6.彼女の過去(3)
かなと拓也の二人が、奈菜とようやく連絡がついた日の夜。
二人は大学から車で40分近く離れた大学病院にいた。
時刻は午後8時50分過ぎ。
平日の上に、面会時間終了の10分前ということもあって、病棟全体は割と静かだった。
そんな病棟の8階の中心にあるエレベーターから、二人は勢いよく飛び出す。
「先輩っ、どっち?」
「こっちだ、行くぞ」
この病院の建物は、エレベーターホールを中心にして東病棟と西病棟に分かれている。
かな達が向かうのは、東病棟の803号室。
二人は急いで菜奈がいるはずの病室の前まで来ると、かなは勢いよくその扉を横に開け放った。
「うわぁ!」
彼女の驚いた声が響く。
幸い個室ということもあって、他の患者には迷惑かけずに済んだようだが、居合わせた中年くらいの看護師さんがこちらに迷惑そうな視線を向けていた。
「えっと、面会の方達ですか?」
「はい、そうです…」
「隣の病室にも患者様がいなさるので、お静かにお願いしますね」
「す、すみませんでした」
かなと拓也は揃って頭を下げる。
看護師さんは「はぁ」と軽く溜息をつくと、
「もうすぐ面会時間終わるから、今日は軽く話すくらいでお願いします」
「分かりました」
拓也が言うと、看護師さんはとりあえずと言った様子で席を外す。
看護師さんなりの気遣いなのだろう。
扉が閉まるまでかなと拓也の二人は、看護師さんの姿を見送る。
「え、何で二人とも…」
二人が振り返ってみると、菜奈は少し面食らった様子だった。
今ここに二人がいる状況を、未だに飲み込めていないらしい。
「何でって、菜奈さんがここに入院したって、LINEくれたじゃないですか!」
かなはそう言いながら、少し興奮した様子で菜奈に詰め寄る。
「俺に病室教えてくれただろ?俺も心配だったから急いで来た」
拓也が今までの経緯を言うと、
「あはは、たっくんにも心配かけるなんて、私もまだまだだね」
菜奈は力無い口調で笑った。
そんな菜奈の様子に、
「笑い事じゃないですよ!」
「ご、ごめんなさい……」
ついマジな感じでかなは声が荒げた。
菜奈はシュンと項垂れるようにして謝る。
冷静さを取り戻して、バツが悪くなったかなは、
「いや、こっちこそ声荒げてごめんなさい……」
菜奈に頭を軽く下げながら謝った。
「でもどうして、急に入院なんて……」
かなのごく自然な疑問に菜奈は、
「えっと……」
相変わらずバツが悪そうな表情で口籠る。
「その……」
「はぁ……」
そんな菜奈の様子を見て呆れたのか、
「俺から言うか?」
拓也はフォローのつもりで、口籠る彼女にそう声をかけた。
「ううん、自分で言う」
菜奈は拓也の提案に首を横に振って、深い深呼吸をする。
そして、かなの顔を真っ直ぐ見据えた菜奈の口から出てきたのは、
「実は私、あんまり長く生きられないんだ」
あまりにも重い告白だった。
「どういう、意味ですか……」
突然の菜奈の告白に、かなは思わずそう聞き返えしていた。
もちろん、菜奈が言った言葉の意味そのものを理解できなかった訳ではない。
かなは奈菜が口にしたその事実を、言葉通りの意味として受け入れることが出来なかったのだ。
願わくば、ただの冗談であってほしい。
だが、そんなかなの切望は叶わないと言わんばかりに、菜奈は少し切なげな表情を見せると、
「そのままの意味だよ」
今にも掠れて消えそうな声で彼女は言った。
「あ、あはは……、冗談はやめてくださいよ……」
「戸石、流石にそれはないぞ」
取りなすように言う拓也の口調に、
「え、じゃあ……、ホントに……?」
かなは絞り出すように言うと、奈菜に確認の意味を込めた視線を向ける。
