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話しかけてきた(二回目)

 結局、あの日は最後にツーショットを要求されて桜坂は帰ってくれた。

 あれからずっと顔が赤かったような気もするが、特に体調に問題はないらしい。

 問題があるとすれば、一緒に買い物へ出掛けた多々良さんがずっと不満気そうだったことだ。その証拠に、買いたかったアイラインを買わせてもらえず、ずっと荷物持ち。姉さんと一緒に買い物をしている気分であった。


 そして、一方でクラスの皆は親睦を深めるためにカラオケ大会だったそうな。

 これをきっかけに皆が仲良くなり、俺だけがクラスで浮かないことを切に願おう。


「ねー、久遠……あんた、昨日カラオケすっぽかしてどこに行ってた?」

「いひゃいいひゃい、ゆかちゃんいひゃい……!」


 そんなことを思いながら登校してくると、教室では何やら桜坂が幾田に頬を引っ張られていた。

 会話を前からしっかり聞いていたわけではないが、どうやら昨日のカラオケに行かなかったことが原因らしい……っていうか、黙って抜けたのか。


「あんた、何も言わないで抜けたらどこに行ったか心配になるでしょ?」

「そ、それは……言ったら怒られそうだもん」

「ってことは、まさか───」

「えぇ、一人で行ったみたいですね……yukiの撮影現場に。私も行きたかったです」

「よし、罰決定」

「あっ、ごめんゆかちゃん、《《彼来ちゃったから》》ちょっと頬っぺ抓るのやめてぎゃぁぁぁぁぁぁ!」


 なるほど、昨日桜坂は無断で欠席をしたのか。

 そりゃ、事前にキャンセルの連絡もせずに欠席すれば怒られもするだろう。


(相変わらず騒がしい人達なこって)


 とはいえ、騒がしいだけで俺には関係のないこと。

 俺は自分の席へと向かい、横にカバンをかける。


「……おはよ、竜胆」


 すると、タイミングよく正面に榊原が座ってくる。

 しかし、その表情はどこ疲弊していて───


「ランニングでもしてきたわけ?」

「……いや、さっきまでクラスの女の子達に絡まれてて」


 ケッ。


「昨日、カラオケに行ってから、クラスの女の子達に話しかけられ始めてさ……」


 ケッ。


「マウントをするなら他所でやれ」

「僕は嬉しくないんだよ……」


 このイケメンフェイスは、徹頭徹尾マウントをかましたいらしい。

 ここが世紀末の無法地帯であれば、即座に首を狩りに行動していたことだろう。


「んで、昨日のカラオケは楽しかったのか?」

「楽しかったといえば楽しかったのかな? まぁ、僕があんまり人が多いのは好きじゃないからあれだったけど、皆盛り上がっていたし」


 盛り上がっていたのなら、クラスメイト同士の親睦も深められたに違いない。

 そして、昨日行かなかった人間が孤立してしまう可能性も高い。

 俺だって、撮影がなければクラスメイトとの親睦を深めてボッチ回避を狙ったのに……いや、無理だな。そもそも俺もあんまり集団行動苦手だし。


「でも、やっぱり二人が一番目立ってたよ」


 そう言って、榊原は三大美少女達の方へと視線を向ける。

 確かに、こういう機会を使って三人と仲を深めようとする人間も多いだろう。特に男子辺りが。

 しかし、その割には三人の周囲には声をかけようとする生徒が見受けられない。

 相変わらず、三人で楽しそうなやり取りをしている光景だけだ。

 もしかしなくても、仲良くはなったがあの輪には中々入れない……という感じなのかもしれない。


「……まぁ、二人共鉄壁すぎて後半は男子が膝から崩れ落ちていたけど」

「なるほど」


 流石は、多くの告白を受けても色ついた話を聞かない三人だ。

 ガードが硬すぎて、男連中は総じて諦めざるを得なかったのだろう。


「いつになったら、あの三人の色恋話を聞けるのかね?」

「さぁ? 正直、男子達とも最低限仲良くしているだけで、特定の……っていう人はいないね」

「あの中の誰かがなんの業務連絡もなく話しかけてきたら大騒ぎだな」

「ネットニュース並だよ」


 当たり障りなく仲良くはしようとするものの、特定の異性とは仲良くしない。

 ついでに言うと、あの三人でほぼ全てを完結しているため、他の女子達とも一緒になって話しているのをあまり見かけなかった。

 まだ、クラスが変わって二ヶ月だというのもあるのだろう。今回のカラオケで同性と仲良くなれたのか気になるところだ。


「それで、そっちは昨日どうだったのさ? 桜坂さん、来た?」

「……来たよ。そんで、堂々と話しかけに来た」

「おー」


 おー、ではない。

 こっちは終始冷や汗が止まらなかったというのに。


「それと、やっぱりなんか勘づかれているっぽい」

「まぁ、まともに話したのは昨日が初めてだったもんね。もう少し話す機会があったら、気づかれるのも早かったかも。熱狂的なファンで身近な人だし」

「いーや、待て。勘づかれているっぽいだけで、まだ俺がyukiだとは気づかれてな───」


 そう言いかけた時だった。

 ふと、俺の隣に人影が現れる。


「ねぇ!」


 ビクッと、またしても俺の背中が跳ね上がる。

 恐る恐る横を向くと、そこには着崩した制服がどこか色っぽい、可愛らしい顔の少女の姿があった。


「な、なんでしょう……?」


 今話題に出したばっかりだからか、俺は思わず後退るようにして体を離してしまう。

 だが、桜坂はまるで「逃がさない」とでも言わんばかりに顔を近づけてきた。


「うんうん、やっぱり!」

「へ?」

「あのさ、竜胆くん───」


 そして、桜坂は声のボリュームを落とすことなく、真っ直ぐに俺に向けて言い放った。



「ちょっと今から、《《二人きり》》で話せないかな!?」



 明るく活発で、声のトーンが高い桜坂の声。

 それは残念なことに、横にいた榊原だけでなく周囲のクラスメイトの耳にまで届いてしまった。


『お、おいっ! 今の聞いたか!?』

『二人きり、話したい……まさか!?』

『男には興味がないって言っていたのに……ッ!』


 教室が一気にざわつき始めてしまった。

 それも当然。業務連絡でもなく、ただ「話したい」のだと、呼び出そうとしているのだから。

 客観的に、この言葉を受け取るのであれば告白するのだと思われても仕方ない。


 だけど、俺だけは───



「散開っ!」

「あっ!」


 その場からダッシュで逃げ出した。

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