ダブリン 11
俺とオーリアは道具屋を回って、強い魔物の魔石を探した。
そして見つけたのがハイオークの魔石だったが、金貨35枚の売値が付いていた。ハイオークは、オークゼネラルには劣るが、ゴブリンゼネラルより格上の魔物とされている。
『この魔石を食いたい』と思ったが、手持ちの金は金貨12枚。まったく足らない。
俺がその魔石をじっと見ていると、
オーリアが俺の耳に口を寄せて、「私を売っちゃいなよ」と囁いた。
俺は、ギョッとして
「何を言ってるんだと」とオーリアを見返す。
「私なら、たぶん金貨25枚以上で売れるはずよ。その金で、魔石を買っちゃいなさいよ。後で、私を買い戻してくれたらいいから」
情けないことに、この提案には心が動かされた。
「いったん街を出て、クレラインを探そう。今夜一晩待って、明日の朝までに帰って来なかったら、そうしよう」
俺達は何も買わずに店を出て、そのままクレラインを探して盗賊の洞窟の近くまで行ってみたが、何も見つけることはできなかった。
翌朝になっても、クレラインは帰ってこなかった。これは、盗賊に捕まったと考えるしかないだろう。
朝になると宿を出て、道具屋に行ってハイオークの魔石の前金として金貨10枚を払い、売約済みにしてもらった。続いて、奴隷商に行きオーリアを売った。
いくら短い期間だったとはいえ、一緒に暮らし、肌を重ねてきた間だけに売るのは辛かったが、ぐっとこらえて、金貨25枚を受け取った。
「クレイランを助けたら、出来るだけ早く買い戻しに来るからな」
「私のことより、クレラインを頼む。早く行きな」
オーリアは堪えているような表情をしているが、名残を惜しんでいる暇はなく、俺は奴隷商を出て道具屋に向かった。
道具屋で残金の金貨25枚を払ってハイオークの魔石を受け取ると、店を出て、路地裏の人目のない場所でハイオークの魔石を食べた。
また体が大きくなって、俺はその場にしゃがみこんだ。ミチミチと体中の筋肉が音を立てているような錯覚に囚われる。上腕が、太腿が、大胸筋が、背筋が、腹筋が、盛り上がってくるのが分かる。暫くして立ち上がり、体の変化が続いているのを無視して歩き出す。
背の高さはそれほど変わっていないようだ。いや2~3センチ伸びているかもしれない。目覚ましく変わったのは筋肉だ。上腕筋が盛り上がり、肩幅も胸幅も2回りは大きくなっている。腰回りと太腿も太く、がっしりとした体格になった。
そのまま街を出て森に入ると、すぐにステータスを確認する。
名前 ダブリン
種族 人間
性別 男
年齢 8
ジョブ 捕食者4(魔物を捕食する者)、進化者5(魔石によって進化する者)
筋力 B+→B++
耐久 C+→C++
俊敏 C++→B——
魔力 C+→C++
抵抗 D—→D
固有スキル スキルドレイン(接触時) 魔石進化(魔石吸収時) 魔力ドレイン(接触時)
飛行1、羽刃1、嘴攻撃1、鉤爪1、風魔法4→5、警戒1、身体強化2、喧嘩1、威圧1、格闘1、詐欺1、気配察知2→3、投擲2、噛み付き1、穴掘り1、夜目1、敏捷2→3、繁殖力1、土魔法3、成長加速1、棍棒術2、悪食3、仲間呼び1、跳躍2、聴覚強化2、突進1、皮膚硬化1→2、剣術3、短剣術2、斧術1、蹴り1、踏みつけ1、頭突き1、脅し1、裏切り1、逃げ足1、誘拐1、統率1、大剣術3→4、怪力2→4、眷属強化1、異常耐性1、火魔法2→3、水魔法2、闇魔法1→2、ゼネラルアーマー召喚、ゼネラルソード召喚、眷属召喚1、暗器術1、操毒1、盾術1、隠密1、マインドブロック1、床上手1、狼爪斬1、長駆1、俊足1→2、遠吠え1、剛力1→3、頑丈1、雄叫び1、無敵1、オーク召喚1
称号
ゴブリンの捕食者
(ゴブリンに対しての攻撃が防御無視になる。ゴブリンからの攻撃はダメージが半減する)
将軍(眷属を統べる)
ステータスとスキル熟練度のアップは、洞窟の盗賊との闘いの分と、今回の魔石を食った効果の相乗効果のようだ。パラメーターは全てワンランク上がったし、スキル熟練度は、戦闘時によく使っている風魔法が5になっただけでなく、大剣術と怪力が実戦で使える最低ラインとされる熟練度4になった。大剣術の熟練度が7か8あれば、洞窟の盗賊に負けることはないだろうが、熟練度4では心もとない。
しかし、ハイオークの魔石を食って手に入れたスキルに、とっておきのものがあった。無敵だ。これは一定時間、文字通りに無敵になるスキルのようだ。ただし、俺の場合は熟練度が1のため、持続時間が短いのだろう。そのリスクを承知で使いどころを考えないといけないスキルだ。それと、予想外のスキルとして、オーク召喚1があった。オークが1匹召喚できるのだろう。単身で敵陣に乗り込もうとしている俺には、心強いスキルだ。眷属召喚は、未だに使えないので助かる。