奈菜は少し無理のある笑みを浮かべながら、静かに頷いた。
「私、昔から心臓が弱くて、ちょくちょく入退院繰り返してたんだ」
奈菜はどこか遠い目をして窓の外に視線を向けると、
「高校卒業してからはずっと調子よかったんだけどなぁ……、ちょっと無茶しすぎてたみたい」
いつもの快活さが全く感じられない、気の抜けたテンションで言う。
哀れみや同情とも言えない、かな自身でさえ分からない感情が胸を締め付けた。
余命というあまりにも残酷なタイムリミットが、今も確実に近づいている。
それを受け入れ始めるような菜奈の物言いに、
「菜奈さん……」
かなはただ彼女の名前を呼ぶことしかできない。
「ごめんね、ずっと黙ってて」
奈菜は目の端に涙を浮かべて、優しい笑みを浮かべながら言う。
そんなまるで何かを悟ったかのような奈菜のその表情に、かなと拓也は何の言葉もかけることが出来なかった。
しばしの沈黙。
するとちょうどこのタイミングで、部屋の扉からノックの音が響いた。
「お二人さん、そろそろ」
扉は開かれることもなく、ドア越しに先ほどの看護師さんが声をかける。
部屋の中の状況を察しているのか、ここへ入って来ようとする様子はない。
「も、もうちょっとだ―――」
かなが言いかけた時、
「分かりました、今出ます」
拓也はドアのほうに身体を向けると、彼女に割って素直に答えた。
「えっ、ちょ―――」
かなが抗議しようと声を上げようとするが、拓也は彼女の肩に手を置いて制止する。
「お願いしますね」
看護師さんは一言そう言い残すと、病室を離れていったのか廊下に靴を蹴る音が遠くなっていった。
足音が聞こえなくなったところで、
「先輩!なんでっ!?」
かなは拓也に抗議の声を上げる。
「仕方ないだろ、また明日くればいい」
「なんでそんなに先輩は冷静なんですか?奈菜さんのことが心配じゃないんですか!?」
「かなちゃん、ここ、一応病室……」
声を荒げるかなに、奈菜は気づかわし気な様子で言う。
だが拓也は淡々と取り成すような口調のまま、
「俺だって心配だ。だけど、今は夜も遅いし、奈菜も無理はさせられないだろ?」
「……っ、そう、ですね……」
反論できない。
思わず口ごもったかなは、ここで「ふぅ……」と深呼吸すると、ようやく心を落ち着かせた。
「すみません、奈菜さん」
「ううん、全然大丈夫だよ。むしろこっちこそ心配かけちゃって、ごめんね」
奈菜は何処か控えめで申し訳なさそうな表情でかなに謝ると、
「たっくん、少しだけ二人で話せないかな?」
拓也の方に視線を向けて言う。
「分かった。戸石は先に行っててくれ」
「分かりました……」
雰囲気的に拓也の指示を断ることができなかったかなは、
「じゃあ、私はここで」
素直に彼の言葉に従って、扉に向かって踵を返した。
奈菜はそんな彼女の背中に、
「ごめんね……」
今にも消え入りそうな声でポツリと言う。
奈菜のその一言が聞こえたのか、かなは病室の扉に手をかけようとした瞬間、
「菜奈さん、絶対また明日来ますからね!」
振り向きながらそう言って、扉の外に出ていった。
かなが病室を出て行って数秒後。
奈菜と拓也の二人だけになった室内は、どこか重い空気が流れていた。
ずっと俯いたまま、今の表情が分からない彼女にどう声をかけたらいいのか。
そんなことを拓也が考えていると、
「いい子だよね、かなちゃん」
ポツリと呟くように菜奈が言った。
「そうだな」
拓也は肯定しながら、ベッドのすぐ脇に置かれている丸椅子に腰を下ろす。
「ねぇ、たっくん」
「なんだ?」
