眷属アンテローヌ
俺達は、誰にも見られることなく、助け出した子供達を馬車に乗せ、アンデッドの原を抜けて、ランズリード領の砦に戻った。
アンテローヌの様子を見に行くと、まだ眠っていた。ベッドの横に置いてある椅子に座り、その手を取ると、突然、彼女のステータスが見えた。
名前 アンテローヌ・ランズリード
種族 人間+ダブリン・ブラッド(侵食中 11/100)
性別 女
年齢 28
ジョブ 騎士
筋力 A
耐久 B+
俊敏 AA+
魔力 A
抵抗 A++
スキル 剣術26、短剣術21、盾術19、弓術21、飛斬24、蹴り21、怪力16、身体強化19、俊敏20、縮地22,瞬動25、鎧袖一触18、隠密32、気配察知28、火魔法19、風魔法22、水魔法22、土魔法19、光魔法18、闇魔法16、空間魔法21、冥界魔法1
状態 ダブリンの眷属
アンテローヌが俺の眷属になっていた。フレイラと同じように、種族が、人間+ダブリン・ブラッド(侵食中 11/100)となっている。
『侵食中って何だ?』と思うが、何も分からない。
それにしても、強い。能力のパラメーターも高いし、スキルが多彩で熟練度が高い。
普通のスキル扱いの空間魔法を初めて見た。
翌朝、アンテローヌが目を覚ました。
「おっ、目が覚めたか。気分はどうだ?」と聞くと
「体が少しだるいですわ。ここは何処?はっ、戦いはどうなりました?」と聞くので、その後のことを教えた。
「我が軍が勝ったのですか。閣下に会って報告を・・・」と、体を起こそうとするので、
「侯爵なら、全て知っているぞ」と起きるのを押しとどめて、
「その前に、大事な話があるがいいか?」と聞くと、また身を起こそうとするので、また、押しとどめて、
「寝たままで聞いてくれ。言い難い話なんだ。聞いたら怒ると思う」
「私が怒る?」と、アンテローヌは眉を顰める。
「腰の傷が酷かったから、俺のスキルで血止めをした」
「出血を止めて下さったんですね。有難うございます」
「それが、それだけで済めば良かったんだけどな」
「私が、旦那様の眷属になってしまった件ですか?」
「何だ、分かっていたのか?」
「自分のことですからね」
「それで、済まないと思ってな」
「謝ることはありません。むしろ、旦那様の秘密を共有出来て喜んでおります」
「俺の血には、傷口を塞ぐ力があるんだが、大怪我した者をそれで治すと、皆、眷属になってしまったんだ。それが、ルビーと、ここには連れてきていないフレイラだ」
「フレイラまで眷属に?」
「フレイラを知っているのか?」
「フレイラに重傷を負わせて、旦那様が通る場所に捨て置いたのは私です」
「フレイラを襲ったのは、アンテだったのか。何故そんなことを?」
「テレナリーサ様の命令です。フレイラを旦那様に見つけてもらう為ですわ」
「だけど、フレイラが王都にやって来たのを、どうして知ったんだ?」
「フレイラを逃がしたのは、ランズリードの影ですから。フレイラはずっと私達の監視下にありました」
「直ぐに助けなかったのか?」
「フレイラから証言を引き出すのは、旦那様にやってもらうというのがテレナリーサ様のお考えでした」
「それじゃ、テレナの狙い通りになったのか」
「そうなったようですが、フレイラが旦那様の眷属になるとは思いもしませんでした。テレナリーサ様は、そのことをご存じで?」
「テレナには、俺が眷属をつくれることを話していない」
「何故ですか?」
「気不味くなるのが嫌だったからな」
「オーリアとクレラインも眷属なのですね」
「分かるのか?」
「薄っすらと、眷属同士の繋がりが感じられます」
「最後に、聞いておきたいんだが、アンテはテレナの影なのか?」
「あら、バレておりましたか?」
「この任務を頼まれたときに、テレナは、証拠を掴んだら、影が現れると言っていた。それで現れたのがアンテだったから、影だと判断したんだが」
「呆れた。テレナリーサ様は、そんな分かりやすい指示を出していたんですね。私の身分を隠す気がまるでないではありませんか」
「なる程、2人の関係を隠す気がなかった訳か。もう一つ聞きたいんだが、テレナは、なぜ俺に今回の調査を依頼したんだ?」
「王命ですわ」
「王からの命令ということか?」
「女王様が直接テレナリーサ様に命令されたようです」
「テレナが王家の影というのは本当か?」
「あら、そんなことまでご存知ですのね。本当のことですわ」
「そうか、言ってなかったが、俺に憑依している怨霊がいてな。そいつがときどき手を貸してくれる。今度は、倒した貴族をアンデッドにして情報を聞き出してくれた」
「怨霊まで手下にしておられるのですか。そういえば、リッチも手下にされていましたね」
「ああ、フィアという名前だったが、今は、俺の眷属ではなくなっている」
「何かあったのですか?」
「穢れの女王というのが現れた」
と、アンテローヌが倒れてから起こった出来事を説明した。
伯爵領がアンデッドで溢れてしまったが、トラディション伯爵は、この王国の悪の元締めみたいな奴なので、大掃除が出来てよかったのではないかと思っている。
伯爵領の領民には被害が出ていないし、多くの戦死者が出たのは、主にランズリード侯爵家との戦争のせいで、俺の責任は少ない筈だ。
リッチのフィアが勝手に殺してしまった大勢の兵隊がいたが、これも、伯爵と侯爵の戦争の一部だから仕方がない。
伯爵本人とその一族と、城の重鎮がほぼ殺されたらしいが、これは、俺には関係がない。
冥界から来たという、穢れの女王の仕業だからな。
この後、アンデッドになった伯爵や穢れの女王をどうするかは、この王国の王家や貴族達の仕事であって、俺が口を挟む筋合いのものじゃない。
さて、テレナから受けた依頼については、伯爵が攫った子供達を2回も保護して、ランズリード侯爵に引き渡しているし、成功の裡に終えたといって良いはずだ。
伯爵がいなくなっても、この王国の子供の誘拐組織は、まだ健在だろうから、そういった組織の一つ一つを潰していかないといけない。それが、俺のこれからやるべきことだ。そんな風に、気持ちの整理がついた。