無敵の性能を調べたいが、一度使ってしまうとクールタイムが、最低でも1日はありそうなスキルなので、試せないままぶっつけ本場でいく。
単身で突撃するとして、体はゼネラルアーマーが護ってくれるが、この鎧、顔の部分が無いんだよな。
顔が出ているからこそ、俺がゴブリンゼネラルに勝てたわけだが、いざ自分が装備してみると、これは物凄い欠点であることがわかる。剥き出しの顔に、矢とか魔法を受けたらそのまま詰むぞ。特にあの矢を受けたら即死は免れない。腕で防ごうと思っても、腕が弾かれたらお終いだ。
ならばどうするか?矢を防ぐには盾しかない。あの矢は普通の盾では防げない。しかし、バックラーのように、左手に持って相手に突き出して使う小型の盾なら、あの矢を逸らせることが出来るかもしれない。
そう考えた俺は、武器屋に寄って、小型の盾を探した。直径20センチぐらいの、小ぶりな盾が金貨1枚で売っていたので、直ぐに買った。ただし、安いだけあって金属が薄い。俺は、街を出て森に向かう途中で、土魔法で、鉄の盾の表面に10センチ位の厚さの固めた土を被せて補強した。中央を尖らせて円錐状にしてあるので、あの矢でも横に逸らせることが出来るだろうし、砕けたら、土魔法でまた補強すればいい。
森の中でゼネラルアーマーとゼネラルソードを召喚する。ゼネラルアーマーが新しい体格に合うか心配だったが、新しい体格にフィットしていて安心した。そのまま盗賊の洞窟に向かう。
作戦的には、オークを召喚して、洞窟に突っ込ませて敵をおびき出したいころだが、オークは1体しか呼び出せないので、今は我慢だ。
そうなると、真正面から突撃するしかない。
左手に盾を持っているのでゼネラルソードが使えないかと心配したが、筋肉が大きくなって力が強くなっているせいで、大剣が軽々と振り回せるようになっていた。
そうこうしている間に洞窟が見えて来た。見張りが2人いる。俺は、隠密を発動させて、そっと近づいて、エアカッターで2人の首を斬る。熟練度が5に上がった風魔法に、2人の盗賊は叫び声をあげることも出来ず倒れた。
そのまま洞窟の入口に近づき、気配察知で中を伺う。
まだ誰にも気づかれていないようだ。洞窟に入り壁に沿って奥に進む。
最初の曲り角に隠れるように見張りが2人居る。だが、俺に気付いているわけではない。
さて、どうやって気付かれずに倒すか?
どのスキルを使うか考えた俺は、闇魔法が2になっていることに今更ながらに気付いた。
『闇魔法って何だ?何が出来るんだ?』と考えると、闇魔法で出来ることが分かった。闇魔法は精神干渉系の魔法が多く、熟練度2になると幻視が使える。
まず小石を、見張りがいるのと反対の方向に小石を投げる。
「何の音だ?」
見張り達の声が聞こえた。
「少し見てくる」1人が立ち上がって角を曲がってくる。
そこに合わせて幻視を使う。彼らのいるところから奥へ向かって、何かが走っていく幻視をイメージする。
「おい、何かが奥へ行ったぞ」
その相棒の声に、
「何?」
こちらに向かおうとしていた盗賊が振り向く。
そこに角まで忍び寄っていた俺は、エアカッターで、手前に居た盗賊の喉を斬る。
血が噴き出した音に気付いたもう1人の盗賊の喉もエアカッターで斬る。
斃れた2人の盗賊の止めを刺していると、さすがに、気付かれたのか、奥の方から数人が駆け付けてくる足音がした。
姿が見えないが、バックラーを顔の前に構えたまま、風魔法を撃ちまくる。
「グワァー」
「ギャアー」立て続けに悲鳴が上がる。
奥から矢と火魔法が飛んでくる。
俺も、エアカッターとファイアーボールを交互に撃つ。
「また、あいつか?」と怒声が上がる。
突然、左手に衝撃があり、バックラーの表面に着けていた土魔法のカバーが砕け散る。あの大型の矢だ。だが、ハイオークの魔石を食って強化された今の俺は、弾き飛ばされたりしなかった。
出し惜しみは身を亡ぼす。今こそ、あのスキルの使いどころだ。
俺は、無敵スキルを発動させて、洞窟の奥の盗賊達に突撃する。
もう一度、あの矢を受けたが、無敵状態なので蚊に刺されたほども感じない。
そのまま盗賊の集団に突っ込みゼネラルソードを振り回す。
ゼネラルソードの切れ味が凄すぎて剣術もなにもない。相手の剣も盾も鎧も、そこにないかのよう敵を斬っていく。
大きなボーガンを持っていた奴がそのボーガンで俺の剣を防ごうとしたが、そのボーガンごと上半身を斬り裂いた。その横に居た頭目らしき奴が、大きな剣で斬り掛かってきたが、振り上げた腕ごと頭部を切断した。そいつらの後ろに居た奴に、大きな火の玉を顔にぶつけられたが熱さを感じることもなく、その魔法使いを斬り捨てた。
残りの盗賊を倒している間に無敵スキルが切れたが、強いのはその3人だけだったようで、後の奴らは一方的に殺しまくった。