「もし、もしだよ?私がもうすぐで居なくなっちゃうって言ったら、たっくんはどう思う?」
「お前……」
今までで聞いたことのない菜奈の重たい口ぶりに、嫌な予感が一気に湧き上がる。
拓也は内心の不安を顔に出さないように堪えながら、菜奈がかなを退席させてまで伝えたかったであろう本題を切り出した。
「時間、言われたのか?」
「うん。持って1年、って言われた」
「っ……」
拓也の拳に思わず力が入る。
随分前から分かっていたこととはいえ、こうしてはっきり期限を言い渡されると、胸の奥が締め付けられたように苦しくなる。
何より今一番つらいはずの奈菜を気遣うどころか、行く当てもない鬱憤を堪えるのに必死な自分に、拓也はただ苛立ちを感じずにはいられなかった。
だけど今の拓也は、そんな奈菜に対して何をしてあげることもできない。
悔しさでいつの間にか拓也は、自分の唇をさらに強く噛み締めていた。
そんな拓也の気持ちに奈菜は察しがついたのか、
「あぁーあ、私もっと長くたっくん達と居たかったのになぁ」
何処か軽々しく、いつもの調子で言った。
精一杯の意地を張ったのだろう。
顔はこちらを向いておらず、窓の外に向けられている。
今夜は満月のせいか、窓から差し込んでくる月光が彼女を優しく、切なげに照らしていた。
拓也はそんな彼女の顔にまっすぐ目を向けて、
「菜奈、無理するな」
それまで行き場のなかった上半身の力みを、拓也は自然と奈菜に向けるように、彼女の背後から腕を回して抱き着いた。
「たっ、くん……?」
動揺と少しの嗚咽が混じったような声で、奈菜は拓也の名を呟く。
奈菜から香ってくるシャンプーの甘い香りと、弱々しさが増した華奢な身体から感じる体温が伝わってくるが、今の拓也はそんなことを気にしている余裕はない。
「もう、いいんだ。お前はよく頑張った」
らしくないことを言っていることは重々分かっていながら、拓也は泣くのを必死に堪えて言った。
「え、急にどうしちゃったの……?たっくんらしくないぞっ」
なおも強がって言う菜奈の身体から一旦離れて、拓也は優しく彼女の両肩に両手を置くと、彼女の身体を自分の正面に向けるように促す。
奈菜もこれに従って、ゆっくりと拓也の方に視線を向けてきた。
じっと真っ直ぐに、今にも泣きそうな菜奈の目線を受け止めながら、
「お前、ずっと泣くの我慢してたんだろ」
「っ……」
拓也のほぼ確信を持った一言に、菜奈は予想外だったのか驚いた顔を浮かべた。
「やっぱりたっくんには敵わないなぁ」
どこか降参したかのような口調で、あっけらかんと菜奈は言う。
「いつから気付いてたの?」
「あのLINE見た時から薄々」
「流石にそれは盛りすぎでしょ」
菜奈は冗談めかしたように軽く笑った。
だが拓也はそれを冗談にすることを許すこともないように、
「いつものお前なら、”また大学で”とか一言付け加えるだろ?」
「なんか、私よりも私のこと知ってるね、たっくん」
俯きながら奈菜は言うと、
―――ガバッ。
「っ……」
今度は急に奈菜の方から拓也に抱き着くと、彼のの胸の中で嗚咽を漏らし始めた。
「やっぱりね、ドナーが見つからないんだって」
「そう、なのか……」
「うん」
鼻を啜りながら、菜奈は短く肯定した。
「私、死にたくない……。皆ともっと、生きていきたいっ……」
拓也はただ彼女の背中に腕を回して、右手で彼女の頭をなでる。
あまりにも理不尽なタイムリミットは、今も確実に迫っている。
―――生きていきたい。
彼女―――、いや、拓也とかなにとっても当然のこの願いは、おそらくほぼ確実に叶わない。
もし神様がいるのだとしたら、よりにもよって何故、奈菜の時間を縮めてきたのだろうか?
