04話 侵食
因子は他に干渉する
これは因子を保有するすべての者が知っている。
しかし、これは先天的に因子を保有していた場合の話。
彼の場合はその例外になる、因子が人為的に投与されている。
その場合、因子の干渉対象となる「他」とは何か?
自分の周りのもの?
否、自分であり自分以外である。
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彼がそのことに気づくことは、先ほどまでの形勢をひっくり返すには十分すぎる要素だった。
「自己侵食」
僕は気づいた。この因子の本質、僕だからこそできること、反撃の一手に。
体の中の因子が細胞の一つ一つに流れるのを感じる。
彼の体に異変が現れる、一束の髪が紫に染まった。
狂種が動き出したが、さっきとは違い目で動きが追える、遅い。
目の前を自動迎撃機構が横切る。
僕は目の前に来たそれを殴るようにして勢いよく手を当てる。
手の形に合わせ手を覆うようにして、それは変形した。
さっきよりも数段遅い狂種に向けてその拳を放つ。
狂種は弾かれたかのように飛んだ。
さらに距離を詰め、一発さらにもう一発。
狂種が起き上がった。さっきよりもスピードを上げて応戦してくる。
こちらの攻撃を受けても、すぐに立ち上がりこちらに距離を詰めさせない。
こいつ、学習している。さっきまでのやり方じゃあ通じない。
ふいに頭に浮かんだインスピレーション。
それはあの時の刀を持った老人の攻撃、流れるような無駄のない連撃。
相手との距離を詰めるより速く、相手に反撃もとい思考の隙すらも与えない
今の僕ならばできるんじゃないか。
いや、やるんだ。必ず帰ると約束したはずだろ。
体中に因子が巡らせる。体が熱い、燃えそうだ。
それでも
ここでやらなくちゃ、僕がここで必ず因子を断ち切る。
目が紫の光を帯びる。
僕は地面を蹴る。さっきと同じくまずは直線、対応された。
こちらの力を受け流して反撃の体勢をとられる、さっきまでならこれで終わりだっただろう。
しかし
よける、先ほどまで頭のあったところ。
予想通りだ、頭に血が上るほど頭を狙ってくる。
思い切りのけぞるようにして、身をかわした。
そのまま足で蹴り上げる。
「グルッァァァァァァ」
狂種が苦悶の声を上げた。
まだだ、まだ終わらない。
低い体勢から地面を再度蹴る。あの老人のように僕は武器を使いこなすはできない。
だからこそ、自分の体を武器とする。あの老人の攻撃、剣術、剣の動きを自らの体で再現する。
縦横無尽に倉庫の中を駆けまわる一筋の紫、その光の筋は数を増していく。
そのうちの一つが狂種に衝突した。狂種が弾かれる、その先でまた弾かれる。
その間隔がだんだんと短くなる、数多もの方向からあたる攻撃に狂種は徐々に対応ができなくなる。
狂種のその隙を彼は見逃さない。
渾身の一撃を打ち込む。
「連」
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最後の一発を叩きこんだ後、狂種は動かなくなった。
恐らく気を失っている。少しずつ顔色もよくなってきている。
あぁ、この人はもう大丈夫だ...
そう思った途端、頭が割れるような頭痛がして僕は気を失った。