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昼食に混ざってきた三大美少女

 もちろん、ホームルームをサボったことによって担任の先生から説教をいただいてしまった。

 あとから教室に戻るとすでに桜坂が怒られていて、シレっと席に座ろうとしたら一緒に並ばされて怒られた。

 こちらは巻き込まれ事故でサボることになってしまったというのに、まったく理不尽な世の中である。

 加えて、説教を受けている最中に桜坂が「怒られてやんのー♪」と、何故か上機嫌だったのが不思議だ。彼女にとって、yukiと会えることはそれほどまでに嬉しいことだったのだろうか?


 結局、今日中に反省文を提出しろと言われ、授業の合間に黙々と書き続けているとあっという間に昼休憩の時間となった―――


「竜胆くん、一緒にご飯食べよー!」


 そして、休憩のチャイムが鳴ってすぐのこと。

 桜坂が真っ先に弁当箱を片手に持って俺の席へとやって来た。

 無論、今まで異性と距離を詰めてこなかった桜坂が自ら男子と「ご飯を食べたい」と言ったのは初めて。うちの学校は学食というものがないので基本的に購買のパンか自前で用意した弁当が普通。

 屋上も風が強いためにご飯を食べるスポットとしては不向き。外は虫が発生してしまう等、色々な理由であまり生徒に選ばれない。

 故に、大半の生徒は各々の教室で昼食を取ることが多いのだが……おかげで、今の活発でボリュームの大きい発言は大半のクラスメイトの耳に届いてしまった。


『お、おいっ! また竜胆かよ!?』

『一体、あいつの何がいいんだ!?』

『特筆すべきものがない平凡な顔のはずなのに!』


 こらこらこら。

 メイクしてお前らの前に立ってやろうか? 言っておくが、女装すればお前らよりかは特筆すべきものがあるぞ。


 とはいえ―――


「珍しいね、桜坂さんがお誘いするなんて」


 対面で弁当を広げようとしていた榊原が口にする。


「うんっ、竜胆くんとはお友達になったからねぇ」


 そして、こちらは有無を言わさず机を俺達へとくっ付けてきた。

 今から俺が「嫌だ」と言ったら、この子はどうするつもりなのだろうか? 友達認定もまだこちらはしていないというのに。


「っていうか、いつも楪と幾田と一緒に飯食ってるだろ? そっちはいいのか?」

「おーるおっけー、二人には「どうしても竜胆くんとご飯食べたい!」って言ってきたから!」

『『『『『(ざわッ!)』』』』』

「君は世間体という言葉について考えたことはないのか?」


 何故、主語を抜いて意味深な言葉をつくるのだろう?

 あと、もう少しボリュームを落としてくれないと周囲に聞こえてしまうから控えてほしい。


「あ、榊原くんのお弁当美味しそうだね。自作?」

「一応ね、両親が家出るの早いから。といっても、ほとんどが冷凍だけど」

「冷凍でもいいじゃん! 私、朝起きれないからちゃんと作ってるの偉いなーって思う」


 辟易している俺を他所に、榊原の弁当箱を覗き込みながら談笑が始まった。

 もう一緒に食べることは確定らしい。今から席を外して一人で食べる……なんてことも考えたが、それは流石に失礼だろう。


(しかし……)


 こうして傍から見ていると、二人は本当に絵になる。

 甚だ不本意で憎たらしいが、榊原は爽やかイケメンといった感じで顔が整っているし、桜坂は見た目こそギャルいものの愛嬌のある可愛らしい顔をしている。

 お似合い、というのは正に二人のことをいうのだろう。メイクもしていない今の俺だと、圧倒的に場違いな気がする。


「なぁ」

「ん?」

「どうしたの、竜胆くん?」

「二人ってお似合いだよな」

「はい?」

「竜胆くん、おもしろくない冗談だよ」


 何故だろう、両者照れを一切感じさせない真顔で返されてしまった。


「っていうか、竜胆くんもお弁当なんだね! どこの冷凍食品?」

「なんで榊原が自作に見えて俺が冷凍なんだよ」


 そんなに冷凍感が出ているのだろうか?

 これでも、姉さんの分を作るのと一緒に自分で作ったんだが。


「手作りのクオリティ、そんなに低そうに見えるのか」

「あっ、いやごめんっ! 今の話の流れ的に竜胆くんも冷凍なのかなーって! でも、竜胆くん……それ、手作りなの?」

「手作りじゃないと姉さんが怒るしな」

「あはは……楓さんだったら言いそうだよね」


 うちの姉さんは何故か手作りにこだわる割には自分で作ろうとしない。

 いつぞやの「ゆうくんの手作りじゃないとやーだー!」という発言と駄々をこねられた姿が今でも思い出せる。大学生になってお金も稼いでいるというのに、どうして弟の手料理を食べたがるのか未だに不思議だ。


「へぇー、竜胆くんって料理できたんだ……って、あれ? 榊原くんも竜胆くんのお姉さんのこと知ってるの?」

「うん、一応中学時代からの付き合いだから」

「っていうことは、榊原くんも竜胆くんさんの妹がyukiさんだって知ってるの!?」

「うん?」


 しまった、そういえば榊原には何も言っていなかった。


「よ、よーしっ! せっかくなら桜坂には俺の作った自信作をご賞味させてやろうじゃないか!」


 ここで口裏を合わせようにも、桜坂が傍にいるため不可能。

 だから、俺は慌てて自分の弁当の中にある出汁巻きを取ってそのまま桜坂の弁当へと向けた。


「えっ……そんな、ここじゃ恥ずかしいよ」

「食べさせてやるってわけじゃねぇよ!?」


 箸の向きから考えて、弁当箱の中に入れようとしているのは明白なのに。

 そういうのは、将来できた彼氏さんにやってもらってほしいものだ。

 だから頬を染めて口を開けるな。あーんは絶対にしない。


「でも、竜胆くんの手料理は食べたーい!」

「あ、じゃあ僕ももらおうかな」

「おいっ、ちょ!? てめぇら取り過ぎだってお前らのも寄こせッ!」



 ―――なんだかんだ、この昼休憩は割かし騒がしかった気がする。

 それは桜坂の持ち前の明るさがすぐにこの輪に溶け込んでいたからだろう。

 おかげで、初めは突き刺さっていて居心地が悪かった視線も、チャイムが鳴る頃にはまったく気にならなかった。



 ♦️♦️♦️



(※奏視点)


 いつも通りの昼食。

 皆さんと同じように弁当を広げ、机を突き合わせ、友人と食事を取る。

 学業は学生の本分とは言いますが、こういう時間も存外私は気に入っております。

 ただ、いつもと違うのは……一人、今日は一緒の場所に姿が見えないということです。

 だからからか───


「先程から久遠さんの場所ばかりを見て、いかがなされましたか?」

「あ、ううん……特に何かあるってわけじゃないんだけど、久遠が自発的に男の方へ行くって珍しいなって」

「確かに、朝方も何やら二人でお話したいと飛び出して行ってしまいましたよね」

「だからちょっと、ね……」


 なるほど、だから気になるのでしょう。

 私も一年の頃から久遠さんとは仲良くさせてもらっておりますが、声をかけられたのならまだしも、彼女が自ら異性に声をかけに行くなど珍しいです。

 それこそ、ただの用事でしかあまり話しに行かないというのに───


(竜胆さん、ですか……)


 少し、興味が湧いてしまいますね。

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