結局のところ、これもただ運の巡り合わせということは拓也も理解しているつもりだ。
でもこれは、いくらなんでも不条理すぎる。
「そんなの……、俺だって、俺だってっ!」
同じ気持ちだ。
しかもよりによって、
「だって俺は、まだお前に―――」
拓也の言葉の続きに察しがついたのか、
「ダメっ」
奈菜は彼の言葉を強く遮った。
「なんだよ、まだ何も言ってねーだろ」
「だって多分、私もたっくんと同じだから……」
「お前……」
「だから、ダメだよ……」
「っ……」
奈菜は目の端に大きな雫を貯めて、優しく諭すように言った。
まるで今の彼女は、すべてを悟った天使のような顔をしていて、そんなことをあんな表情で言われては、拓也も言葉を続けることが出来ない。
結局拓也が続きを無理にでも言い切ったところで、彼女の口から同じ気持ちであることが返ってきたとしても、お互いにどうしようもないことくらいは分かっている。
冷静に考えれば告白するにはあまりにも場違いすぎるタイミングを、奈菜は空気を読んで静止してくれたのだ。
そんな奈菜の健気さを感じてしまった拓也は、ただ目頭を熱くしたまま視線を落とすことしかできなかった。
また数秒、切ない沈黙が流れる。
すると徐に奈菜は、
「ねえ、たっくん、私とひとつ、約束してくれないかな?」
どこかいつものあっけらかんとした口調で、拓也にそう投げかけていた。
拓也は彼女の問いかけに顔を上げる。
霞んだ視界の先にあったのは、目元をいつの間にかぐちゃぐちゃに濡らして、目尻は少し赤くなっている奈菜の顔だった。
今さら奈菜の願いを断ることはない。
どんな無茶な願いだって、叶えて見せる。
拓也は決死の表情で頷くと、奈菜は何処か久しい笑みを浮かべながら、
「私が居なくなっちゃうまでにさ、たっくんのやりたいこと見つけてよ」
「お前、こんな時まで……」
「じゃないと私さ、ホントにたっくんのこと振り回してばっかりになっちゃうじゃん?」
奈菜は鼻をすすって、服の裾で目元を拭う。そしていつもの口調を取り繕うようにして、
「だからせめて、たっくんがやりたいことくらい応援させてよ」
どこか彼女らしい最後の願いを再度口にした。
「はぁ……」
聞いて呆れる。
こんな時まで幼馴染の心配をしている彼女は、なんて純情な奴なのだろうか。
拓也はこのどうしようもない現実に対して、さらなる悔しさと同時に、彼女に余計な心配をさせている自分に対しての不甲斐なさが込みあがってくるのを感じてくる。
そんなことを考えながら、何も言えずに視線を下に向けたままの拓也に、
「たっくん……?」
奈菜は心配そうな様子で声をかけてきた。
だがここでようやく、拓也は決心する。
「分かった、必ずお前に伝える」
せめて奈菜に、『お前のおかげで、少しはマシな人間になったぞ』と感謝の言葉を言えるように。
『私が居てよかったんだ』と思って、最期を迎えてもらえるように。
自分のためにも、彼女のためにも。
そして彼女が居なくなった後の世界で、拓也の周りに居てくれるであろう人たちのためにも。
拓也はまず自分がどういう人間でありたいかを、そのために何をしたいのか答えを見つけ出して、奈菜に伝える決心を固めた。
そんな覚悟が籠った一言に奈菜は、
「うんっ、待ってるね」
優しく答えると、拓也の頭を優しく撫で始めた。
青白い月明かりが、二人をスポットライトのように照らしている。
この間二人の間に、言葉が交わされることはなかった。
十数秒が経った頃だろうか。
お互いにこの状況を心地よいと感じていた刹那、
「そろそろいいかしら?」
看護師さんの冷静な問いかけに、二人は勢いよく身体を離した。
「ごめんなさいっ!ほらたっくん、看護師さんのご迷惑になるから、早く帰った帰った!」
