を謀反と断じたと同時に、フスタール同盟の7つの貴族家が一斉蜂起して、隣接する他領に攻め込んだ。


この動きに、フスタール同盟の首魁であるトラディション伯爵家は加わっていない。この時点では、領都トラディションはアンデッドに取り囲まれていて、出陣出来る状況ではなかった。

しかし、ケンドリッジ将軍は、既に出陣の準備を進めており、フスタール同盟の一斉蜂起が起きると同時に、使い魔をナザニエールに送り、領兵の指揮官と冒険者ギルドに、街の完全封鎖と冒険者の強制徴兵を命じた。

それから数日遅れて、領都を取り囲んでいたアンデッドが消えたので、ケンドリッジ将軍は、7000の兵士を率いて領都トラディションを出陣し、ナザニエールで5000の兵士と冒険者2500を加えて、そのまま王都を目指して進軍を続けた。


この頃、俺は、領都トラディションの周囲のアンデッドフィールドを解除した後、そのままカスタリング鉱山と尾根下のアンデッドフィールドの解除に向かっていたので、その間に、トラディション軍が出陣したことを知らずにいた。しかも、その出陣の原因の一部が、俺がアンデッドを消したことにあることも知らないままだった。

だからと言って、トラディション軍の出陣が、俺の責任だといわれても困る。

アンデッドの原や穢れの女王の出現などは、俺が意図してやったことじゃない。

これらの出来事が、なぜ、この時期に、こういった形で起きたのか?そして、何故、それに俺が巻き込まれえているのか?俺の方が聞きたいくらいだ。ここまでくると、何か超越的な存在の意図が絡んでいるのかも知れない。


とにかくこの時期の俺は、自分自身の尻拭いとして、カスタリング鉱山に出現していたアンデッドフィールドを解除し、続けて尾根下の戦場跡に出現していたアンデッドフィールドを解除した。

そして、俺のデスマスターの権能が原因となって、出現していたアンデッドフィールドを全て解除したとき、頭の中でアナウンスが流れた。


アンデッドフィールドの解除が一定数に達したことを確認。

冥界の戴冠の条件を満たしました。

冥界の戴冠が実行されます。

冥界の戴冠により、称号 王と称号 デスマスターが統合され、称号 冥界の戴冠者になります。


ステータスを確認すると、ジョブのデスマスターが冥界の戴冠者に変わり、称号では、王とデスマスターが消えて、新しい称号として冥界の戴冠者が現れていた。

「戴冠者って何だ?」と、誰に聞くともなく呟くと

『戴冠者というのは、冠を授けられし者。つまり、王のことじゃ』と念話が聞こえて、目の前に3メートルを超える長身で、瘦せ細った男が現れた。手には大きな鎌を持っており、ローブで全身を覆っている。どう見ても死神そのものだ。

思わず「死神か?」と叫んだが、周囲からの反応がない。よく見ると、周囲の皆は止まっており、動いているのは自分だけだった。

『ここは、時の狭間である。我と会うときは、この時の狭間に呼ぶがよい』

『待て、一方的に言われても、訳が分からない。お前は何者だ?』

『我は、カロン。冥界の守護たるカロンである』

『何故、俺のところに現れた』

『そなたのスキルを確認するがよい』と言われたので、スキルを確認すると、カロン召喚という表記が増えていた。

『なるほど、このカロン召喚で現れたのか。しかし、俺が召喚したわけでもないのに、何故現れた?』と考えていると、

『我ほどの高位の存在になると、召喚者の召喚は関係が無い。我が思うときに現れる。ただし、我は、この時の狭間から出ることはかなわぬがな』

『時の狭間って何だ?』

『時の狭間は、時の狭間じゃよ。時から、はずれた時空と言えばよいかのう』

『すると、ここにいる間は、周囲の時間は止まっているのか』

『そういうことじゃ。そなたが、ここでいくら過ごそうとも、外の時間は進まぬ』

『だけど、俺は、時の狭間に入ることなんて出来ないぞ』と聞くと、

『我を召喚すれば、そなたが、この時の狭間に招かれるのじゃ』という答えが返って来た。

『それでは、俺が逆に召喚されるのか』

『そうとも言えるな』

『それで、俺に何の用だ?』と肝心のことを聞くと、

『穢れの女王のことじゃ。あ奴は、冥界の神の許しもなく、生者の世界に干渉しおった。これを正さねば、いずれ冥界にも歪みが生まれよう。冥界の戴冠者になったそなたが、その歪みを正さねばならぬ。それを告げに来たのじゃ』

『待て、勝手なことを言うな。何故、俺が、そんなことをしないといけないんだ?それに、冥界の戴冠者って何だ?』

『冥界の神が、冥界の冠を授けることを、冥界の戴冠という。そして、この度は、そなたが冥界の戴冠者となり、冥界の王の権能を得たのじゃ』

『何故、俺が、そんなものになったんだ?』

『穢れの女王が、生者の世界に出た責任はそなたにあるからじゃ。そなたが、その責任を取るのが当然じゃろう』

『待て、俺に責任があるというのはどういうことだ?あんな物騒な存在と、俺は何も関係していないぞ』

『ふむ、気付いておらぬか。ならば、聞かせよう。そなたがヘルゲートを開いて、冥界の鎧を呼び出した後じゃ。ヘルゲートがちゃんと閉じておらなかった。故に、そこから、穢れの女王が、生者の世界に出おったのじゃ』

『ヘルゲートが、ちゃんと閉じていなかった?そんなことは、俺には分からないぞ』

『分かってやっておれば、なおさら問題じゃ』

『分かってなくても責任があるってことか?』

『その通りじゃ』

『俺に責任があるとして、何をすればいいんだ?』

『穢れの女王が、生者の世界に解き放ったのは、傲慢、貪欲、獣性、邪淫、悪意、暴虐、欺瞞、蝕穢の8つの穢れじゃ。これを全て、そなたが滅ぼさねばならぬ』

『具体的にどうすればいい?』

『8つの穢れが生者の世界に解き放たれたが、その根は冥界にある。そなたは、冥界に下って、その根から生者の世界に伸びた芽を断ち切るのじゃ』

『冥界に行くのか?しかし、どうやって?』

『我が案内しよう』

『俺1人か?他の者は?』

『そなたが冥界に下っておる間、生者の時間は進まぬ』

『そうか。それなら案内してくれ』

『よかろう』

カロンが振り向くと、足元の地面は河に変わり、俺達は船に乗っていた。

これは、冥界の河を渡る船か。気が付くと、俺が乗った船は河の流れに乗って進んでおり、カロンが船尾で船を操っていた。

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