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ゴーレム対決

俺と辺境伯は、30メートル程離れて対峙した。

まず、伯爵が「アイアンゴーレム」と唱えると、身長5メートルもある、鈍い銀色に輝くアイアンゴーレムが現れた。

これに、アリシア達が、真っ青になった。

「お父様、これは反則ですわ。こんな巨大なゴーレム、見たことがありません」と悲鳴に近い声を上げる。

「ハッハッハッ、これが吾輩の本気だ。今まで、見せる必要がなかったからな」

どうやら、辺境伯は高度な土魔法の使い手らしい。

ただのゴーレム魔法なら、魔法阻害で何とかなるが、果たして、それで済むのか?魔法阻害が効かなければ、次の手は、スタンジーにハデスを装着させて、ゴーレムと偽ってみるか。魔法阻害では、派手さに欠けるから、ここはスタンジーとハデスのバージョンで行くか。

「来い、スタンジー&ハデス」

俺の前に、ハデスを着込んだスタンジーが現れた。身長4メートもある全身鎧の騎士だ。

これには、辺境伯もアンテローヌやアリシア達も驚いて、

「流石、旦那様ですわ」などと騒いでいる。

辺境伯は、

「ゴーレム魔法ではないな。不思議なスキルを使うものだ」

と言うと、アイアンゴーレムがこちらに向かって駆けて来る。

普通のゴーレムの3倍は早い。

それならと、俺も、

「行け、スタンジー。ハデス、剣を使うなよ」

と、突撃を命じる。

体格は、アイアンゴーレムの方が優っているが、スピードはスタンジー&ハデスの方が圧倒している。

最初は、楽勝かと思ったが、そんなことはなかった。

原因は、アイアンゴーレムの重量と頑丈さだ。

怪力のスタンジーが全力で殴っても、揺らぎもしない。鋼鉄の塊だから、その重量は、スタンジー&ハデスの何倍、いや十数倍あるかも知れない。体当たりをしても跳ね返されるだけだった。幸いだったのは、ハデスに物理攻撃無効があったことで、アイアンゴーレムの攻撃も、スタンジー&ハデスに効かなかった。もし、物理攻撃無効がなかったら、スタンジー&ハデスは何度も跳ね飛ばされて、判定負けになっていた可能性がある。

互いの攻撃が効かないので、数十分に及ぶ殴り合いが続いた。

重い金属同士がぶつかり合う音が響き渡り、俺も、辺境伯も、見ている者も、呆然として、その殴り合いを見ていた。

そのうち、スタンジー&ハデスが打ち合いを躱して、ゴーレムの片脚を取り、もう一方の脚に自分の脚を掛けて、ゴーレムを押し倒した。

そして、スタンジー&ハデスが馬乗りになって殴りつけるが、一向にダメージが入らない。

このアイアンゴーレムは強い。1体いるだけで、敵の大軍を圧倒できるほどの戦力だ。セレストリ辺境伯が、国境防衛の一翼を任されているのが十分過ぎる程、納得できた。

暫く殴られっばなしだったアイアンゴーレムだったが、スタンジー&ハデスの腰を両手で掴んで、横に放り投げた。

この動作は、攻撃と判定されなかったので無効にはならず、スタンジー&ハデスは放り投げられて、コの字状のセレストリ城の左翼の建物の一部を壊してしまった。

「そこまでです」

張りのある高い声が響き、俺は声のした方を見た。

アリシアによく似た、髪を高く結い上げた美しい女性が、腰に手を当てて俺達を睨んでいた。

「城を壊して、どうするおつもりですか?」

美しい女性の叱責は、セレストリ辺境伯に向けられていた。

「す、済まない。つい、力が入ってしまってな」

「最初から、この戦いを見ていましたが、あんな大きなゴーレム同士を戦わせるなんて、こんな狭い所ですることですか?」

「い、いや、言われてみるとそうだな。しかし」

「しかし、何ですか?」と返す女性の声にはトゲがあった。

「婿殿が、あんな大きなゴーレムを操れると思わなくてな」

「人のせいにしない」

まるで母親が子供を叱るようにピシャリと言われた辺境伯。これは完全に尻に敷かれていると思ったら、ゾクリとした。あの女性は間違いなくアリシアの母親だ。だとしたら、俺もこの辺境伯のように、アリシアの尻に敷かれてしまうのか?今でも、口では勝てないしな。

辺境伯が奥方らしき人に叱られている間に、俺は、スタンジーとハデスの召喚を解除しておいた。

「城の修理費は、あなた持ちですからね」と厳しい語調で辺境伯に言い渡すと、奥方らしき女性は、俺には会釈して、踵を返して城の中に消えて行った。


「確かに実力は申し分なさそうだな」

俺の前のソファに座っている辺境伯は、酒の入ったグラスを片手に頷きながら言った。

「しかし、あれは何だ?リビングアーマーにしては動きが速すぎる」

「その、改良版みたいなものです」

「ふ〜む、まあ、詮索はよそう。そなたの身元引受人は、かのお方だからな。実力を見せてもらった以上、吾輩からは何も言うことはない。アリシアとシモーヌは、連れて行くがいい」

「有難うございます。貴族の作法を知りませんので、無作法があれば、ご容赦下さい」

「ふむ、本当に貴族の作法を知らぬようだな。しかし、その言い訳が、どこででも通用すると思わない方がいい。アリシアに貴族の作法を習っておくことだな」

辺境伯はそう言うと、立ち上って、その部屋から出て行った。

「お可哀想に。これから母上に、こってり絞られる運命が、父上には待っていますのよ」と、アリシアがしなだれかかってくる。

肩を落とした辺境伯の後姿を見て、アリシアを見ると、その後姿が、明日の俺自身の姿にならないように祈るしかなかった。

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