「お前が呼び止めたんだろ……」
ナチュラルに突き放す菜奈の調子に、少し理不尽を覚えながら拓也はボヤく。
だがかなが出て行ってから、そこそこ時間が経過している。
恐らく面会時間はとっくに過ぎてしまっているだろう。
拓也はようやく帰り支度をし始めると、
「たっくん、ありがと。おやすみ」
菜奈が和かな表情で言った。
「あぁ、お休み」
拓也は丸椅子から立ち上がって短く奈菜に返事を返すと、看護師さんと一緒に病室を後にした。
かなが先に病室を出て、病棟の1階で拓也を待つこと数十分。
自分以外の人の気配を全く感じない、エントランス脇のソファーに腰をかけて待っていると、ようやくエレベーターから拓也が降りてきた。
「先輩、遅い」
機嫌悪くかなが言うと、
「すまん、行くぞ」
短く拓也はいって、真っ直ぐ玄関に向かって歩き出す。
かなも彼に習って、一歩後ろをスタスタとついて歩きはじめた。
「もう9時過ぎだな。家まで送ってくぞ」
「うん、ありがと」
お互いにいつもよりも、何処かそっけないやりとり。
結局二人は無言のまま駐車場に向かって車に乗り込むと、拓也が運転する車は精算ゲートをスムーズに通過する。
病院の駐車場を出てから10分くらい過ぎても、二人の間には会話一つなかった。
車内はラジオもつけていないせいか、余計に車の走行音が響いている。
しばらくして車は、市内有数のスポーツ公園脇にある信号に捕まった。
車のエンジン音が少し静かになったこのタイミングで、ようやく先に口を開いたのはかなだった。
「ねぇ、先輩」
「なんだ?」
「菜奈さんの持病のこと、なんで教えてくれなかったの?」
「言う機会がなかったから」
努めて淡々と答える拓哉。
至極最もな答えだが、実のところ、そんなことはかなだってとっくに分かっている。
かなが不貞腐れているのは、そういうことでじゃない。
「どうせ機会があっても、はぐらかしてたくせに」
「……」
図星を突かれたのか、拓也は黙り込んだ。
かなは横目で彼の様子を確認すると、
「はぁ……」
深いため息をつく。
「すまない……」
ただ申し訳なさそうに誤った拓也に、かなは再び深いため息をつく。
まだまだ拓也の曖昧な態度に不満は拭い去れていないかなだったが、また彼も心の整理がついていないのは雰囲気からも察しがついていた。
辛いのは彼も同じなのだ。
別に拓也が悪いわけではないことを、一方的に責めるのは違うだろう。
「私こそ、ごめん……」
かなは理不尽なことを言ってしまったことに対して、自然と謝罪の言葉が口からついて出た。
またしばらく、沈黙が続く。
車は市街地を抜けて、真っ暗な海沿いを走っていた。
冬はいつも荒れている海原も、今日は二人の空気を読んだかのように静かで風もない。
別に古すぎるわけでもない軽自動車なのに、エンジン音だけがやたらとうるさく感じた。
すると徐に拓也は、
「少し、寄り道していかないか?」
そんな珍しい提案をしてくる。
かなは「えっ?」と小さく言いながら彼の顔を見ると、
「今更かもしれないけど、お前には一つ知ってほしいことがある」
いつもの淡々とした口調ながら、どこか腹が決まったような声音で拓也は言った。
そんな彼の提案にかなは、
「いいですよ」
二つ返事でそう返す。
拓也は彼女の返事だけ聞くと、既に寄り道する場所を決めていたのか、しばらく走った先にある道端の公園の駐車場に車を止めた。
「せっかくだし、外に出るぞ」
拓也はそう言ってシートベルトを外すと、エンジンを切ってそそくさと車を降りてしまった。
かなも仕方なしに、彼に習って外に出る。
時刻は夜の9時半前。
12月上旬の日本海は凍えそうなほど寒かった。